第23話
祭りの片付けを終えた後、ai's cafeには疲れた様子の男女が三人いた。
「ねぇ、凪。ミカちゃんとタクミくん、恋人になったってさ」
「お、まじか。タクミくん、良い人そうだったもんなぁ。二人の雰囲気も合ってたし」
「うん。ミカちゃんは悩んでいたみたいだけど、うまく行って良かった」
「だね。ついに恋人ができたかぁ⋯⋯。あ、二人ともなんか飲む? 俺が用意するよ」
「本当? じゃあ、私は薬草茶(さっぱり)で」
「俺も同じにしようかな。あやめは紅茶が良い?」
「うん。今日はキーマンでお願いしようかな」
「あっ、キーマンだったら試飲用に買ったのが奥にあるから飲んでみて欲しいなぁ。高級なのだから美味しいと思うよ」
「すてき」
「じゃあ取ってくるわ」
そう言って男はいなくなった。
「失恋で落ち込んでいた子が、徐々に自分を取り戻して新しい恋人を見つける。本当に良かったって思うんだけれど、きっと寂しくなるよなぁ」
「⋯⋯ミカちゃんのこと?」
「うん。このお店って問題を抱えた人がゆっくりするために来ることが多いからね」
「だから、問題が解決されると来なくなる」
「うん。いまだに連絡を取ってくれる人はいるけれど、やっぱり辛い時に通ってたお店って元気になると足が遠のいちゃうよね。イメージの問題があるだろうし」
「そうだね」
「ミカちゃんと同時期によく来ていた人も、もうみんな来なくなっちゃったなぁ」
「常連が定期的に変わる店だよね」
「それぞれの人にとってはとっても良いことだけど、やっぱり寂しいなぁ。みんな元気にしているかな?」
「きっとみんなうまくやっているよ。自分の足で立って、健全に寄りかかる方法を覚えていったはずなんだから」
「うん。そうだよね⋯⋯。でも寂しいなぁ」
「よしよし」
「二人で何してんの?」
「あ、キーマンあった? いやぁ、ミカちゃんもだんだん来なくなっちゃうのかなぁってさ」
「あぁ、そうだねぇ。分からないけれど、こういう場合は来なくなることが多いよね」
「来なくなった後で、また戻ってくる人もたまにいるけどね」
「別の問題を抱えてね」
「相談所に来なくても緑川と話して元気になっていく人もいるよね」
「人生の休息のために立ち寄るカフェだよね」
「良いと思うんだけど⋯⋯でもなぁ」
「そんなカフェ、聞いたことないから私は良いと思うよ? きっとここにしかないと思う」
「そうだよねぇ⋯⋯。うん。今日はゆっくり休んで、明日からまたみんなにおいしいものを提供するとしますか!」
「そうそう。今日も頑張ったと思うよ。ほら、お茶ができたから飲もうよ」
「わーい」
「わーい」
そんなこんなで、人生の道に迷っていたミカは自分と向き合い、ゆっくりと前に進むことができるようになりました。
マスターはミカの成長を心から喜びながらも、ちょっぴり寂しい気持ちを抱いています。だけど、彼女にできることといえば、目の前に現れた人々に向けて丹精に作ったものを出すことだけです。その点において彼女に迷いはなく、きっとこんなことがこれからもたくさんあるのだと分かっています。
ミカは人生の大きな問題を一つ乗り越えました。だけど、この道はまだまだ続いていきます。
薬草茶が好きだった女の子がこれからどうなっていくのか、ちょっとだけ覗いて見てみましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます