第8話

「さてさて、気を取り直して。どうぞどうぞ『春期限定サクラコーヒー&ケーキセット』です!!」


 いつも通り……、いや、いつも以上に芝居がかって元気なマスターが飛び出して来た。


 ミカの目の前にコーヒーとケーキが置かれる。


「あっ、ついに完成したんですね!」


 そう言いながらケーキの方に目をやると、あまり見たことのない状態。上部にそぼろのようなものが乗っている……。


 カットされた面を見てみると大部分はピンク色、そこにかぼちゃの種やグリーンレーズンの緑が差している。マスターの話によると乾燥させたクランベリーやチェリーも入っているとのこと。しっとりとしていてとても美味しそうだ。


 ケーキをフォークで取り、一口食べてみる。

 

 さくほろ。


「んん!」


 ミカは驚いた。しっとりとしたスコーンのような食感で、上部のそぼろがこれまでになかったアクセントを与えてくる。ケーキの生地の部分もしっとりとしているが、パウンドケーキよりは微妙にかたい様子だろうか。


 そぼろと生地の二つの食感が調和しあっており、どんどん口に入れてしまいたくなる。


 甘さは控えめ。だけれど、ドライフルーツの芳醇さ、かぼちゃの種の香ばしさが備わっているため味わい深い。


 そしてコーヒー。サクラコーヒーのコク深くも軽さのある味をクラムケーキがより引き立てる。表面上はさっぱり軽いセットだが、食べ飲み進めていくうちに風味が重ねられていく気がする。


 これがマスターの、私たちの春……。


 うん……。いいかもしれない。最初は少数の草が生い茂っているだけだったはずなのに、毎日を過ごしていくうちに小さな変化が折り重なり情景を変えてゆく……。そしてあるとき開花とともに春の息吹が一斉に芽吹く。


 そんな生命の強さがここに込められている気がした。


 あっという間にケーキを平らげ、コーヒーを飲み干してしまったミカはとてもリラックスした気持ちになっていた。


 おいしい料理に、デザートに、コーヒー。


 心も口も軽くなるというものだ。


 ペラペラと二人でおしゃべりしているうちに勢いも増し、興も乗り、曖昧にしておきたかったことをついマスターに聞いてしまった。


「マスターとあの人ってどういう関係なんですか?」


 これから何ヶ月も、ミカはこの時この質問をしたことを後悔するのだった。

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