Ep.8:不協和音
【 暴力的な表現があります 】
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共同生活を始めてひと月程が過ぎた。
母親の方とは連絡が取れなかった。どうもスマホの電源が入っていないみたいで、メッセージだけは送信しているけど、いまだに連絡はない。
毎日、誰かが泊まってくれているので
みんなのサポートで僕の生活は一人でいた頃より充実している。主に炊事と雑事を行なってくれているのが大きい。勉強もわからないところを教えてもらえているので効率的に時間を使えている。
それでも問題がないわけじゃない。
毎月口座から引き落とされている事は確認できたけれど、これがいつまで納められるのかが目下の問題。
最悪の場合を考えて
学校の近くじゃなく、僕のうちの近所にしたのは少し遅くなっても迎えに行く事ができることが理由としては大きかった。
衣装が可愛いという理由で
◇
今日は週の中日。
学生の本分たる勉学に励んでいる訳ではないが教師に目をつけられない程度には真面目に取り組んでいるつもり。
最近では彼女達と過ごす事が多くてハーレム野郎の
面と向かって言う事もできない、そんな言葉に耳を貸すつもりはない。
ただ、厄介ごとは増えた。それは今日の午後にも起きた。
それは妬んだ男子からの呼び出し。
極力、一人にならないようにしていたのだけど、今日は一人で専門棟に移動している途中に呼び出しを受けた。
男子からの呼び出し。正直言ってめんどくさい。
「
呼び出されて開口一番に告げられた言葉がコレ。直接言ってくるだけマシだけど、この人数で囲まれるのは想定外だった。
僕の周りには六人の男子。上級生が混ざってるのは面白くない状況。
このうち二人は
つまり、まだ僕と
まあ、それは良いんだけど口々に僕を非難する言葉を吐き続けられるのは気分がいいもんじゃない。適当に流してキリのいいところで囲みの中から抜けようとしたんだけど肩を掴まれた。
「どこ行くんだよ!まだ、終わってないぞ!」
「離してください」
掴まれたその手の力は強く肩に痛みが走る。
体を捻り振り払おうと試みたが、僕より体格もいいその先輩の手を振り払う事ができなかった。
「お前、抵抗したな。それならこれは正当防衛だな」
理屈に合わないことを言って歪な笑いを浮かべたその上級生は僕の腹を殴りつけてきた。
痛みのあまり胃酸と共に呻き声が口から溢れた。
「汚いな」
そう言って別の男子が僕を床に押さえつける。
それからチャイムが鳴る前まで暴行を受けた。
去り際に捨て台詞を残してそいつらは去っていった。
「これに懲りたら分を弁えろよ」
喧しいわ、一人で何もできない奴らが。
流石にこのまま授業を受ける気にならず、保健室へと向かう。
保健室にいた男性養護教諭に僕は六人から暴行を受けたことを伝えたうえで治療を受けた。裂傷はなく打撲ばかりだったので湿布を貼ってもらった。いやらしい事にアイツらは見えるところには手を出していない。
「原因はなんだと思う?」
「僕の周りに女性の友人が集まっている事が気に入らないんじゃないですか?」
あの六人が僕に突っかかってくる理由なんてそれ以外に考えられない。
「それで
これ、告発しても余計にエスカレートするパターンだよな。
問題は僕が黙っている事でも同じことになるということ。
「相手の名前は分かるのか?」
「いえ、わかりません」
結局、僕は養護教諭の助力を断った。理由としては彼らが教諭に注意をされる事で僕への暴行がエスカレートする事が容易に想像できるからだと伝えた。
養護教諭の説得は困難を極めたが、もし次があれば(十中八九あると踏んでいる)証拠になるものを手に入れると約束をした。
納得はしていないようだが僕は痛みを理由にその話を打ち切った。
僕はベットに横になっているうちにそのまま眠ってしまった。
目が覚めると放課後になっていた。
養護教諭の姿はなく、痛む身体を起こし保健室を後にして、荷物を取りに教室に戻る事にする。
生徒の数の少なさを考えるとホームルームが終わってから、それなりに時間が過ぎている事が推測できた。スマホを取り出して時間を確認すると16時前。そして、みんなからの通知が沢山きていた。
「心配かけちゃったな……」
僕のことを心配してくれる彼女達の気持ちが嬉しかった。
多分、四人は一緒にいると思うから一番最後にメッセージを送ってきていた
胸騒ぎがした。
今までの
手が離せない状況という事もあるだろうけど、そうは思えず教室まで廊下を走る。教室が近づくにつれて男女の口論が聞こえてくる。
教室の中から聞こえてくるのは彼女達とあの六人の声。
「汚い手を離せ!」
怒気を含んだ
その光景が目に入った瞬間、僕は考えるより先に行動に出た。
側にあった椅子を先輩の構えるスマホに向けて投げつけ、
鈍い音がして呻いていたが、そのまま
「先生を呼んできて!」
それだけをお願いして僕は次の椅子を掴み、体制を立て直そうとしていた主犯格と思われる先輩に投げつける。
混乱して抑える力の緩んだ隙を逃さず三人は拘束を振り解いた。
「
偶然の一撃で体制を崩して机を巻き込んで倒れる。そっちに意識がそれた時、主犯格の先輩が動き出す。
「
マウントを取られ数発殴られたところで教室に数人の教諭が入ってきた。
僕の上から引き剥がされた上級生は『コイツが生意気だからシメてた』と言い逃れをしていたが、彼女達の証言と自分が撮っていた動画によって逃れることができない状況になった。
六人の中で一番重傷を負ったのは僕に椅子で腕を殴られた男子、彼の腕は折れていた。その次は
六人は教諭に連れて行かれ、僕は保健室に逆戻りする。
僕から離れようとしない
20時過ぎには
「
「うん、
「わかったから」
結局僕は養護教諭により、
養護教諭は
僕がもう少し遅ければ彼女の心には消えない傷が刻まれていたかもしれない。
そう考えると恐ろしくなる。
彼女はそのあり得たかもしれない状況に思い至ったのか、男性と二人になる状況を恐れているんだろうと思う。
養護教諭は僕に向かって去り際に一言残していった。
「理由はどうあれ、相手に怪我をさせているから、なんらかの処罰があると思っていてくれ」
「それはっ!」
声を上げようとした
そんな僕を見て、今度こそ養護教諭は病室から出ていった。
間違いなく心配をかけていると思うから、連絡は大事だろう。
連絡のために
僕がもっと上手く立ち回れていれば、彼女達にこんな思いをさせずに済んだんだろうか?考えてもその答えは出ない。無力感だけが胸の中に渦巻く。
◇
彼にまた助けられた。
今回は前の痴漢にあった時よりも怖かった。
男子の力で腕をとられ、
私に向かって下卑た笑みを浮かべ、手を伸ばしてくる男子。その光景をスマホを構えて撮っている上級生。彼らの発言からこの後、私をどうするつもりなのかが伝わってきた。ここで私を辱めるつもりだ。
それでも抗う事ができない状況に絶望すると身体から力が抜けた。心が折れたんだと思う。抑えられていた腕が解放され身体を引き寄せられた時、
その後は彼の指示に従って教諭を呼びに震える足で走った。
教諭を連れて戻ってきた時、
そこからは取り乱してしまってハッキリとは覚えていないけど、彼が大きな怪我をしてないと分かって安心した。
養護教諭から家まで送るとの提案を受けたけど、今、彼と離れる気にはなれず、父親が迎えに来ると嘘をついた。
彼から離れたくない気持ちもあったけど、男性と二人っきりになる事が怖いと感じる気持ちも大きかった。
ふうっと大きく息を吐く。
「お母さんにも連絡しないと……」
『今日、友達のところに泊まります』
それだけ送信する。
いつものように既読がつく事はない。
忙しくしているお母さんはすぐにメッセージを確認する事もなければ、殆ど返信を返してきた事がない。それでも、連絡の義務は果たした。
病室に戻ると
私を助けてくれた優しい彼に、人を傷つけさせてしまった事が心苦しい。けれど、同時に私を助けてくれたのが彼だということに喜びも感じていた。こんなふうに感じている私、おかしくなったのかな?
彼の頬を撫で、寄り添って胸に耳をつける。穏やかに鼓動を刻む心音に心が落ち着いてゆく。
「
聞く者のいない病室に私の想いが溶けていった。
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