Ep.7:共同生活?それとも同居?同棲?

 鴨嶋かもしまさんを僕の部屋に保護した翌日。

 僕ら四人は揃って学校をサボった。罪悪感を覚えはしたけど不足しているものを買いに行くためには仕方がなかった。そう思うことにした。

 昨晩のうちに愛香あいかさんとひびきさんにはその事を連絡ずみ。心配かけるからね。意外にもひびきさんが学校を休んで同行したいと言いだしたのでそれはお断りした。ちょっと駄々っ子みたいで可愛かったけど、放課後会う事で納得してもらった。


 そして今、別段ラノベでよく見るラッキースケベ展開もなく、料理番・愛美まなみさんの手による朝食をみんなで頂いていた。

 たっぷりマーガリンを塗ったトーストにハチミツを垂らしたもの、ベーコンエッグ、サラダ、コーンポタージュといったものがテーブルには並んでいた。

 今回も僕と花芽莉かがりさんは戦力外通知を受けて早々に後方に移動となったので、寝床の片付けや風呂掃除を分担して行って出来上がるのを待った。

 今日も美味しく頂きました。


「六人で食事とかテーブルはいいとして、クッション欲しいかも」

 花芽莉かがりさんの発言で、クッションが行き渡らない事を思い出す。

「今日、一緒に買いに行ったら」

「そだな〜」

 食器を流しに持っていきながらそんな会話を花芽莉かがりさんと愛美まなみさんがしていた。

「買う物のリスト書いていこうよ」

「そうだね、その方が買い忘れもないだろうし」

 僕と鴨嶋かもしまさんはリストの作成に取り掛かる。

 なお、花芽莉かがりさんは食器洗いには参加していない。

 身長的(それと大きなお胸が邪魔をして)に洗い物が困難なため、暗黙のうちに決まった。流しに押し付けられ形の変わったお胸、そこに水がかかり透ける衣服、本人は慌てる僕の反応を面白がっているけど満場一致で洗い物担当から外された。

 食器洗いを終えた愛美まなみさんが最後にテーブルにつきリストを確認してゆく。

 今回、個人的に使う物はそれぞれがお金を出し、共有の物は折半する事にしている。鴨嶋かもしまさんも短期のバイトで稼いだお金が少しはあると言っていたので高い物を買わなければ大丈夫だと思う。

「なあ、恭一きょういち〜、クッション私が買ってもいい?」

「いいですけど?なんで?」

「これ、これ、これ欲しいなと思って!」

 スマホの画面には三角形をしたビーズ座布団。お値段は……、たっか!諭吉さんが飛んでゆく!?

「お高く無いですか!?」

「触り心地もいいんだぜ」

 ビシッとキメ顔でそんな事を言われても……

「あ〜、それな、触り心地よかったなあ」

「うん、お店にあるのついつい触っちゃう」

 愛美まなみさんと鴨嶋かもしまさんも花芽莉かがりさんと同じ意見みたい。そんなに触り心地がいいのかなあ?(後にお店で思い知りました。とてもいい触り心地でした)

 一通りリストを作成、今回特に僕がお金を出すものは無さそうだったけど衣類収納のためにチェストを購入したいという意見があったのでそれはみんなで折半する事で納得してもらった。と言っても一人当たり二千ちょっとだけど。


 10時前に出かける用意を始める制服しか持ち合わせのなかった鴨嶋かもしまさんは愛美まなみさんの洋服を借りた。ゆったりとしたデザインの物を持ってきてくれていたので控えめな鴨嶋かもしまさんのお胸でもおかしくは見えない。これが昨日うちに来る前に愛美まなみさんが鴨嶋かもしまさんの体型について聞いてきた理由だったのかと僕は思い知った。

 借りた服の胸元を触り遠い目をしていた事は触れてはいけない。僕の為にも。

「みんな、忘れ物はない?」

 再度確認を取って僕たちは出かけることにした。


 午前中はチェストやクッションなどの大きなものを見てまわった。

 幸いな事に今日は配達の予定がある日という事で夕方には配達してもらえるようだ。予定通りにチェスト、花芽莉かがりさんの三角座布団を購入し配送の手配をした。

 昼食を挟んでからは鴨嶋かもしまさんの衣類を見に行った。僕は非常に肩身が狭かったが荷物持ちとしての役割は果たした。下着売り場は周りからの視線で非常に居心地が悪かった。

 一度、荷物を置きに部屋に戻る。その途中で鴨嶋かもしまさんはコインロッカーに預けていた荷物を取り出した。


 部屋に戻り荷物を置いた後ホムセンとドラッグストア、スーパーに向かう。

 ホムセンでは組み立て式のポールハンガーを購入。

 ドラッグストアではシャンプーなどの消耗品を購入。

 スーパーでは今日の晩御飯の買い出しと安く売っていた食器を購入した。

 結構な量の荷物になったけど、みんなで分担して持って帰ればどうという事もない。


 部屋に戻り、購入してきた物を片付けてゆく。

 いつの間に購入していたのか小物入れが人数分増えておりボディソープなんかが入って並べられていた。入浴時にはそれを持って入るようにと花芽莉かがりさんから指示があった。

 同じように洗面台の扉を開けるとその中にコップと歯磨き粉、歯ブラシがセットになって並んでいた。

 こういう所、花芽莉かがりさんって収納上手だよなあ。上の方がそのままなのは仕方ないとして。(後日、折りたたみ収納可能な踏み台が増えていた)

 僕と愛美まなみさんが買ってきた食品や食器を片付けている間に鴨嶋かもしまさんは部屋の掃除をしてくれていた。充電式の掃除機とコロコロが主な掃除道具、あとは古くなったタオルと雑巾。

「きゃあ!?」

 リビングを掃除していた鴨嶋かもしまさんが奥の部屋(僕の寝室)で悲鳴をあげた。

鴨嶋かもしまさん!?」

 駆けつけた僕たちが見たものはの入った箱を前に顔を真っ赤にした鴨嶋かもしまさん。

「ぷっ、あはははっは〜、お腹痛い〜」

 笑い転げる花芽莉かがりさんと苦笑いを浮かべる愛美まなみさん。

 僕は居た堪れない気分になったよ。ベットの下から引っ張り出さないで!!

 このあと弁解した。必死になって弁解した。

 今回、それがテーブルの上に晒される事はなく、これ以上の追及は逃れられた。と思う。あとコイツの存在を知らないのはひびきさんだけ!?

 これはもう素直に言っておいた方が誤解を招かないんじゃないか?


 馬鹿な事を考えているうちにインターホンが鳴る。

 購入した商品を受け取り、四人でレイアウトを考える。

 元々、置いてある物が少ないから寝床のスペースを確保した上で使い勝手の良い位置に配置した。あとは、彼女たちに任せて僕はその場を離れた。

 下着を片付ける所に立ち会うのは気まずいだろう。

 君らは違うのか?違わない!?嘘、僕がおかしいの!?って、誰に言ってんだって話だ。動揺してるな僕。


 三人が片付けをしていると愛香あいかさんとひびきさんも授業を終えてやって来た。

 経緯は二人にも説明しているが初対面となるので鴨嶋かもしまさんと挨拶を交わす。

 六人もいると部屋の中が非常に狭い。

「そこの引き戸外すか」

 ボソリと呟いた愛美まなみさんの言葉。

 僕の住むこの部屋は奥の部屋とのダイニングの間が全面引き戸になっていてそれを取り除けばこの人数でも少しは余裕ができる。ただ、僕のプライバシーは無くなる。いや、それはまだいい、彼女たちとの間を遮る物がなくなると色々、見てはいけないものが見えてしまいそうで……、ほら、着替えの時とか……

 赤面する僕に気づいた花芽莉かがりさんの顔がニヤついた。

「よかったなぁ〜、恭一きょういち。うちらの着替えも見放題だぞ〜」

 すっごいニヤニヤしてる。待って、誤解だから!?

 ひびきさんは顔を朱らめて俯いてるし、鴨嶋かもしまさんは酷く複雑そうな表情を浮かべている。もうね、勘弁して欲しい!

花芽莉かがり、あんまり恭一きょういちを揶揄うなって」

 ズビシッと愛美まなみさんのデコピンが花芽莉かがりさんのおでこに見舞われた。

「まあ、ずっと開けとかなくてもみんなが来た時だけだったらいいだろ?」

「それもそうか」

 愛美まなみさんの言う通りだ。つい、妄想してしまったよ。

「私たちも着替え持ってこようね」

「うん」

 愛香あいかさんとひびきさんも着替えを持ち込むつもりみたい。

 まあ、僕としては家事もやってもらってるし、そのくらいの事は別に良いかと思ってるんだけど。ん、鴨嶋かもしまさんがあっけにとられてる?

「みんな、すごい馴染んでる……」

鴨嶋かもしまさんもみんなとやっていけそう?」

 少しだけ不安があった。四人とは学校も同じだけど、鴨嶋かもしまさんは違うからもしかしたら無理をしてるんじゃないか?その疑問が口をついてでた。

恭一きょういち、いい加減、静吏しずりの事、名前で呼びなよ〜」

「そうだよ、一人だけ苗字で呼んだらダメだよ〜」

「だな」「うん」

「ありがとう、みんな……」

鴨嶋かもしまさんもそれでいい?」

「うん、私も恭一きょういちくんって呼ぶから」

 心なしか照れているようにも見えるけど、まあいいか。


「さて、みんな揃った事だしご飯の用意をしようか?」

「今日はなに〜」

 ガスコンロにかけられていたお鍋の蓋を愛美まなみさんが開ける。

 部屋の中にカレーの匂いが広がる。

「昨日のうちに作っといたから味も染みてると思うよ。今、温めるからもう少し待ってて」

 人数が多い時はカレーが簡単でいいよね。愛美まなみさんのカレー美味しいから静吏しずりさんも気に入ってくれると良いけど。

愛香あいか、サラダ作るの手伝って。ひびきはスープの味をみて」

「は〜い」「うん」

 調理担当に指示を出し、分担して作業を行なってゆく。花芽莉かがりさんはテーブルを拭いている。

 僕は静吏しずりさんと一緒に食器の用意をする。

恭一きょういちくんとひびきさんは付き合ってるの?」

「ん?ひびきさんの彼氏のフリをした事はあるけど、それだけだよ」

「ふ〜ん、そうなんだ」

 静吏ひびきさんの後ろ姿に目をやる。彼女は今の関係をどう思っているんだろう?私がその立場だったらこの関係をどう思っただろうか?考えても仕方のないことを考える。これも身を置けるところができた安心感からくるものだろうか?彼と二人っきりで過ごさなくて良くなったのも安心感につながったんだろう。信用していなかった訳じゃない。けど、高校生になった彼が思春期の欲望に忠実に振る舞えば、私はそれを対価として彼に差し出し、受け入れただろうと思う。それしか私に差し出せるものはないから……


静吏しずりさん、どうしたの?難しい顔をして」

「えっ、うん。私たちのこの関係って同棲かなって思って……」

 本当は別のことを考えていた。でも、話を逸らすために違った答えを返した。

「う〜ん、僕は共同生活だと思うけど」

「何の話?」

 僕と静吏しずりさんの話に他のみんなも混ざってきた。

 テーブルに料理を並べて先ほどの話をみんなにすると、

 静吏しずりさんと花芽莉かがりさんは同棲、ひびきさんと、愛香あいかさんは同居、僕と愛美まなみさんは共同生活という認識だという事がわかった。

 静吏しずりさんと花芽莉かがりさんには共同生活だということを念押しした。その光景を見て他のみんなは笑っていたけど、認識の確認は重要だと思う。気不味くならないためにも確認できて良かった。


 食事を終えて、花芽莉かがりさんと愛香あいかさん、ひびきさんは帰宅することになった。

 今日も愛美まなみさんはお泊まり。

 込み入った事は聞いてないけど、放任されているから気にするなとの事。

 僕と静吏しずりさんも二人っきりにならずにすむので助かってる。


 この奇妙な共同生活もどうにか二日目を終えそうだ。

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