Ep.6:恭一のいない間に

 恭一きょういちがコンビニに出かけた後、残った3人はというと。

「それで、静吏しずりの足りないものってなに?」

「……着るもの」

「ああ、ショーツにブラ」

 見る見るうちに静吏しずりの顔が紅くなる。

「それなら、今から洗濯すれば良くない?ここの、乾燥までしてくれるから、恭一きょういち、帰って来るまでに終わるって」

「そうだな、ほら静吏しずり、脱いで脱いで」

「ええ〜っ!?」

 静吏しずりはあっという間に花芽莉かがりに剥かれた。

 スッポンポンにされた挙句、お風呂に連行された。なぜか2人と共に。

 脱衣所で二人も着ているモノを脱ぎ、洗濯機に放り込む。

 洗剤も柔軟剤も自動投入の便利なコイツはスイッチを押すだけで後はお任せ。

「それで、静吏しずり恭一きょういちのどこに惚れたの?」

 あまりに直球な愛美まなみの言葉。

「私と、かすりくんはそんなんじゃないのに……」

「その気がない男のところに泊まりにくる?」

「それな!」

 そんなつもりは———、少しなら、いやいや、ナイナイ。

 髪を洗っている愛美まなみさんの指摘にドキンと心臓が跳ねた。

「胸の大きさでは圧倒してるのに両方からのこの圧迫感……もう少し、身長が欲しい……」

花芽莉かがりさん、あなたのアイデンティティは身長じゃないよ!!うらやまけしからんそのお胸だよ!!」

 二人は突然叫んだ静吏しずりに驚きを露わにする。

「あっ!?いや、あの、心の声が……」

 慌てふためく静吏しずりを見て二人は顔を見合わせて吹き出した。

静吏しずりって、結構面白いヤツなんだな」

「そっちのがいいな」

 誰からとなく笑い合う。


 お風呂からあがりお肌のお手入れをしていると静吏しずりは疑問に思っていた事を花芽莉かがりに尋ねた。

花芽莉かがりは、その、経験があるの?」

「経験?ああ、セック——」

「わあ〜っ!?そう、それ!?」

 静吏しずりは慌てて花芽莉かがりの口を両手で塞ぐ。

愛美まなみは?」

 真っ赤な顔をした静吏しずり愛美まなみにも尋ねた。

「ぷっふぁ!、苦しいって、静吏しずり

「ごめん、慌てちゃって」

 三人共、性に興味を示す年頃。まして、花芽莉かがりの態度は経験済みを匂わすもの。それならば、折角だし聞いてみたい。

「私は経験ないよ」とは、愛美まなみの談。

 二人の視線は花芽莉かがりに集中する。

「私は———」

 どちらともなくゴクリと息を呑む。

「あるよ。でも、いい思い出じゃないなぁ」

 いつもの花芽莉かがりからは伺えない、沈んだ声。

「聞いても、いいの?」

 静吏しずりは問わずにはいられなかった。

 愛美まなみは口をつぐみ、判断を花芽莉かがりに委ねる。


「そうだね。知っててもらおうかな———」

 私も中学の時はこんなじゃなくて髪も黒くて地味だったんだ。

 そんな私に告白してきたヤツが相手なんだけど。

 正直、浮かれてたんだと思う。乞われるままにスルまでは、馬鹿やったりして楽しかったさ。

 それが、シタ後からはそればかりになってきた。

 彼女としては不満が溜まる。

 今までのように遊びに行って楽しもうって言っても聞かなくなってな。それで別れを切り出したらキレだしてその時に助けてくれたのが愛美まなみだった。

 そいつとは別れられたけどそれからは誰かと付き合うのが億劫になってきた。

 周りの子達が上手くいっていれば嬉しいけど、そうじゃないと苦しくなった。

 それでも、高校になった頃には幾分マシになっていた。

 だから、無害な恭一きょういちの側は安心できた。

 アイツは恋をする事を忌避している様に見える。

 だからこそ、愛香あいかに恋愛を知ってもらうのに最適だと思った。恭一きょういちなら、アイツの様にはならないだろうと思っていたし、側にいれば愛香あいかを私ら二人で守ってやれると思っていたからな。

 まあ、私の初体験は苦い思い出になったけど、お前らはそうならない様にな。


 そう締め括って、花芽莉かがりは二人を見た。

 愛美まなみは当時の事を思っているのか顔を顰め、静吏しずりは複雑な表情を浮かべる。

 周りのみんなが幸せそうに、さもヤってる事が当たり前、そう言っていた事がホントはそうでない事もあると花芽莉かがりは告げてきた。

 静吏かすりくんに恋はしていない。昔も今も都合よく利用しようとしていた。縋り付ける相手が欲しかった。現状から逃げ出したかった。多分、かすりくんが求めてくれば対価だと割り切って受け入れていただろう。それだけしか渡せるものがない。なんて歪んだ思考に捉われていたんだろう……

 この事に気づけただけでもこの二人と知り合えて良かった。

 私は二人にその事を告げた。二人はかすりくんにそのことを伝えるなと釘を刺してきた。私もそのつもりがない事を約束した。


 静吏は気分を変えるように話題を変える。

 二人の事、学校でのかすりくんの事、ここにいないかすりくんの近くにいる他の二人の事。


 そんな話をしているうちにかすりくんが帰ってきた。

「ただいま〜」

「お帰り〜」「お帰り」「お帰りなさい」

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