Ep.5:鴨嶋 静吏の場合
今までになく平穏に過ごせている。不本意な『ハーレム野郎』の誹りは受けていて、嫌な視線に晒されているが実害は出ていない。
週のうち何日かは皆んながうちに来て一緒にご飯を食べたり、お喋りしたりして自由に過ごしている。
他の人が見れば溜まり場と言われそうだけど、僕は今の状況は嫌じゃない。
何かを強要されている訳じゃないし、美味しいご飯も作ってくれる。
好き勝手に寛いでいる感じ。
まあ、1DKに5人でいると結構狭いから彼女達との距離は近くなる。
この前のお泊まり会の時は深夜までホラー映画を観ていてソファーに僕と
振り返ってそれをみた
このソファー彼女達がうちに来るようになってから3人が買ったもの。
2人で座るには余裕があるけど3人だと窮屈な感じ。そう思っていた、この前までは。
うちに泊まるにあたって、ベットと来客用の布団一つしかない事を伝えておいたのだが彼女達は気にせずやって来て、ホラー映画を観終わるとソファーを展開し始めた。彼女達が買って来てうちに置いていったソファーはソファーベットだった。
あのタオルケットは洗濯してうちで片付けられている。他にも彼女達の洗顔用品、スキンケア用品、バス用品なんかも置いて帰った。『また、持ってくるとか荷物が増えるし、置いといた方がいいだろ』というのが
そんな普通と言えない高校生活を送っている僕だが、今日は久しぶりに1人で帰っている。
コンビニに寄っておにぎりとペットボトル飲料を購入する。
高校に近いこともあってうちの制服を着た生徒がそれなりの人数いる。
その中に何人か他所の制服を着た女子がいた。
僕はその中の1人の女子に見覚えがあった。
中学の時に彼女のふりをして欲しいと頼まれた女子、
彼女を一言で表すなら清楚美人。長い黒髪に凛とした立ち姿が美しい女子。
当時と比べると身長が伸び
わざわざ声をかけなくてもいいか、そう考えて僕はセルフレジに進む。
「
隣から呼びかけられた。
「ん?ああ、
「久しぶりだね」
「そうだね」
会計を済ませた僕は先にそこを離れる。
「それじゃあ、僕はこれで」
軽く手を上げてその場を去る。
「あっ、待って」
シャツの裾を掴まれた。
「少し……話、聞いてくれない?」
「……いいけど」
一先ずコンビニから出る。
「近くの公園でいい?」
行き先を彼女に確認する。
「……
「3駅先だよ」
3駅といっても家から学校まで20分かからない。
「じゃあ、あそこのカラオケに行かない?」
「聞かれたくない話?」
「……うん」
俯き首肯してくる。
その店は随分前からあって寂れているけど学生にも優しい料金となっている。
それに僕たちが中学の頃、遊びに来るならこっちに出てくることが多かった。
僕と
カラオケ店に入り受付で指定された部屋へ向かう。
部屋に入ってソファーに腰を下ろす。
僕の隣に
中学の時、クラスメイトがいる場所では自然とそうしていたから癖になってるんだろう。あえて指摘しないけど。
コンビニで買ってきたペットボトル飲料を取り出し一口飲む。
「じゃあ、聞いてくれる?」
硬い声で問いかけられた。
「うん」
「もう一度、ちゃんと私と付き合ってくれない?」
僕もその瞳を見つめ返す。
「本気じゃ、ない、よね」
「うちが再婚なのは知ってるよね———」
普段の
一番耳を疑ったのが、義父が
母親は離婚を考えているらしい。
家を出ようと思っているが金銭面の問題で出る事ができない。
ネットニュースでそういった被害にあった子供がいることは知っている。
でも、それが身近で起きようとしているとは思いもしなかった。
それで、僕にその話をしてどうしたいの?
「
「お母さんはあの人に逆らえないから……」
駄目だったのか……
「クラスメイトにもこんな事、言えなくて……仲がいい友達のところにも何日か泊めてもらったんだけどこんな話できなくて……」
「それで、バッタリ会った僕を頼って?」
「うん……
「あ〜、偽の関係だからね」
結構、追い詰められてるのかな、僕たちの関係はあくまで偽の恋人だったんだからね。間違わないように言っとかないと。
「その話を僕にするって事は、協力してほしい事があるの?」
「……
なんとなく察した……うちに泊まりたいのか?
「うん」
「暫くの間、私を泊めて、ほしいの……だめ?」
くっ、
思わず、頷いてしまったじゃないか!
「よかった〜」
すごく、ほっとしてるけど、いいの?本当にそれで!?
「僕に襲われるとか、考えない?」
「ううん、だって
「でも、あれから暫く経ってるし、高校生だよ、思春期の男子だよ」
僕の方が焦ってきた。
「私に経験がないと思う?」
「えっ!?」
「もしかして……」
ゴクリっと息を呑んでしまった。女子の方が進んでるっていうし。
「冗談だよ、私まだ、処女だし……」
小さくボショボショと呟いた言葉はかろうじて僕の耳に届いた。
二人の顔は耳まで紅く染まっていた。
「んんっ、親戚を頼ることはできないの?」
「うち、お母さんが親戚づきあいしてこなかったから、何処にいるかも、連絡先も分からないんだ。お父さんも私が小さい時に亡くなってるからお父さんの方も分からない……」
しゅんとして俯いちゃった。まいったなあ……
「わかった。とりあえず今日は泊めてあげる」
「ホント!」
「で、明日からの事を考えよう」
「うん。ありがとう……」
涙で頬を濡らしながらお礼を告げてくる。お礼を言われる事をしたんじゃない、僕は問題を先送りにしただけ。
「夕飯の材料を買ってかえる?それとも食べてかえる?」
気まずさを誤魔化すように話題を変える。
「それなら私がなんか作ろうか?泊めてもらう、お礼に」
涙を拭いながらそう言ってくれる。
「じゃあ、スーパーに寄って帰ろうか?」
「うん、何か食べたいもの、ある?」
「う〜ん……、オムライス、食べたい」
「フワトロ?薄焼き?どっちがいい?」
あ、両方作れるのかな?
「薄焼きの方で」
今日の気分は薄焼き卵の方です。
「うん、じゃあ、行こう」
荷物を片付けカラオケ店を後にした。
◇
僕のうちに
別にお持ち帰りしているわけじゃない。
そのついでにスマホを取り出し
「もしもし」
『どうした?』
「
『何かあったの?』
「うん、実は———」
僕は
沈黙が続く、考えているのだろう。
『
「うん、大丈夫」
『なら、準備して向かう』
「ありがとう」
『いいよ、後でな』
「うん」
これで、
食事の合間に
「
「その人は信用できる人」
「うん、
「女の人なんだ……」
沈んだ声?
「ん?」
「ううん、なんでもない」
気のせいかな?
「それで
「
ピンポ〜ン♪
「
インターホンがなり
「は〜い、ちょっと待ってくださ〜い」
扉を開けるとそこには
「
ニヤニヤとしている
「
「ちょぉ〜い!?無視すんなよぉ!可愛い〜っ
「揶揄ってくるからですよ、
玄関で賑やかに騒いでいる僕たち、あんまり騒ぎすぎるのも良くない。
「近所迷惑になるし、入って」
「は〜い、ただいま〜」「ただいま」
勝手知ったるなんとやら、ズンズン中へ入ってゆく。
「あっ、ばんわ〜、愛人で〜す」「ばんわっ」
「あ、愛人!?初めまして、中学の時、
ほら、動揺してる。
「
「は〜い、友達の
「料理番の
「料理番!?」
「あの〜、どちらかが
「は〜、いてっ」「もういいって!」
「ごめんね〜、
「いえ、大丈夫です」
「私ら、
「いえ、気にしてませんから」
冷蔵庫から作り置きのアイスティの入ったポットとコップを人数分持ってテーブルに着く。
「自己紹介も終わったみたいだし本題に入ろうか」
「私から話させてもらうね———」
「うちはな〜」
「不味いかな?」
「ちょっとね〜」
「
「う〜ん、うちは無理かな〜」
駄目か、いい考えだと思ったのに。
「ここじゃ、駄目なの
とんでもないこと言い出すなぁ、
「んんっ!?な、なんて!?」
「いや、ここに置いてあげたら?」
「いや、それは、流石に……」
「ああ、二人っきりになる事が気になるのか!この前は皆んないたし」
「この前!?」
あれ、
「この前、私らの他にあと2人ここに泊まったんだ」
「へ〜〜」
「なら、私が一緒にいてあげようか?」
「「「えっ!?」」」
「だからさ、私が一緒にいれば、2人っきりにならないしさ」
うん、言ってる事はわかる。けど、
「いやいや、
お〜、
「まあ、今日は泊まっていくつもりだからね」
「「「えっ!?」」」
「ん?」
「なら、私も泊まろかな〜」
「いいね♪」「「えっ!?」」
2人は納得しているようだけど僕は理解できてないからね!?
いや、僕だけじゃない
早速、泊まる準備を始めた2人。
ソファーベットを展開し片付けておいたタオルケットを出してくる。
それはもう自分の家であるかのように。
「か、
じとーっと僕の方を見ないで。
最近、家事の半分以上は
「べ、別に、僕たちは友達だし……」
「
「
「んなっ!?」
来客用の布団まで持ち出してきて敷かれてしまった。
ホント、手際がいいなぁ……
「
「えっ!?足りないもの?」
う〜んっと悩んで、顔を紅くして視線を泳がせた。
あ、これ僕が聞いたらダメなやつだ。
「ちょっと、コンビニまで行ってくるよ。みんなは何かいる?」
「ダッツが欲しい!!バニラの!」
「私、ナッツのやつ」
「えっ!?ええ〜!?」
「ほら
「それじゃぁ、ベリーとチーズの……」
うん、2人とも遠慮がない……普段お世話になってるからいいけどね。
「じゃあ、言ってくるね〜」
「は〜い、いってら〜」
「ゆっくりね〜」
「えっ!?あっ、いってらっしゃい?」
驚きを見せていた
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