Ep.3:新堂 愛美の場合

 数日前から俺ことかすり 恭一きょういちに友人ができた。別に友人がいなかった訳ではない。

 ギャルグループのうちの1人が俺に告白をしてきた。

 前回の嘘告から日が空いてなかった事とギャルと同じクラスの友人、明希あきから事前に情報リークがあった為、菅野すがの 愛香あいかの嘘告に対して『それで菅野すがのさんは罰ゲームの告白なんだよね?』と馬鹿正直に尋ねれば『うん?そうだよ』と返されたので『だったら一週間くらいかな?』と期限を決めてあげた。


 翌日にまた愛香あいかに呼び出されたのは疑問だったけど体育館裏に行ったら3人に土下座されたのには慌ててしまった。

 なんとか土下座はやめてもらったけど、僕の昔の事を知ったみたいで気まずい感じになったんだよね。

 3人の謝罪に対して気に病んで欲しくなかったし、見た目はギャルなのにいい人みたいだから『3人と友達になれないかな?』ってお願いしたんだよね。


 それで現在僕の部屋には3人のギャルがいた。

 いやもう友人なんだからギャルは失礼だな。


 菅野すがの 愛香あいかさん、今回僕に告白してきた子。

 肩までの長さの明るい茶髪、毛先が緩く巻いている。

 すこし目尻が下がった可愛らしい顔立ちに似合って柔らかい雰囲気。

 恋愛に対して初心な反応をしてたから元々おとなしい子なんだろうな。


 新堂しんどう 愛美まなみさん。

 金髪、ストレートロング、長身でグラビアモデルみたい。

 雰囲気が怖いと皆んなは避けているけど、目尻が上がったキリッとしたその目に整った顔立ちをしていればキツい印象を与える。

 でも、少し話しただけだけど2人の事を思いやれる優しいお姉さんの様な感じに見えた。


 相模原さがみはら 花芽莉かがりさん。

 茶髪、ミディアムボブ。3人の中で一番身長は低い上に細身。

 ロリギャル(失言)と言われそうなものだが、身長が伸びない分胸に集中してしまった様なアンバランスな体型をしている。

 意外にも3人を引っ張っていくリーダー的存在らしい。


 3人からは名前で呼んで欲しいと言われたので僕も名前で呼んでもらう事にした。

 たまたま話の流れで僕が一人暮らしをしている事を話したら花芽莉かがりさんが『ここ(体育館裏)でこうやっているとヤンキーに見えん?』と言いだした。『あははは』『それなぁ〜』と笑い合った後『じゃあ、恭一きょういちの家に行こう!』ということで今に至る。


 僕の部屋はそんなに物がない。

 1DKのDKにはローテーブルと座椅子が一つ、後はクッションが4つ。

 40インチのテレビとTV台の中にレコーダー、ゲーム機はない。

 ゲームはスマホで遊んでる。

 キッチンには買い揃えられた冷蔵庫や電子レンジ、炊飯器の他に調理器具なんかが多数あるけど使ってない物も多い。

 母さんセレクトのこれらのものは僕にはどう使うかわからない物もある。


「あんまりものがないんだなあ〜」

恭一きょういちは料理するの?」

「するけど、まだまだだね」

「ふ〜ん。作ってあげようか?…… 愛香あいかが」

「……ふえっ!?」

 部屋の中をキョロキョロと見回していた愛香あいかは、急に振られた愛美まなみからの発言にあたふたとしていた。

「本もないんだね」

「マンガ?」

「えっちなの隠してないかなあっと。やっぱり、奥の部屋に?手元にないと困るもんねぇ」

 ニヨニヨとした表情で僕を揶揄ってくる。

「えっちな……」

 顔を真っ赤にして呟いた言葉は全員の耳に届いており、みんなで愛香あいかを微笑ましく見てしまった。


 ちなみに俺の部屋に漫画や小説が無いのはタブレットで見てるからだ。

 これなら不意の来客に片付け損ねて慌てる事もない。

「まあ、愛香あいかが作るとキッチンがすごい事になるから私が作ってやるよ」

「もう、愛美まなみちゃん」

 ぷりぷりと怒っているけど側から見てると姉妹の戯れあいみたいだ。

恭一きょういち〜」

 僕の名前を呼んでニヤリとした表情を浮かべている。

 ちょっ、そこはダメ!

 ガチャリと扉を開けた花芽莉かがりさんは一目散にベットにダイブした。

 正確にはベットの下目がけて。


 その部屋には朝起きたままの乱れた布団と脱いだままの寝巻きがある。正直言って恥ずかしい。

「ちぇ〜っ、ここにも無い」

 ベットの下に頭を突っ込んだせいで髪の毛に埃をつけて出てくる花芽莉かがりさん。

恭一きょういち、これなに?」

 ベットの下には俺あての荷物。くっ、コイツの存在を忘れてた。

 送り主は姉の『かすり 梨里杏りりあ』の名前。

 送り状の品名には『電子部品』と書かれている。

 一度開封して中身は確認しているがそれは電子部品ではなかった。いや、ある意味電子部品か?

 ガサガサと箱を開けた花芽莉かがりさんはにちゃ〜とした笑みを向けてきた。

「ふ〜ん、こんなの持ってんだ」

 花芽莉かがりさんの手にはピンクローターと電気マッサージ器いわゆる電マの箱があった。

「弁解させて!それは姉さんが送りつけてきたの!ほら、未開封でしょ、未使用なの!」

 大きな声を出したことでキッチンから2人がやって来た。

 花芽莉かがりさんの手にあるパッケージを見て愛香あいかさんは顔を真っ赤にしてキッチンに戻り愛美まなみさんはニヤニヤした目を僕に向けてきた。

「誤解です!、姉さんの悪戯だからぁ〜!」


 今、テーブルの上には愛美まなみさんと愛香あいかさんが作ってくれた炒飯と作り置きしていたティーバックのアイスティが人数分とさっきのピンクローターと電マが箱から出されて置かれていた。

 なんだこの状況?

 愛香あいかさんはチラチラとその(意味深)を見ては顔を赤くし、2人は笑いを堪えている。

 僕?内心はあわあわしてるよ。でもね、どういう表情するのがいいのか分からなくて無表情になってるよ!


 なんとも気まずい状況の中、炒飯を口にする。

「お、美味しい」

「だろ、料理には自信があるんだ」

「私も愛美まなみちゃんに教えてもらってるんだ〜」

愛美まなみは私の自慢の嫁だからな」

「えっ!?」

「あ〜、そっちの趣味はないからな、誤解すんなよ恭一きょういち

「想像した?私と愛美まなみが、し・て・る・とこ♪」

「ばっ、っそ、そんな事……」

愛香あいか、片付けしよっか」

「うん」

 食器を持って2人がキッチンにいく。


 愛美まなみさんは(意味深)を指でツンツンと突きながら僕の顔を見てくる。

 なんとなく顔が熱を帯びている気がする。

 俯いている僕のそばに愛美まなみさんがやって来て、

「私が、使ってあげようか?」

 そう囁いて耳に息を吹きかけてきた。

 叫びそうになった自分の口を手で塞ぐ。

 愛美まなみさんの方を見ると強ばった表情で耳が赤くなっていた。

「お詫び、って訳じゃないけどな……」

 僕にだけ聞こえるように囁かれた。

愛美まなみさん、顔が赤いでよ」

 もう、ってなんだよ〜。頭を抱えて悶える僕を見て愛美まなみさんがお腹を押さえて笑っている。

「何、なに〜?」

「う〜ん、ナイショ」

 ぺろっと舌を出して2人に告げる。

「そっか〜、ナイショかぁ〜」

「ナイショならしょうがないね」

 僕が首を傾げていると花芽莉かがりさんが教えてくれる。

「私たちのや・く・そ・く、話せない事は無理に聞かない様にしてるの。まあ、困ってるんなら無理にでも聞くけど。今のはそんなんじゃないから聞かないの」

「そうなんだ、仲良くする秘訣?みたいなもの」

「あははは、それは分かんない」

「気づいたらそうしてたんだよ」

恭一きょういちもそうしてくれたら嬉しいかな」

「そうするよ」


 それから4人でたわいない話をして過ごしていると19時を過ぎていた。

「あ、そろそろ帰らないと……」

「そうだなあ、帰ろうか」

「帰る前に連絡先、交換しよう」

「うん、しよう」

恭一きょういち、スマホ出して〜」

「どうぞ」

 スマホを取り出し、3人と連絡先を交換する。


「帰るね〜」

「今日はありがとう、また明日」

 3人は手を振って俺の部屋から帰っていった。

 初めてうちに招いた友人は賑やかな温もりをもたらしてくれた。

 今は少し寂しい気持ちになってる。


「あ〜、楽しかった」

 愛美まなみさんが作ってくれた炒飯美味しかったなあ、そのおかげで家事の手間も省けたしなあ。

 後はシャワーを浴びてるうちに洗濯を済ます。奮発して乾燥機能付きの洗濯機を買ってくれたから手間は少ないんだけどね。

(後日、家電量販店でその値段を見て驚いた)


 浴室から出るとスマホに愛美まなみさんからメッセージが来ている事を知らせる通知があった。え〜と……

『Manami:また、なんか食べさせてやるよ。なにがいいか考えといて』

 愛美まなみさんの料理、美味しかったなあ。

『Kyoh:うん、考えとく。ありがとう』

 メッセージを返すとすぐに猫がOKって吹き出しを抱えているスタンプが返ってきた。

 うん、こうゆう友達っぽいやり取りいいな。


 気分がいいうちに宿題を終わらせて寝よう。

____________________________________


 新堂しんどう 愛美まなみは自室に帰った後、恭一きょういちの部屋で過ごした時の事を思い返していた。

 私はなんであんなこと言ったんだ〜!?

 あんなの触りながら『私が、使ってあげようか?』なんて言ったら絶対誘ってるっておもわれた。興味はあるけどまだ、早いというか、なんというか……

 軽い女って思われたくなくて『お詫び、って訳じゃないけどな……』って言ったけど恭一きょういちも動揺してたし引かれてないといいな。


 私のうちは裕福な部類に入る。

 それが幸せかというとそうでは無かった。

 物心がついた頃には両親は仕事に打ち込み家には殆どいない。私は姉に育てられた様なもの。

 その姉も大学進学と共に家を出て行った。

 今この家には私だけしかいない。

 両親への反抗心からギャルっぽい格好をする様になった。

 裕福だけど寂しいそんなものが私の家庭。

 いっその事私も一人暮らししたいなあ。

 そうしたら、たまに帰ってくる親のことを気にしなくて良くなるから、たまにしか顔をあわさないのに煩わしい。

 久しぶりに他の人のためにご飯作って『美味しい』って言われると凄く嬉しくなったなぁ。また、みんなにご飯作って一緒に食べたいな。

 そうと決まったら早速連絡しとこう。

『Manami:また、なんか食べさせてやるよ。なにがいいか考えといて』

 これでヨシ。


 あれから30分が過ぎたけど返信が来ない。

 あれ、やっぱり引かれてた?うわ、どうしよう。せっかく皆んなで楽しかったって思ってたのに、私、やらかした!

 頭を抱えてうんうんと唸っていると、ピロン♪と通知音が鳴った。

 画面には『Kyoh:うん、考えとく。ありがとう』と表示されていた。

 良かった〜、引かれてなかった。

 猫がOKって吹き出しを抱えているスタンプを送って、スマホに表示された履歴を眺める。


 恭一きょういちのとこ冷蔵庫の中身、殆どからっぽだったから今度はみんなで買い物にも行こうかな。

 今度はなにを作ってやろうかなあ〜♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る