Ep.2:菅野 愛香の場合

「負けた〜!!」

「じゃあ、愛香あいか、罰ゲームね」

「あ〜、助かった〜、あぶなかった〜」

 教室の一角で騒ぐ3人のギャル。

 SNSの推しのフォロワー数の多さを競っていて愛香あいかが負けて罰ゲームをする事になった。

「罰ゲームなんにする?花芽莉かがりなんかいいのない?」

 新堂しんどう 愛美まなみ、金髪、ストレートロング、長身というスタイルはモデル並みにいいのに雰囲気が怖いと恐れられている。

 愛香あいかへの罰ゲームをどうしようかと花芽莉かがりに投げる。

「あぁ〜、愛香あいか、彼氏欲しいって言ってたろ。隣のクラスにかすりってのいただろ?あいつなぜかモテてよく相手が変わるのに悪い話聞かないんだよな。どうせなら告白しちゃいなよ」

 いい事を思いついたとドヤりながら相模原さがみはら 花芽莉かがりが2人を見る。

 花芽莉かがりは3人の中で一番身長は小さい上に細身。そのままならロリギャルなのだが身長が伸びない分胸に集中してしまった様なアンバランスな体型をしている茶髪、ミディアムボブ。

 罰ゲームは『隣のクラスのかすりに告白』に決まった。

「えぇ〜〜」

 菅野すがの 愛香あいかは不平を込めて2人にむくれた顔を向けるが逆にニヤニヤした顔を向けられた。

 休み時間中3人は姦しく騒ぎ続けた。



「ピコンッ」

 スマホの通知音がなる。

 やばっ、マナーモードにし忘れてた。

 ついでに通知を確認。

『Aki:うちのクラスの愛香あいか恭一きょういちに告白しに行くって』

 あら、久しぶりだな明希あきからトークがくるのって。

 こうやって連絡があるという事はまた罰ゲームか。

「Kyoh:ありがとう」とだけ返しておく。

 明希あきと俺は3ヶ月前に一週間だけ付き合った関係。

 お察しの通り、明希あきも俺に嘘告をしてきた1人。

 彼女も罰ゲームで俺と交際を始めて罰ゲームの期限かっちりで別れた。

 まあ、お互いに分かってた事だから友達の様に過ごしてそこで終わり。

 今は事前に嘘告の情報が分かれば教えてくれる友人。

 今は相坂あいさかさんと別れて誰とも付き合ってないから嘘告の相手をしてあげようかな。


 俺ことかすり 恭一きょういちは嘘告をされ過ぎて自称、嘘告マイスターである。彼女に俺のどこが好きになったって聞いて『なんとなく』って答えられるそんな俺を本気で女子高生が好きになるはずがない。

 俺が無害なのをいい事に嘘告をしているのは分かっている。だから俺も、嘘告彼女には極力触れない。話だけで楽しく友人の様に接して期間を過ぎれば彼女達の方から別れを告げてくる。俺は毎回それに『嘘告お疲れ様』と返すのみ。

 どの子からも悪く言われてはいないし明希あきとは情報をもらえる様な関係が残った。別のクラスにも同じ様に情報をくれる子はいる。やっぱり嘘告繋がりだが彼女たちと良好な関係を築けているのだから長年培ってきたこのやり方でま違いはないはず。

 本当の俺の恋はこんな稚拙な遊びをしている奴等とは始まらないんだよな。



 放課後になり教室を出て昇降口を降る。

 下駄箱を開けると一通の便箋があった。

 無視するという選択肢はない。小学校の頃それをして女子から浴びせられた非難の目は忘れられない。もし今あの目を浴びせられたら性癖が歪みそうだ。

 きっと新たな扉が開く事だろう。

 まあ、とりあえず便箋を開け中の手紙を確認する。

 事前に明希あきから聞いていたように呼び出し、今回は体育館裏。

「しゃあないなあ」

 気乗りしないが向かうしかない。


 体育館裏には隣のクラスのギャル、菅野すがの 愛香あいかが待っていた。

 彼女といつも一緒にいる2人のギャルの姿は見えない。

 菅野すがの 愛香あいかはピンクゴールドのミディアムヘアを編み込んで後ろに束ねた髪型をした標準的な体型をした女子だ。

 直接絡んだことのない彼女だが、モジモジとしている姿を見ると

 初心なその反応を見ているとギャルのイメージと違うなあ。

 もっと色々経験してそうな子がくるかと思ってた。

 以前、嘘告に付き合ったギャルは付き纏いを交わすために偽の彼が欲しかったと言われたなあ。

 菅野すがのは俺を見つけると大きく深呼吸をしてこちらに歩いてくると俺の前で立ち止まりやっぱりモジモジし始める。

菅野すがのさんでいいのかな?」

「は、ひゃいっ」ビクッと肩が跳ねる。すっごい緊張してるな。

「俺を呼び出した理由を聞いていい?」

「あ、ええっと〜」凄い勢いで目が泳いでる。

 これだけ緊張されると逆に俺は落ち着いてきた。

菅野すがのさん、深呼吸しよう。はい、吸って〜」「すうぅ〜」

「吐いて〜」「はあぁ〜」

「どう、少しは落ち着いた?」

「はい」

「よし、じゃあ、要件言ってみよう!」

 勢いで先に進める。ギャルだけあってノリはいいみたいだ。

「え、ええっと、わ、私と付き合って!」

「いいよ」

「え〜〜っ!!いいの!!」

「うん」

 後ろからザッという音が聞こえた。

 誰かがきたけど告白中だったから気を利かせてくれたのかな。

「それで菅野すがのさんは罰ゲームの告白なんだよね?」

「うん?そうだよ」

「だったら一週間くらいかな?」

「えっ、いやっ、あの、その……」

「じゃあ、今日、俺用事があるから、明日からよろしくね」

 菅野すがのさんに別れを告げて俺はその場を立ち去る。

 今日はスーパーの特売があるからな。

「え、えっ」

 嘘、待って、一週間って、なに?



『Aika:勘違いされたっぽい』

『Manami:どしたの?』

『Kagari:なんて言ったの?』

『Aika:告白はOKだった。けど、一週間って』

『Manami:は?』

『Kagari:は?』

『Manami:何それ』

『Kagari:どうしたらそうなる?』

『Aika:罰ゲームのこと知ってたっぽい』

『Kagari:どゆこと?』

『Aika:罰ゲームの告白かってきかれた』

『Manami:それで正直に答えた?』

『Aika:うん』

『Kagari:ちょい抜ける』

『Manami:おけ』

『Manami:嘘告と思われたね』

『Aika:たぶん』



 花芽莉かがりは友人のネットワークを使いかすりと同中の生徒を探した。

 うちの学校にかすりと同中はいなかった。その代わり少し前まで相坂あいさか ひびきと付き合っていたことが分かった。相坂あいさかの落ち込み様から2人が別れていることは分かっている。

 相坂あいさかなら何か知ってるかもと思い捜すが見つからず、代わりに相坂あいさかと連んでる田所たどころ 響子きょうこがいた。

田所たどころ、ちょっと聞きたいことがあるんだが、一緒に来てくれないか?」

相模原さがみはらさん?なんです?」

かすりのこと」

「ああ、わかりました」

 普段人があまりいない4階の多目的ホールに移動する。

 途中、自販機により花芽莉はカフェオレ、田所たどころにはお茶(本人希望)を買って向かう。

「それでかすりくんの事を聞きたいんですよね?」

「ああ、この前まで相坂あいさかと付き合ってたと聞いたからな」

「なぜ相模原さがみはらさんがかすりくんの事を知りたいんですか?」

「友達が告白して一週間て言われてな。なんでそんな事を言ったのか気になってなぁ」

「あぁ、そういう事」

「思い当たる節でも———」

 響子は別の高校に通う友人に聞いた話を相模原さがみはらさんに話した。

「なんだよ、それ……、小学校から嘘告されて、断ったら虐められてたなんて愛香あいかの告白に一週間て返した理由は分かったよ……でも、あいつも大変なんだな……」

「ええ、まともな恋はできないでしょうね」

「そう、だな……、相坂あいさかはどうだ?」

ひびきは本気だった分引きずってます」

「それは……キツイな」

「ええ」

「いや、ありがとう教えてくれて。そろそろ、戻るわ」

「はい、それでは」


 花芽莉かがり田所たどころと別れ2人に連絡を取る。

愛香あいか愛美まなみ、今、大丈夫?」

『うん』

かすりのこと、なんか分かった?』

「分かった、けど、今回はうちらが悪いわ」

『なに?』

『どうして?』

「絶対、他の人に言うなよ。かすりの奴、小学校から嘘告されてた」

『嘘っ!?』

『マジッ!?』

「付き合ってる彼氏の良いところを聞かれて『なんとなく』って言われたら信じられんだろ。それで、告白断ってたらイジメられてたらしい」

『いや、酷いわ、ソレ』

「ああ、それで愛香あいかが罰ゲームを肯定したからな」

『ああ、それで一週間なんだ。かすりくん、傷つけちゃった……』

「そうだなぁ」

『まいったね、そんなつもり無かったんだけど……』

「告白を持ちかけたの私だから、かすりには私が謝るよ。それくらいしか思いつかない」

『私も一緒に行くよ』『すんっ、私も、行く』

「そうだな、明日、みんなで謝りに行こうか」

 電話の向こうで泣いている愛香あいかを慰め、気分転換になる話題を愛美まなみと振ってみる。

 今回は本当に失敗した。愛香あいかの恋愛経験に良さそうだと思ったんだよな。それで上手くいけばそのまま付き合えばいいって思ったのに酷い地雷が仕掛けられてた。

 かすりをここまで追い込んだクラスも相当酷いな。

 まあ、罰ゲームで告白さそうとしたんだから人のことは言えんか。

 明日とりあえず謝ろう、それからだな全部。



 翌日、俺は菅野すがのさんにまた体育館裏に呼び出されていた。

 そして今、俺の目の前では普段見る事のできない光景が広がっていた。

 3人のギャルが土下座をしていた。

 いやいや、なにこれ、この状況。

「なんで、3人とも、とりあえず立って」

かすり、本当に悪かった。お前の事を聞いた。愛香あいかの告白を嘘告と思ったのもわかる」

かすりくん、ごめんなさい。傷つける様なことがしたかったんじゃないの」

かすり、ゴメン。私らが悪かった」

「良いから、とりあえず立って、それこそお願いだから!!」


 なんとか3人の土下座をやめさせた僕は自分の口から当時の事を話した。

 ギャルと車座になって話をする日が来るとは思っても見なかった。

 一番最初に僕に嘘告を告げてきた子はクラスの女子にいじめられていた子で僕が選ばれたのもなんとなくだった。初めてのことでその告白を喜んで受けた僕は一週間後にクラス中から嘲笑を受けた。告白してきた子ですら一緒になって笑ってた。それからも何度か告白を受けて別れてを繰り返した。そのうちに彼女に 『僕のどこが好き?』って聞いてみたんだ。そしたら帰ってきたのが『なんとなく』だよ。絶対、僕のことなんとも思ってない。また、揶揄うつもりだって分かったんだ。だから、告白された時にそれを聞いて答えられない子とは付き合わなかった。そうするとね、クラスの女王様が『面白くない』って怒りだして今度は僕がいじめの対象になった。

 いじめが落ち着いた頃にまた告白が始まった。また女王様の怒りを買うのが嫌だから告白は受けるけど手を繋いだりとかは一切しない様にして僕と女の子を守る様にしたんだ。中学に上がった頃には指示してくる女子がどんどん悪質になってきてね、ホントに何回か貞操の危機を感じたよ。一番酷かったのは僕が頭を殴られて気を失ってる時に服を脱がされて、いやだって泣いてる子に無理矢理挿入させようとしてた時かな。ギリギリで目を覚まして逃げれたから良かったけど、あのままだったらと思うとその子達が怖くなった。それで僕はこっちに転校してきた訳。まあ、転校後もよく告白されるけどやっぱりみんな『なんとなく』僕の事を好きだって言うんだ。だから、学生の間は告白ごっこに付き合って社会に出てからホントの恋ができたら良いなと思ってる。


愛香あいかさん、僕は今言ったように学生のうちは本当の恋ができないと思う。だから今回のことは無かったことにしてもらえないかな?」

「うん、そうだよね」なぜか愛香あいかの頬に涙が伝った。

「それで、改めてお願いなんだけど」

「うん、なんでも言って」

 なんでもって言いました?いや、僕はチキンなので手は出さんけど。

「3人と友達になれないかな?」

「「「えっ」」」

「これだけ僕の事を知ってもらったんだし、これで『はい、さようなら』は寂しいなって思えたから。友達になってくれない?」

 3人はお互いの顔を見てこちらに向き直る。

「分かった、それじゃ、これから宜しく」代表して愛美まなみが僕に答えた。

「ありがとう、こちらこそ宜しく」


 4人で笑い合う。

 僕はかけがえのない友人を得る事になったのだが、その事に気がつくのはまだ先のお話し。


 今回、意図せず嘘告最短記録を更新してしまった。

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