第13話 タイムリープ

 私は小さいころから、タイムリープの能力を身に着けていた。

 時間旅行、ともされるけれど、私のそれはタイムリープをすると、ちょうど一日前にもどる……というもの。つまりその一日をなかったことにして、やり直すことができる能力だ。

 この能力は、とても便利である。何しろ、テスト勉強もせずにテストをうけ、この能力で一日前にもどる。問題を憶えておいて、回答を確認してから、翌日のテストをうければいいのだから。

 ただ、これはやり過ぎるとよくない……ということに気づく。元々、頭もよくないのにテストの成績だけがいいと、質問攻めに遭って困るからだ。「成績がいいんだから、一緒に勉強しよう。教えて」といわれ、何度それを断ったことか……。教えられる能力もないのに、一緒に勉強などできるはずもない。

 でも、たとえば嫌なことがあっても、リセットできる。友達とケンカしたときだって、それが起こらないよう、先回りして回避する。ちょっとした失敗だって、すぐに私はタイムリープして、自分にとって都合よい結末が導かれるように行動することができるのだ。

 好きな子に告白して、フラれたときでもタイムリープし、告白していないことにすることもできた。

 お金を落としたときでも、一日前にもどって財布に紐をつけるなどして、落とさないようにできる。

 見たかったドラマを、録画してみなくてもくり返しみられる。これは見逃してしまっても、一日前にもどって手立てを講じ、何とか見られるように工夫する、という意味でもそうだった。


 一日は確実に繰り返さないといけない点だけが難点だけれど、それ以外は利点しかない。

 使いやすさも抜群だ。ただし、一日前に何をしていただろう……? ということだけは気をつけるようにしていた。例えばゲーム攻略中、集中しているときにもどってしまうと、ゲームが中断してしまう。戻った一瞬だけ、呆けたように体が止まってしまうからだ。

 またお料理をしているとき、もどってしまうとふっていたお鍋の具材がバラバラになったり、もっていたお皿を落としたり……。

 そういう失敗をしたら、またタイムリープをしてさらに一日前にもどる。魔法とかではないので、何回やってもよい。でも、さすがに何日も分かり切った日を過ごすのは嫌なので、ほどほどにしておく。楽しかったら、何回でもくり返した。例えば、修学旅行に私は二週間ぐらい、行っていた計算になる。二泊三日の旅行を、それだけ引き延ばしたのだ。

 タイムリープ――。まるで、アレクサに「〇〇して」と声をかけるぐらいの気楽さで、私はそれをしていた。何万……何十万回と、この能力をつかってきただろう。私は満足していたけれど、ある日それが一変した。


 タイムリープが故障した。誤作動を起こしたのだ。

 あるタイミングで、何もしていないのにタイムリープし、一日前にもどってしまったのだ。

 最初は、ただの過ちだと思って気にしていなかったけれど、翌日も、翌日も、またもどってしまう。

 しかも、もう自分の意志でタイムリープをつかうことができなくなっていた。つまり、同じ一日を永遠にくり返しているのだ……。

 変化を与えることは、たびたび行った。それこそ最初のころは、一日でどこまで遠くに行けるか……。なんてチャレンジをして、旅行を楽しんだこともある。でも、パスポートをもっておらず、国内からでることはできない。それに、どれだけ遠くに行っても、同じ時間になるとまたもどってしまう。逃げることは不可能だと悟った。

 親を殺してみたこともある。そのころには、だいぶ心が壊れていて、少しでも変化が欲しかったからだ。

 でも親が死に、隣人を襲って殺したけれど、やっぱり何も変わらなかった。

 自殺したこともある。ただ、決まった時間になると、やはりもどってしまった。そうなると、私の要因ではもうタイムリープするタイミングを変えられない、ということだ。

 ただ、退屈とはいえ、同じ時間をくり返しているだけなのだから、さして不都合もない……はずだった。でもある日、親から「老けた?」と言われた。そう、私がタイムリープをすると、私だけが他の人より余計に一日分、歳をとっているようなのだ。

 これまで、何十万回とタイムリープをしてきた。もう私は、二十歳を優に超えている……。そして、ここでくり返し一日、一日と積み上げていくと、周りの人からみて私は、たった一日で老け顔に変わってしまうのだ。

 私はタイムリープが怖くなった……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る