第7話 飲食店経営者

 彼は飲食店を経営する。儲けが第一、といって味を落としたり、材料費をケチったりすれば、すぐに顧客が離れる。

 そこで、彼は牧場をつくることにした。直営で経営すれば、中間マージンもなくなり、コストがかからない。牧場を経営する資本力さえあればいい。

 その目論見は当たった。彼が経営する食堂は繁盛した。

 でも、さらに儲けたいと考えた。

 そのためには、普段捨ててしまうようなものも商品として提供できるようになればいい。

 その目論見は当たった。彼が経営するレストランは、行列ができる店になった。

 でも、さらに儲けたいと考えた。

 そのためには、固定費を削りたいと思った。電気代などの燃料費をはじめ、人件費など、オートメーション化して削れるところを目いっぱい削った。

 その目論見は当たった。彼が経営するチェーン店は、利益率が高まった。


 彼は敏腕経営者として、メディアに登場するようになった。変なことを言ったり、自慢したりすると、すぐに人気が落ちる。

 そこで、彼は常に笑みを浮かべ、落ち着いて喋るようにした。

 その目論見は当たった。彼はメディアに引っ張りだこになった。

 さらに注目を浴びたいと思った。

 彼は機械的に、ネットで支持をうけやすい意見を調べ、それを語るようにした。

 その目論見は当たった。彼は人気者となった。

 さらに注目を浴びたいと思った。

 彼は共感をうけられるよう、ネット世論を動かすために、自分を賞賛する意見を書きこむよう依頼をだした。

 その目論見は当たった。彼はカリスマ経営者と呼ばれるようになった。


 ある日、彼の牧場が告発された。従業員をけずったことで、その恨みを暴露という形で晴らしたのだ。

 ただ彼は動じなかった。そうなったときの対応も決めていた。

「彼がうちで働いていたことは事実ですが、待遇への不満を訴え、解雇したところ、こういう形で世間を騒がせようとしています。真実は法廷で明らかにしたいと思います」

 そう声明をだすのと同時に、付き合いのある政治家に、裏から手を回してもらって裁判官を買収した。

 さらに安心を得たいと思った。

 彼は政治家に口を利いてもらい、新聞やテレビで自分に有利な記事を発信してもらうようにした。

 その目論見は当たった。世論は彼を支持した。

 さらに安心を得たいと思った。

 彼は相手の弁護士を買収し、深く追求することなく公判を穏やかにすすめようとした。

 その目論見は当たった。裁判は彼が全面勝利した。


 ただ、彼にはたった一つ、誤算があった。それは民事では勝利したけれど、刑事裁判では証拠が提出されて、逮捕されたことだった。

 彼は取り調べで、今までやったことを追及され、たった一言だけこう弁明した。

「私は人を食っただけです」と……。


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