領主の役目

 頭を抱えるしかない。


「……ごめんね、知らなかった」

「いいえ。こちらも勝手が過ぎました。申し訳ありません」


 領主。それは読んで字のごとく領地を治める主のことだ。領主はその領地を適切に運営し、その領地で起こるすべての責任を負う義務がある。


 ではエインはどうか。今、彼はその責任を全うできているだろうか。


「すでに領内にいたならず者、凶暴な魔物の類はほぼ排除が完了しております。魔物の素材などはルビーの能力により凍結保存しております」


 とウォレスは言った。彼は意図的に領内にいた盗賊などを殺処分したことを伏せて報告した。


 エインがそれに気が付いたかはわからない。彼はただ深刻な表情で黙り込んでいる。


「……そのならず者たちはもういないんだね?」

「はい」

 

 エインはウォレスの顔を見つめる。ウォレスは表情を変えず全く感情が読めない。


「……わかった。これからはなにかあったらすぐに報告して。ボクが忙しいそうとか関係なくね」

「承知いたしました」

「うん。それで他には?」


 ウォレスの内心はわからない。エインもこれ以上の追及はしなかった。それよりも現状の把握が優先だ。


「実は怪しい者たちがこちらに向かっております」

「怪しいってどんな人たち?」

「はい。流星隊の旗をかかげた者たちでございます」

「流星隊だど!?」


 驚き声を上げたのはダイナだった。それもそのはずで、すでに流星隊は解散しているはずだからだ。


「本当なんだな?」

「はい。何度か拝見いたしましたので覚えております」

「まさか、偽物?」


 流星隊の偽物。と考えてみたものの偽物を名乗る利点が思いつかなかった。


 それにこちらに向かっているというのも気になる。


「もしかしたらダイナさんの部下の人たちかも」

「考えられなくもないですな。流星隊の解散に不満を持っている者たちが、と言うことも」

「確かに、だな」


 さて、実際はどうなのかエインたちにはわからない。


「確かめに行ってもよろしいですか?」


 実際にその目で確かめたほうが早い。ダイナはそう考えたようだが、もしこれが何かの策略だった場合ダイナの身に危険が及ぶかもしれない。


「サファイア。ダイナさんと一緒に行ってあげて。何かあったら助けてあげてね」

「はい。ご命令の通りに」


 怪しい集団の確認はダイナたちに任せることにした。


「しかし、現状はあまりいいとは言えませんね。湖の周囲だけでも警備する方法があるといいのですが」


 出発は話し合いの後で、ということで会議は続く。


「ダイナ様の意見はもっともですな。現状、周辺の警備や警戒はサレナとサファイアとルビーに任せきりです」

「そうです! 本当ならエイン様の側にいるはずなのに!」

「わがままを言わないの、ルビー。確かにおそばにいられないのは、とても苦しいけれど、仕方ないことなのよ」


 確かにメイドの仕事は主の身の回りの世話だ。領内の警備や敵の撃退は別の者たちがやるべきだ。


 やるべきなのだが、圧倒的に人手が足りない。そもそもこの地には領民が一人もいない。盗賊や山賊はいるかもしれないが、そいつらはもう排除されてしまっている。


 さて、どうするか。


「足りないなら作ればよいのでは?」


 と言ったのはダイナだった。


「あの鉄の人形を大量に用意すれば」

「うーん、難しいかな。あれはあんまり難しい動きはできないから」


 やろうと思えばできるだろう。だが、それには時間がかかるし体力の消費も多い。警備兵としての性能を持たせることはできるかもしれないが、一体や二体では意味がない。


 できるならば数百体。湖の周囲や森の中を見回るためにはそれなりの数が必要なのだ。


「問題ありません! 私が鍛え上げてお見せしましょう!」

「鍛えるって……」


 鍛える。ダイナのその言葉にエインは、そんなことができるのか、と最初は疑問に思った。だが、すぐにできるかもしれない、と考え直した。


 できないのならできるようにすればいいのだ。


「学習機能を付ければ、できるかもしれない」


 少し時間はかかるかもしれない。兵士として使えるようになるにはそれなりの時間がかかるだろう。


 だが、大量生産は可能だ。学習機能だけを備えた鉄人形ならすぐにでも用意できる。


 用意できるけれど、正直に言うとあまりやりたくはない。動く鉄人形がそこら中を歩き回っている町など普通ではないからだ。


 なるべく普通に、がエインの基本的な考え方だ。まあ、しかし、現状もうすでに普通ではないけれど。


「兵士のことは考えておくよ。あとは、あれだね」


 あれ、とはあれだ。湖の上空に浮いている白い鳥のようなものだ。


「あれをどうにかしないと、人が来ないよねぇ……」


 将来的にはこの場所に立派な町を作りたい。移住者を募って人を増やし賑やかな場所にしていきたい。


 だが、現状は移住者どころの話ではない。もともとこの場所は捨てられた土地で、呪いやら災いやらの噂で人が寄り付かないところなのだ。さらにはよくわからないものまで現れる始末で、これでは住人なんて来るはずがない。


 人が安心して暮らせる以前の問題だ。とにかく変な噂やイメージを払拭しなくては人なんて来るわけがないのである。


「……とにかくなんとかしようか」


 できるかはわからない。けれど何もしないわけにはいかない。


 とりあえず今やるべきことは怪しい集団の確認、警備部隊の編制、白いあれをどうにかする。この三つの問題を解決する。集団の確認はダイナに任せるとして、他の二つはエインの仕事だ。


 そもそも白い巨大なあの鳥は一体何なのか。


「排除しますか?」

「下手に手を出して何かあったら大変だし。話し合いで、どうにかできたら、とは思うけど」


 話し合い。あれと意思の疎通が可能なのか。


 わからない。なら、やってみるしかない。


「やるしか、ないよね」


 なるべく平和的に、けれど何かあれば徹底的に。


 何もないことを祈りながら、エインは問題解決のために頭を働かせるのだった。


 

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転生したら神絵師でした。 甘栗ののね @nononem

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