第23話 出た、いた、アコギー!
書斎は僕が小説書くための部屋ね。夢のなかでも小説書く僕。
その部屋のデスクの前に仮面をつけた男がすわってる。
ああっ、僕のデスク!
いけないんだ、いけないんだ。その机、いくらしたと思ってるんだよぉ。高かったんだぞ?
「おまえがアコギーか?」
「……」
なんだよ、しゃべれよぉ。ノリ悪いなぁ。僕だけハイテンションでバカみたいじゃないか。
「違うの? アコギーじゃない?」
「……」
いや、あの、なんとか言って。
「ま、まあ、どっちみち、僕の家に勝手に入りこんだ悪いやつだ。退治しちゃうもんね!」
「キュイ!」
「キュイ!」
「キュイ!」
みんなに励まされて、僕のやる気はマークッス!
戦闘音楽が流れてきた。ボス戦のやつだ。
アコギーなア……が現れ——
テロップなんか見ちゃいない。
「行くよ! ぽよちゃん、聞き耳!」
「キュイ!」
「キュイ!」
ん? なんで二匹ぶんのキュイ? しかも一つはけっこう野太かったような?
「って、兄ちゃん、ぽよちゃんのマネしないでよ!」
「兄ちゃんも聞き耳できるから」
「それ言ったら、僕もできるんだけど」
「じゃあ、なんで自分でしないんだ?」
「だって、ぽよちゃんが可愛いから」
「ピュイ〜」
「兄ちゃんじゃダメなのか……」
「可愛くないじゃん」
「兄ちゃんだけ仲間になれない。疎外感……」
「いいから戦おう? 兄ちゃん」
「わかった。わかった」
なんでボスを目の前にして、兄弟ゲンカしないといけないんだ。
とりあえず、聞き耳によると、アコギーの得意技は、悪魔のささやきと、擬態、裏切り、か。なんとなく、いやらしそうな技名だなぁ。ちょくせつ攻撃系っていうより、ねちっこいイヤな効果を持ってそう。まあ、前列四人はみんなスキルやアクセサリーで状態変化を完全にふせいでるから問題ないけど。
今日は風神のブーツはいてるし、足ふみふみして素早さあげる。
「キュイ〜」
「キュイ〜」
「キュイ〜」
ああ、ぽよぽよたちの声援が心地よい。さ、テンションマックスのまま戦おうか。
と思ったやさきだ。急に、アコギーが仮面に手をかけた。
ん? どうすんの? まさか、外すの?
アコギーはポンチョみたいな形のひきずるほど長いローブを着てる。それに手袋もしてるし、全身がまったく見えないんだよね。
もちろん、どんな姿か気になってはいたよ? けど、そういうのって、秘密があって隠してるわけでしょ? 倒した瞬間に仮面がコロンところがって、「あ! おまえがアコギーだったのか!」みたいな展開がセオリーかなぁって、なんとなく思ってた。
息をのんで待ってると、手袋をつけたアコギーの手が、仮面を外す。
あ、やっぱ外すんだ。
なんで今? 戦闘前なんだから、よっぽど意外じゃないとおどろかないよ?
と思ったら、おどろいたー!
「えー! なんでっ?」
「うーん。なんでかな?」
「キュイ?」
「キュイ?」
「ミー?」
仮面の下から現れたのは、絶世の美女もかくやという美貌。魔力的な磁力をはなつ黒曜石の瞳に、長いまつげがふっさりかかり、魅惑の陰影をつける。こんな綺麗な人、ほかにいないよね?
「ら、蘭さん……いや、違った。こっちの世界では、ロラン」
「兄ちゃんにもロランに見えるなぁ」
「だよね! 見えるよね!」
「見える」
変だなぁ。この前、蘭さんに会ったときはふつうだったけどなぁ。いつのまに、悪役に? というか、まさか、ハッ! 蘭さんがアコギーだったのかッ?
「そんなはずないよね? 蘭さんは勇者だもんね。アコギーなんかじゃないよね?」
「うーん。現実世界の蘭なら、『退屈だから、ちょっとヒマつぶしてみました』とか言いそうな気もするけど、こっちのロランは正義感が強い」
「えーと、蘭さん聞いたら怒りそうな気もするけど、秘密にしといてあげるよ」
「サンキュー。持つべきは理解のある弟だな。それと、美味いアメちゃん吐く弟」
「アメちゃんはよけいだよ!」
あっ、またジャレてしまった。そんな場合じゃない。蘭さんがアコギー? これはたいへんなことだぞ?
「もしかして、ロランと戦わなきゃいけないの?」
「うーん。なんか変な感じもするんだよなぁ」
「誰かにあやつられてるとか?」
「うーん……」
うんうんうなりながら、猛は考えこむ。
蘭さんはこれまでずっと、魔王を倒すために、いっしょに戦ってきた仲間だ。今さら敵って言われても、急に気持ちを切りかえられないなぁ。
なんて思ってたら、甘かった。あっちはそんなこと思ってくれないみたいだ。
「先制攻撃!」
あっ、そうだった。蘭さんのスキルで、必ず先制攻撃できるんだっけ。忘れてたー!
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