第24話 まじめに戦うボス戦もあるのか?



 今回、ドンヨークと言い、アクダイ・カーンと言い、なんとなく、いつのまにかワチャワチャしてるうちに倒してた。ラッキーだったなぁ。

 アメちゃん効果だったかもしれない。今回もアメちゃん効果でワチャワチャッと倒せてたらよかったのに、真剣に戦闘があるみたいだ。困ったな。


「先制攻撃!」


 蘭さんはそう言うと、当然、攻撃を——

 あれ? 攻撃してこない。蘭さんお得意のムチじゃないの? なんだろう? 蘭さんの目がピカピカ光ってる……ような? それに、なんか小声でささやいてる?


「あっ、かーくん。ヤバイぞ。そのささやきに耳を貸すな!」


 猛が言ったときには遅かった。


「キュイ……」

「キュイ……」


 ああー! ぽよぽよが二匹ころがったー! 寝たのか? 怠惰たいだな感じ?

 すると、とたんにみんなのテンションがさがる。


「キュイ……」

「キュイ……」

「キュイ……」


 うっ! 体が重くなる!

 せっかくマックス盛り盛りだった僕のテンションが激落ち!


「うう……兄ちゃん……悲しくなるよ」

「よし! 兄ちゃんに任せろ! 兄ちゃんパーン——」

「ちょっと待った! 蘭さんをなぐる気? あの美しい顔を?」

「いや……じゃあ、ボディーを」

「ええっ! 蘭さんの美しい顔が苦痛にゆがむんだよ?」

「そこは……しかたなくないか?」

「なんかヤダー!」

「そうは言ってもなぁ……」


 と、急に蘭さんが叫んだ。

「裏切り!」

「あっ!」

「あっ!」


 ぽよぽよたちの目が半数くらい赤く光った。すると、赤い目のぽよぽよたちは、くるっと僕らに背をむけて、蘭さんのほうへ走っていく。


「ああー! やられた! なんとなくそうかなと思ったけど、やっぱり誘惑系のスキルだったか」


 しかも、僕らの素早さの数値は蘭さんの数十倍だ。なんてったって数値ふりきってるから。素早さ99999だ。

 この世界ではターン制だけど、素早さの数値の差異によって行動回数が決まる……って、前も書いたっけ。

 つまり、蘭さんの特技で先制攻撃ができても、ターン中に一回しか行動はできないはずなんだけど。


「マズイぞ。かーくん。裏切りっていうスキルは、敵の行動中でも使えるスキルだ」

「むう……」


 たまにあるんだよね。行動順と無関係に使える技。


「敵を誘惑して自分の味方につかせる技だよね?」

「そう」

「それが自ターン以外で使えるなんて、ヒドイ!」


 これはもう、蘭さんだからなぐれない、なんて言ってる場合じゃないかも?

 もちろん、魔王ほど強くはないんだけど、それにしたって、このままじゃ一方的にやられてしまうぞ。


「裏切り!」

「ああっ、またー!」

「何回でも使えるんだな」

「そんなのズルイ!」

「まあ、かーくんの風神のブーツだって、そうとうズルイぞ? マックス数値超えで効果出るとか」

「いいじゃん。おかげで魔王倒せたし」


 いやいや、だから、兄弟ゲンカしてる場合じゃないんだって! 相手が蘭さん。その上、裏切り連続で、残り半数のさらに半分のぽよぽよたちが、むこうの味方に……。


「ん? 体がかるい?」

「おっ、かーくん。スッキリした顔だな」

「テンションふつうに戻った」


 さっきまで、地獄の底まで沈みこみそうなほど重かったのに。


「あっ、そうか! テロップが言ってたよね。オートテンションは、ぽよぽよたちが一定数以上集まったときになるんだって」

「そうだな。裏切りでむこうの味方になったから、一定数を割ったんだ」


 こっちに残ってるぽよぽよたちは六匹。寝てる二匹よせてだ。一回めの裏切りのときはまだ十匹いたから、たぶん、そのへんがオートテンションに必須の数。


「逆にむこうにオートテンションがついてるよね」

「たぶんな」


 オートテンションは切れた。これで僕の気持ちがぽよぽよたちに左右されることはなくなった。

 ただ、もう一つ、どうにもできない問題が残ってるんだよな。蘭さんを攻撃できるのかっていうね……。


「うーん。蘭さんをなぐるのか」

「なぐるのイヤなら剣で戦えば?」

「兄ちゃん、残酷!」

「ハハハ」

「友達だよ? 友達!」

「だって、イベントなら絶対に戦わないと戦闘終わらないじゃないか」

「そうだけど」


 なんとか戦わずして和解する方法はないだろうか?

 でなくても、さっきからしゃべってばっかりだから、僕のまわりアメちゃんだらけなんだよね。早く終わらせないと、アメちゃんにうずもれてしまう。


 ん? 気のせいか?

 アコギーな蘭さんが、じっとアメちゃんを見てる?

 もしかして……いや、まさか……こ、これは……いけちゃうのか?


 僕は試しにアメちゃんを一個、なげてみた。

 蘭さんは警戒しながら、そっとひろう。アメちゃんのをむいて、ムグムグ……あっ、幸せそうな顔になった。

 これは、いけそう!

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