第17話 姫さま探し



「僕が入れかわったのは、サンドールの市場でしたね。頭からベールをかぶった女の子で顔はわからなかったんです。身長は僕と同じくらい」


 つまり百七十センチ手前。女の子にしちゃ、けっこう背が高い。


「市場か。竜くん、サンドールまでお願い」

「オーン!」

「かーくん、竜の上ではしゃべらないでね。僕の美しい顔にアメちゃん攻撃はなしですよ?」

「……はい」


 そんなこんなで、サンドールの街外れまで戻った。

 竜くんがいると目立つので、ここでお留守番だ。


「竜くん。待っててね。さっきの塔で生んだアメちゃん、置いとくからね」

「オン!」


 竜くん、アメちゃん大好きだな。竜って主食、肉じゃないの? そういえば、ふだんは庭草食べてるな。いかにも肉食な見かけなのに、竜くんは草食か。


 僕らは姫さまを求めて、市場をウロウロ。

 なんか、こう、さっきから誰かがついてきてるような気がしてしょうがない。変だなぁ。砂漠の塔からなんだけど。


「南国フルーツ売ってるね」

「物価、安いですね。わが国よりだいぶ貧しいみたい」


 蘭さんはミルキー国の王子さまだ。ミルキー国も魔王がいたころはいろいろあって大変だったけど、今は立派に建てなおして、以前の豊かさをとりもどしてる。


「あっ、そうそう。ロラン。僕、金貸し始めたんだよ。もし国家予算必要なら、低利で貸すよ?」

「今のとこ大丈夫です」

「だよね」


 うーん。本業金貸しの客はいずこ? やっぱり、アメ屋じゃないとダメなのか?

 もしかして、お金貸した客が返してくれたときアメちゃんプレゼントしたら、お客さんがいっぱい来てくれるんじゃ……でもそれって、婉曲えんきょくなアメ屋だよね。


 市場のようすは、あんまり流行ってるふうじゃなかった。品数も少ないし、水や塩みたいな生きてくのに必須のものがギリギリならんでる。香辛料だけは種類豊富だ。


 僕は聞いてみた。


「裁判長さん。サンドールって、なんでこんなに貧しいんですか?」

「農地が少ないからのう。雨もほとんど降らん土地柄じゃ」

「でも、岩塩とか、南国フルーツとか輸出したらいいのに。とくに香辛料はめずらしいから、外国では黄金と同じ価値なんだよ」

「砂漠があるからのう。なかなか他国まで往復できんのじゃ」

「うーん」


 なんとか貿易ルートが造れたらいいんだよね。人工的なオアシス点在させて、ところどころに拠点の街とかあれば。南国フルーツはボイクド国じゃ収穫できないから、きっと人気が出ると思うんだけど。


 そんなことを考えてると、蘭さんが声をあげた。


「あっ、今の服、僕のだ」

「えっ? どれ?」

「ほら、あの青い上着に白いマント」


 派手だな。あれでお忍びのつもりだったのか。


「それにしても、お姫さまはなんで王宮に戻らないんだろう?」

「姫さまは以前より、下々の暮らしが見たいとおっしゃっておいでじゃったゆえな」と、これはもちろん、裁判長だ。


 オテンバなお姫さまか。

 しょうがないな。

 僕らは白いマントを見失わないように追っていく。

 すると、僕らのうしろからも何かが追ってくる。

 ん? やっぱり、なんかつけてきてる? やけにあっさり塔から逃げだせたと思ったけど、見張りがいたのかな?


 けど、ふりかえってるゆとりはない。姫さまが僕らに気づいた。走って逃げだそうとする。こっちも走って追っていく。その僕らのあとを、さらに何かが追いかけてくる。


「姫さま! 待ってください!」

「僕の服、返して! ドレスは動きにくいよ」

「姫さまー! じいが迎えにまいりましたぞー!」


 エキゾチックな市場のなかを、右往左往。迷路みたいな細道を行ったり来たり。


「あっ、アメちゃんだ!」

「妖怪アメ吐き小僧だ!」

「う、美味いぞ! このアメちゃん!」

「待てェー! アメちゃん!」


 あれあれ? なんか、街の人たちも追いかけてくるんだけど?


「ワアワアワア! なんなんですか? 僕は妖怪じゃないよ!」

「アメちゃんだ!」

「アメをくれぇー!」

「ドゲフッ、きさまら……」


「ワアワアワア」

「アメちゃん!」

「アメちゃん!」

「何をす——グゲッ!」


「ワアワアワア!」

「妖怪小僧、もう逃げられんぞ」

「だから、妖怪じゃないって!」

「アメちゃん!」

「アメちゃん!」

「やめんか——オゴォッ!」


 ハアハア。やっと、姫さまに追いついた。


「つかまえたー!」


 白マントのすそをつかむと、姫さまがふりかえる。

 ドキドキ。どんな美女かな? いや、美女でなくてもいいんだけどね。なまじっか顔見えなかったから、ちょっと期待値があがっちゃっただけ。


「ん——?」

「うん?」

「キュイ?」

「姫さま! ベールを外してはなりませんぞ!」


 なんか、妙なものを見た……気がする。

 えっと、洋服を着た人型ドラゴン? 白いウロコにグリーンの瞳で、竜としてはそうとうに美しいのだと思う。竜としては……。


「えっと……?」

「姫さまの母上は竜人なのじゃ」


 ああ、やっぱ、そういう……。

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