第16話 姫さまはいずこ?



 いきごんで扉にとびつく。


「お待たせしました! 姫さま、助けにきましたよ!」


 円形の部屋が一室。フロア全体がひと部屋になってる。窓辺にほっそり背の高い女の子が一人。ドレスはわりと地味。背中むけてるから顔は見えない。


「姫さま? 王さまに頼まれて助けにきました」


 どんな姫さまかなぁ?

 まあ、僕には彼女いるけど、どうせ助けるなら可愛い子がいいもんね。


「姫さま、さあ、ここを出ましょう」

「……」


 あれっ? くるっとふりかえったお姫さま。たしかに、ビックリするぐらいの美少女だ。でも、でも……これは?


「あっ、かーくん。ひさしぶりですね」

「ら、蘭さん?」


 蘭さんと言っても、女の子じゃない。世界一麗しい美女みたいなお顔だけど、れっきとした男。それも、勇者だ。こっちの世界での名前はロラン。僕の友達が、なぜか、お姫さまとして塔に幽閉されている……。


「なんで、ロランがここに?」

「ヒマだから、お忍びで冒険してたら、よくわからない連中につれてこられました」

「えっと、じゃあ、本物のお姫さまは?」

「お姫さま? ああ、僕と服を交換した、あの子かな?」

「よくドレスと交換したね」

「えっ? だって、似合うでしょ?」

「似合うけど……」


 それにしても、ひさしぶりにあった友達が口からポロポロ、アメちゃんこぼしてるのに、まったく動じない蘭さん。さすが、勇者。


「じゃ、とりあえず、逃げようか?」

「そうですね。ここにいても退屈だし」


「退屈なのに、じっとしてたの?」

「砂漠が遠くまで見えてキレイなんですよ。とくに夕日がね。あっ、そうそう。かーくん」

「うん?」


「最近、ちまたに妖怪アメ吐き小僧が出没するってウワサなんだけど、正体はかーくんなんですね?」

「笑顔で妖怪アメ吐き小僧とか言わないでよ! 傷つくから!」


 ザラザラザー。

 妖怪アメ吐き小僧参上……。


 とにかく、逃げだすことに。


 蘭さんはサッと、どこからかゴザのようなものをとりだした。ゴザ、わかるだろうか? 漢字で書くと後座。イグサを編んだ和風の敷物だ。畳に似たじゅうたんっていうか。


「これ何?」

「ヒマつぶしに編んだんです。これで廊下すべりおりたら楽しいだろうなと」


 蘭さん。やっぱり何かを超越してる。


「人数ぶんあるので、みんなで行きましょう」

「なんで人数ぶん? 僕ら来ることわかってた?」

「んん、もしかしたら、誰か助けに来るかもって思って。いつも、そうだから」


 いつもさらわれるもんね! 姫属性の勇者!


 材料はどこからと疑問に思ったけど、そこは追及しないどこう。蘭さんお手製のゴザを一人一枚持って、戸口まで歩いていく。

 廊下のてっぺんから、あのグルグルのらせん状をいっきに下まで……ゴクリ。考えただけで、スゴイ迫力が。


「じゃ、行くよ?」

「ちょっと待って」

「何?」

「かーくんは一番最後ね」

「なんで?」

「かーくんが叫んだら、アメちゃんがうしろの人の顔にあたって痛いじゃないですか」


 ギャフン!

 今どき、ギャフンと言ってみた。それくらいショック。

 しかも、たしかに蘭さんの言うとおりなので、僕はスゴスゴと最後尾へ。正論でやりこめられるのって、ほんとツライ。


「先兵、ロラン。行きま〜す! キャア〜」

「キュイ〜」

「ガウガウ!」

「じじいも行くぞい。おおっ、速い、速い!」


 みんな、楽しそうだなぁ。

 よし、僕も行くか。

 ゴザに乗って、体重をかけて、すべりだす。ワクワク。きっと、おもしろ——


「ワアアアアアアアアアアアー!」


 ザラザラザラザラザラザラザー!

 ああっ、アメちゃんの大群が僕を襲う! 顔、喉、胸はとりあえず全面的にアメちゃんの絨毯じゅうたん爆撃だ!


「ギャアアア! 痛い! イテテ、またアメが……イテテ……」


 よく考えたら、叫ぶのやめたらいいんだけど、パニクってるからさ。気づいたのは一階に到着したあとだ。

 アメちゃんにやられたボロボロの僕を見て、蘭さんは無情に『ほらね』という顔をする。


「かーくん。だから言ったのに」

「うう……」


 蘭さん、アメちゃんムグムグしながら言わないで。

 一階の扉の前には、そうとう量のアメちゃんがたまってる。この砂漠の国でも、個包装から出すまでは溶けないみたいだ。なんて高性能なアメちゃん。


「ああ、美味しい。冷んやりしてて、ジューシーだから水分補給もできるし。南国フルーツ盛りあわせ味ですね。ほんのり塩味もあって、熱中症対策も万全」

「わしのは、かき氷じゃの」


 どうも、その場でもっとも必要な味が出てくるみたいだ。雪国で叫んだら、きっとホットミルク味の温アメちゃんになるんじゃないだろうか? ゆず生姜湯しょうがゆとか、ココアとか。


「それより、姫さま探しに行こう。つれて帰らなきゃ」


 いったい、どこに行っちゃったんだろう?

 困るなぁ。人質が勝手にいなくなるとか。

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