第13話 牢屋のなかで
どうしようかなぁ。
明日には処刑されちゃうんだよね?
今夜じゅうに逃げないといけないのに。
てかさ。猛はまだ気づかないの? 弟がピンチなんだよ? 早く助けにきてよー!
僕は壁にもたれてすわりこんだ。お腹へったなぁ。なんか、カバンに入れてたっけ?
「ミャーコ。食べ物あった?」
「にゃっ」
ぺっと吐きだされてきたのは、僕のアメちゃん。むーん。アメちゃんなら、今しゃべったときに口から出てきたのにぃー。
まあ、いいや。アメちゃんでも腹のたしにはなる。
僕はアメ玉をひろって口にほうりこんだ。
ムグムグ。う、美味い! なんだこれー? 大人のチョコ味。洋酒きいてるなぁ。ん? マスカット入ってる? と思ったら、モグモグしてるうちに、これは……イチゴ? それも丸々一粒入ってる? あっ、今度はバナナだ。輪切りで三口ぶんくらい。ああ、味変したぞ。これは生クリームかな? サクサクのビスケット入り。んん、ムグムグ。プリン? プリンかな? 生クリームとあうなぁ。あっ、また味変だ。これは……マンゴージュースだろうか? トロトロトロと、けっこう量あるな。水分も充分だ。
「ハッ! 異世界トリップしてた! いや、ここ、異世界だけどさ」
一粒のはずなのに、すごい満腹感が。
「ややや、これは美味いのう」
「ですよねぇ。こんなアメちゃん、あります? アメちゃんですよ?」
「高級デザートのフルコースじゃのう」
「ほんと。ほんと。もう一個食べようかなぁ。できれば甘いのばっかじゃなく、ピザとかフライドポテトとか食べたいんだけどなぁ。最後はあっさりレモンティー」
「ほほう。それもよきかのう」
ちょっと待って?
僕、今、誰と話してる?
一人で牢屋に入ってるんじゃなかったっけ?
ももももも、も、も、もしかして、オ……オバケ? オバケなのっ?
やだよ。怖い!
「うーん、美味じゃ。ほうほう、これがピザなるものか? チーズのトロッとした感触までリアルじゃのう」
オバケにしちゃ、しっかり味わってないか?
僕は恐る恐る声のするほうを見た。つまり、僕のとなりだ。
「ワアアアアアアアアアアアッ!」
ザラザラザラザラザラザラザラザラザー!
「な、なんじゃ? 急に大声を出すでない。年寄りの心臓を止める気か?」
はあっ、ビックリした。いつのまにか、僕のとなりにおじいさんが。しかも、よく見たら、さっきの裁判長じゃないか!
「えっと……裁判長ですよね? なんで、ここに?」
「おっと、そうじゃった。君を助けに来たんじゃ。いやぁ、あんまり美味いので、我を忘れてしもうたわ。ハッハッハ」
「……」
まあいい。この世界の人たちがマイペースで他人の言うことを聞いてくれないことは、よくわかってる。助けてくれるんなら、よしとしよう……。
「助けてくれるんですか? てか、どこから入ってきたの?」
「こっちじゃ。ついてきなされ。あっ、アメちゃんは、わしにくだされ」
「えっ? いや、あの、ついてきてって、逃げる場所ないですよね?」
「アメちゃんは、わしにくだされ」
「そこかー!」
ザラザラザー。
「おおっ、アメちゃん。アメちゃん。美味いのう」
もう……なんで、こんなにアメちゃんばっかり人気なんだ。金貸し業はまったくお客さんも来ないのに。
裁判長はミャーコの吸いとりから守るようにアメちゃんをつかんでポッケに入れたあと、部屋の片すみにむかって歩きだした。
すると、そこの壁にさっきまでなかったはずの穴があいてる。なかは下へおりていく階段だ。ああ、隠し通路かぁ。ここから入ってきたんだぁ。
「ささ、ここに」
「あの」
コロン。
サッとひろいあげるおじいさん。
「うむ。なんじゃ? 美味いのう」
「さっき、僕を罠にハメたのは、裁判長じゃないですか? なんで今になって助けてくれるんですか?」
コロン、コロン、コロコロコロン。
ササッとひろうおじいさん。
「うむ。それはじゃな。美味い、美味い」
「しゃべるか、なめるか、どっちかにしてくれませんか?」
コロコロコロンコロン。
「ああ、すまん。すまん。つい、あまりの美味ゆえ。とにかく、まずはここから出ようではないか」
「えっとまあ、そうですね」
急に正論言われると思わなかったな。
僕はおじいさんのあとについて、地下への階段をおりていく。壁は自動で閉まったみたいだ。ということは、もうもとの場所には帰れない。あそこにいてもトイレもないし、明日の朝には殺されるだけだからいいんだけどさ。
ドキドキ。このさき、どうなってるんだろう?
ちゃんと逃げだせるかなぁ?
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