第14話 秘密のぬけ道



 僕のカンテラがフワフワ浮かんで、地下の闇を照らす。

 両側を石壁にはさまれた細い階段をおりていく。


 うーん。なんで僕はこんなとこを歩いてるんだ?

 良心的な金貸しを営んでるだけなのに。何かがまちがってるなぁ。


 カンテラの光がゆれる。

 前方から、かすかに空気の流れが感じられた。どこか外につながってるのか?


 進んでいくと、細い廊下みたいなとこに出た。

 壁のむこうから話し声が聞こえてくる。ボソボソ、ボソボソボソって感じで、ハッキリとは聞こえないんだけど、男の声だ。


 ん? この声、もしかして、聞いたことがあるぞ。妙に甲高くて、イヤミったらしい話しかた。

 そうだ。この前、ダンケさんたち一家を助けに行ったとき、地下に落とされた僕をオークと勘違いして、豚肉になれとか言ってた失礼なヤツだ。

 てっきり、支社長のドンヨークなんだと思ってたけど、違ってたのか。ということは、コイツは……アコギー? 少なくとも、アコギー商会の幹部だろう。


「ヒッヒッヒ。では、お願いしますよ。逆らうとどうなるか、わかりますね?」

「むう……」


 そんなことを言って、立ち去ったようだ。足音がして、そのあと会話が聞こえなくなった。


「この壁のむこうは?」


 小さい声でささやくと、小粒のアメちゃんがころがった。金平糖サイズだ。このサイズで個包装されてるのが逆にスゴイ。女神さまの気遣いだろうか? でも、ほんとに気遣ってくれるなら、今すぐ、この呪いといてほしい。


「王さまのお部屋ですじゃ」と、裁判長は言った。


 王さまとアコギー商会の男が話してたのか? やっぱり、二人はグルなんだ。のんき者の僕でも怒りがこみあげてくる。

 アコギー商会なんか、アコギな商売してる悪人なのに、王さま、なんでそんなヤツらの味方なんだ?


「こっちに来なされ」と言いつつ、裁判長、金平糖サイズのアメちゃんまでひろわないでほしいな。

「ほっほー。これはこれで、なかなか」とか言っちゃって。


 裁判長についてくと、壁のすきまに人間一人が入りこめるがある。

 あっ、穴だ! くぼみに、ちっこい穴がある。裁判長はそこから室内をのぞいて、うなずいた。壁に手をかけると、かるがる動く。老人なのにスゴイ怪力だ、とか思ったら、そうじゃなかった。壁の一部が大きな肖像画で覆われていて、そこが通路を隠してる。つまり、日本で言えば掛軸の裏がぬけ道になってるやつだね。そこから部屋のなかへ入っていけた。


「国王陛下。つれてまいりましたぞ」

「おお、イヴァン。待っておったぞ。これが、その東堂薫こと、かーくんか?」


 かーくんこと東堂薫なんだけど……もういいや。


 王さまは疲れた感じで椅子にすわってる。裁判長と親しげに話してるようすからも、二人はグルなんだろう。

 むむむ、だまされたのか? 裁判長、僕を助けるふりして、親玉のとこへつれてきた?


 疑いの目で見てると、王さまが咳きこみながら声をかけてきた。


「これこれ、かーくんとやら、ここへ来てくれぬか。年をとったせいで病気がちになってのう」


 なるほど。王さまなのに、だいぶやせてる。健康そうとは言いがたい。


「王さまはアコギー商会と結託して、僕をおとしいれようとしたんですよね?」

「す、すまぬ。それにはわけが……わけがあるのじゃ。ご、ゴホッ、ゴホゴホ……」


 王さまはとつぜん激しく咳きこんだ。じゃっかん、わざとらしい。けど、年寄りには親切にしとかないとな。


「大丈夫ですか? 魔法で治しましょうか?」

「いや、けっこう。大事ない。しかし、このとおり、わしにはもう力がない。であるからして、そなたを勇者とみこんで頼みがある」

「厳密に言えば、勇者の友達ですが」

「勇者の友達はみな勇者じゃ! 人類みな勇者!」


 やっぱり、このおじいさんもゴーイングマイウェイだ!

 この世界の人って、みんな、こんな感じか?


「ゲホゲホガホ、ゲッホゲゲッホゴホ! 頼まれてくれい。勇者殿!」

「咳きこまなくていいです。話は聞きましょう」


 安心したのか、王さまはピタリと咳をおさめて話しだした。うーん、仮病……。


「じつは、アコギーに姫をさらわれておる」

「えっ?」

「姫を返してほしくば、言われたとおりにしろと……」

「なんと!」

「わが国は砂漠の貧しい国ゆえ、兵力もとぼしいのじゃ。アコギー商会のモンスター隊をやぶり、姫をとりもどすことはとてもできぬ。ヤツの命令に唯々諾々いいだくだくと従うしかなかったのじゃ。ゆるしてくれぇ」

「ふーむ」


 お姫さまがさらわれるなんて、この甘美な響き! RPGの王道じゃないか!

 まあ、僕には、たまりんという立派な彼女がいるから、姫さまを嫁にもらってくれいと言われても断るけどね。


「で、僕にどうしろと?」

「姫を助けだしてほしいのじゃ!」

「まあ、そうですよね」


「助けてくれたら、処刑はなかったことにする!」

「ちょっと待てぇー! もともと処刑はそっちが難くせつけてきただけだよね? 冤罪えんざいだよ、冤罪? まさか断ったら、罪なき一般人を処刑するつもり?」


「姫を助けてくれねば、アコギー商会の言うとおりにするしかないのぅ。悪く思わんでくれい」

「思うよ! 思いっきり恨みたおすよ!」


 どっちみち、助けにいくしかない状況。


「しょうがない。行くか」

「では頼んだぞ。姫が囚われておるのは、砂漠の塔じゃ」


 砂漠の塔かぁ。これまた、いかにもRPGっぽいなぁ。ちょっとワクワク。

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