三章 アコギー商会の魔の手

第12話 連行されちゃった



 くすん。僕、連行されてしまった。馬車にゆられて、何日もつれてかれたよ。


 窓のすきまから見た感じ、国境をすぎて、となりの国に来たみたいだ。ボイクド国の西にあるサンドールって国だね。そう言えば、サンドールは魔王倒しの旅のとき、行ったことなかったなぁ。砂漠の多い南国だって聞いたことがあるけど。


 道中、見えるのはヤシの木の並木道とか、やけに青い空。それにドーム形の屋根を持つエキゾチックな建物。


「さあ、来い。立て」

「暴力反対。拉致被害で訴えてやるぅ。ボイクド国と戦争したいのか? 言っとくけど、僕、王さまのマブダチだよ? 将軍は僕の兄ちゃんだし」


 シュシュシュッとアメちゃんを吸いこむミャーコポシェット。いつもいい仕事するね。


「いいから来るんだ」


 なんかよくわかんない罪のために、よくわかんないまま、僕は裁判所へつれられていった。裁判長はヤギひげのおじいさん。


「東堂薫こと、かーくんだな?」

「いやいや、だから、かーくんこと東堂薫だって」

「そなたは商標盗用罪でアコギー商会より訴えられておる」

「アコギー商会? それ、絶対、ただの難くせでしょ? 僕がこの前、ドンヨーク支社長を逮捕させたからじゃないの? そもそも商標登録って、僕、金貸しなんだから、商標使うような商品ないんだけど?」

「これじゃ」


 おじいさんは床をさした。


「床? ここ、ぼくんちじゃないんで」

「そんなことわかっとるわ! 床ではなーい」

「床じゃない?」


 でも、おじいさんが指さしてるのは、どう見ても……ああっ! 床の上にたんまりと山になったアメちゃん! シュシュシュッとそのすきに、ミャーコが飲みこんだ。


「アメちゃんが?」

「さよう。アコギー商会が主力商品として販売している『アコギャンディー』の商標を、そなたのアメちゃんが模倣しておるのだ」

「いやいやいや、僕のアメちゃん、勝手に出てくるだけなんで、商標がどうとか言われても。そもそも、アコギー商会って金貸しじゃん。アメちゃんなんか売ってんの? そんな商品、あるなら見せてよ」

「これじゃ」


 おじいさんが出してみせたのは、どこから見ても、僕が吐いたアメちゃんだ。


「それ、僕のアメちゃんなんだけど! どっかでひろったんでしょ?」

「アコギー商会の商標として登録されておる」

「もしそうなら、ヤツらのほうこそ、僕のアメちゃんを盗んで勝手に自分の商品として登録したんだよ。そっちこそ泥棒じゃん! てか、商標って商品のマークのことだよね? どのへんが商標なの?」

「えーい、ウルサイわ! そなたは死刑じゃ。つれていけ!」

「えーっ!」


 ザラザラザー。


 り、理不尽すぎる。

 思いっきり、アコギー商会の仕返しにしてやられた。それにしても、こんな訴えをまともに受けるなんて、サンドール、怪しいぞ。王命書を持ってたってことは、この国じたいがアコギー商会の支配下なのかもしれない。


 参ったなぁ……。


 ここであばれて逃げだす?

 もちろん、僕の強さなら、それもできなくない。でも、そうなると、法廷騒擾ほうていそうじょう罪とかなんとか言われて、ボイクド国の王さまに国際犯として僕をさしだすよう言ってくるに違いない。じっさい、法廷であばれてるわけだから、王さまも僕をさしださざるを得ない。もし断ったら、ほんとに戦争だ。


 うーん。ここはおとなしくつれていかれるべきか? そんで牢屋からこっそり逃げだす。でも、ただ家に帰っても、どうせまた捕まえにくるよなぁ。困った。困った。


 とりあえず、おとなしく連行されていく。

 裁判所を出ると、となりがすぐ牢屋。お手軽だなぁ。


「ここに入ってろ。明日の朝には処刑だからな」

「鬼! 悪魔! お金貸してやんないからな! 僕のアメちゃんも食べさせてやんない!」


 隊長は無言で去っていった。

 石造りの暗い牢屋だ。

 窓は高いとこにあるけど、僕の手は届かない。よくある鉄格子の戸口。室内にはなんにも置いてない。ベッド一つないよ。風呂はしかたないにしても、トイレは? トイレどうしろと?


 まあ、いいや。僕は万能鍵持ってるもんね〜

 さてと、じゃ、鍵あけて逃げだそうかなぁ。カチャカチャッと。


「ん?」


 カチャカチャッと。


「ん?」


 鍵穴がない?


 僕はあわてて、扉のすきまから錠前を見た。

 な、なんとー! ダイヤル錠だー! 三桁の数字あわせないとあけられないやつ……。


 これは、もしや……ここから出られない?

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