第11話 平和になったと思いきや



 ドンヨークの利率は明らかに法律に反してた。この世界で認められてるのは年利20%まで。なのに、月々に二割の利息を要求してたんだ。つまり、少なくとも法定金利の十二倍。


 ドンヨークは詐欺罪として、王宮の地下牢に投獄された。


「ありがとうございました。おかげでアコギー商会への返済がなくなり、妻や子どもたちも無事にとりもどすことができました」

「五万円は必ずお返しいたしますので」

「トン!」

「テキ!」

「ドン!」


 自宅へ戻り、深々と頭をさげるダンケさん一家。みんな無事でよかったけど、荒らされた畑をもう一度手入れして収穫できるようにするには、時間もかかるし、ひじょうな労力がいるだろう。まずは枯れてしまった作物の後始末からだ。


 と、そこへ空を飛んで近づいてくる竜の羽を持つ何か。猛だ。


「おーい、かーくん。遅いぞ。いつまで視察してるんだ。アメちゃんが売り切れちゃったじゃないか」

「だからね、兄ちゃん。うち、アメ屋じゃないから」

「よしよし。もっとしゃべれ」

「兄ちゃん、聞いてる? 最近、弟をアメ製造マシーンだと思ってない?」

「ハハハ。明日も売るぞ」


 僕らの足元では、トンテキドンがアメちゃんを奪いあってる。みにくい兄弟の争い……。


「ん? そうだっ!」


 ザラッ。


「おおっ、出た。出た。どうした? かーくん」

「いいこと思いついたんだよ。兄ちゃん、明日はアメ、売れないからね」

「ええーッ!」

「そんなに拒否反応示さなくても……」

「なんでだー! 兄ちゃん、がんばって貯金ためて、竜を飼うのが夢なのに!」

「えっ? 竜欲しいの?」

「欲しい。だって、ミャーコなでようとするとイヤがるじゃないか! 竜くらいデカけりゃ、兄ちゃんの静電気にも耐えてくれるかなと」

「じゃあ、あげる」

「えっ?」

「はい。竜くん」

「オオーン!」

「……」


 というわけで、仕込みをその日のうちにして、翌日だ。

 荒寥こうりょうとした荒地が、本日はたくさんの人で大にぎわい。


「はいはい。みなさん、入園料はこちらね。あっ、まだお金払ってない人はひろっちゃダメ。僕がしゃべるとアメちゃん出るけど、タダじゃないからね!」


 ザラザラザラザラ……。

 毎日、よく出るなぁ。アメちゃん。


 というわけで、今日は三本橋のダンケさんの農地で、アメちゃん狩りだ。イチゴ狩りやリンゴ狩りがあるなら、アメちゃん狩りがあってもよかろう。


「かーくん。もうアメちゃんが少ないぞ。客はまだまだいるんだからな。受付はおれがやっとくから、補充たのむ」

「了解」


 じゃ、行くよ?

 すうっと息を吸いこんだ僕は、


「ワアアアアアアアアアアアーッ!」


 畑のなかをかけまわる。

 僕の通ったあとは、帯のようにアメちゃんが降りつもる。

 むらがる人々。


「ありがとうございます。これで五万円と利息の五百円。お返しできます。それどころか、新たな資金も」

「うんうん。また困ったことがあれば、うちに借りにきてよ」


 やっと回収できた。僕の小銭ちゃん。けっきょくはアメちゃん頼りだった気もするけど……。

 なんか、思ったより金貸しってたいへんだなぁ。

 五百円の利益を得るのに、こんなに苦労するもの?


「だからさ。かーくん。アメ屋になればいいんだよ」


 なんて、猛は言うし。

 うーん。本気で悩む今日このごろ。


 ところがだ。最初の仕事がなんとか無事に終わり、安心してた僕のもとに、とつぜんの事件発生。


 ある日、屋敷に一個小隊ほどの兵隊さんたちがやってきて、僕の前にドドンと王命書をさしつけた。


「おまえが東堂薫こと、本名、かーくんだな?」

「いやいや、の使いかたまちがってるし。それ言うなら、かーくんこと東堂薫だよね?」


 ポロポロポロポロ。

 あいかわらず、アメちゃんはころがる。女神さま、ほんともういらないんで、なんとかしてください。


「まちがいない! その人心を惑わすアメ玉。きさまをわが王の命により連行する」

「えっ? ちょっと待ってよ。ボイクド国の王さまなら僕らの友達なんだけど? てかさ。その王命書の国旗、どこの? ここボイクド国なんだけど? あんたたちこそ領土侵犯だよね?」

「問答無用!」

「ワアアアアー! 兄ちゃん、助けてー!」


 ザラザラザラザラザラザラザー!

 あっ、アメちゃんはいっぱい出たけど、こんなときにかぎって、猛がいない。今日はボイクド城へ将軍の仕事しに行ったんだった。

 助けてぇー。兄ちゃん。僕、さらわれるよぉ。

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