第5話 僕の小銭ちゃんが回収できない



 どうしよう。このままじゃ、不良債権だ。僕の小銭ちゃんが回収できない! 小銭ちゃん。僕を信じて旅立っていったのに、こんな形でお別れなんて!


「返済期限はいつだったんですか?」

「今月の末だ」

「まだ十日もあるじゃないですか。利率は?」

「えーと、十万借りて、十年ローンで月々、利息が二万。利息を払えないと、そのぶんも元金に加算されていくんです」

「えッ? 20%? 月々二万? しかも複利? そんなの返せないでしょ? てか、そんな暴利、完全な闇金融なんですけど!」


 怒りのせいで、思わず声が大きくなる。アメちゃんゴロゴロ。


「アイツら最初から、私たちが金を返せないことをわかってたんだ。モンスター狩りが禁止されて、今、オークの肉が食用として高騰こうとうしているらしい。初めから、私たちを食肉にするために……」

「ひ、ヒドイ!」


 なんてことだ。それじゃ、あのオークのお母さんや可愛い子ブタたちが精肉されてしまう! 助けに行かないと!


「わかりました。助けに行きましょう」

「でも、お金が……」

「そこは僕がなんとかします。とにかく、早く行かないと。アコギー商会ってどこにあるんですか?」

「本社は知らない。けど、私たちが金を借りた支社は三角森のなかに」

「三角森かぁ」


 僕は地図で確認した。馬車で行けば二時間でつくかな。


「じゃあ、僕は行きます」

「待ってくれ! 私も行く。ブヒッ。今なら飲まず食わずで一週間は戦えるぞ」


 アメちゃん効果だね。


「じゃあ、行きましょう」


 おじさんは兵隊だったころの胸あてと剣をとりだしてきた。まあ、戦力は期待してない。僕とぽよちゃんがいれば、正直、そのへんの商売人に負けるわけがない。一国の軍隊が出てきても平気だね。


 三角森をめざして、さらに北上していく。ボイクド国と隣国のあいだにある深い森の手前に、三角に刈りこまれた小さな森がある。私有地らしくて、ふだんは通りぬけできない。


「正面から行って、通してくれるかな?」

「さてね。ブヒ」


 いちおう行ってみよう。話しあいですめば、僕がオーク一家の借金をたてかえて全額返済し、そのぶんをもっと低金利で、あらためて貸しつければいいんだし。長期貸し付けなら、さすがに月々分割で、そのかわり、利率0.001%でもいい。じゃないと、このブタさんたち、返済能力ないだろう。


 とりあえず、表門から入れないか試してみた。森の入口にゲートがある。


「あのぉ、すいません。アコギー商会に行きたいんですけど、通してもらえますか?」


 ボロボロボロとアメちゃんが。この世界の人たちって、誰もこれを怪しまないとこがスゴイ。門番はうさんくさそうな目をしてたけど、アメちゃんには見むきもしない。食べてみなよ。美味しいから!


「アコギー商会に行きたいんですけど! 通してもらえませんか?」


 ヤギみたいな顔した門番は首をふった。


「うんにゃ。旦那さんのおゆるしのないやつは誰も入れちゃなんねぇ」


 やっぱムリだったか。

 でも、金貸しならお客さん来てくれるのはありがたいことのはずだ。それを入れないってことは、なんかアコギな商売してるからじゃないの? 人に見られちゃいけないものがあるとか?


 いったん、ひきかえす。門から見えないとこまで戻ると、僕はそこで猫車をおりた。


「トラっち。ここで待っててね。僕に何かあったら、おうちに帰って、猛に知らせてね」

「にゃっ」


 車をひいてるトラっちは魔法猫だから頭もいい。

 オークのおじさんと二人で歩きだした。もちろん、ぽよちゃんはついてくる。


「どうするんだ? ブヒ」

「門番に見つからないように、脇からもぐりこみましょう。ところで、あなたの名前は?」


 奥さんは契約書かわしたから、名前知ってる。オークのオクさんだ。オクさんが名前である。となると、もしや、旦那の名前はダンナさんか?


「私はダンケです」


 あっ、ちょっとだけカッコよかった。


「僕はかーくんです。こっちは僕の友達のぽよちゃん」


 ダンケさんは、なんだ、ぽよぽよかって目をしたけど、ふふふ。今におどろくことになるよ?


 森のなかに侵入するのは、木立のあいまに入っていけば、できなくはない。ただ、道に出るまでがたいへんだった。意外と深い森だな。木が密集してる。


 しばらくすると、やかましい鳴き声が近づいてきた。なんだろう? 犬かな? もしかして、番犬を放し飼いにしてるのか?


 いや、違った。

 樹間をかけぬけてやってきたのは、番犬どころじゃない。

 コイツは見おぼえあるぞ。

 魔王城の門前でよく会った。地獄の番犬だー!

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