第4話 トウモロコシ畑視察



 契約書にサインしてもらって、僕は五万円を貸した。ちなみに単位は円だけど、貨幣は硬貨だ。使うときの利便性を考えて、五千円銀貨を十枚渡した。僕って親切な金貸し。


 それが、一週間前。

 旦那さん、そろそろ元気になったかな?

 トウモロコシは順調に育ってるかなぁ?

 たった五百円の利鞘とは言え、最初のお客さんだ。僕の小銭ちゃんたちをしっかり回収したい。


「兄ちゃん。僕、三本橋岬まで実地調査に行ってくる」

「えっ? かーくん。アメ屋は? アメ玉、買いに来た人たちには何を出すんだ?」

「だから、うちはアメ屋じゃないからね?」

「わかった。じゃあ、兄ちゃんが店番しとく」

「いや、だから、アメ屋じゃないからね?」

「気をつけるんだぞ? 外でしゃべるなよ? アメちゃん吐いたら、ちゃんとひろっとくんだぞ?」

「兄ちゃん、そう言いながら、アメちゃん、カゴに入れるのやめてくんない?」

「ハハハ。かーくんもカゴ持ち歩くんだぞ?」


 うーん。わが兄がアメの下僕になりさがってる。


「ぽよちゃん、お散歩行こ?」

「キュイ〜」


 僕は番犬ならぬ番ぽよぽよのぽよちゃんを呼んだ。ぽよぽよはこの世界で最弱のウサギ型モンスターだ。ただし、僕のぽよちゃんは最弱どころか、モンスターのなかでは最強と断言できる。魔王倒しの旅で数値あげすぎちゃって、ほとんどのステータスが限界いっぱい、ふりきってる。


 広い庭で庭草を美味しそうにハムハムしてたぽよちゃんが元気よくかけつけてくる。片方の耳にハート模様のある白ウサギだ。


 三本橋岬はそうとう遠い。なので、これまた魔王倒しの旅の途中でもらった小型の猫車に乗っていく。馬のかわりに巨大なトラジマの猫が車をひいてるんで、猫車だ。


 昔はこれと、もう一つ大きな馬車に仲間や仲間モンスターを乗せて旅したもんだけど、モンスターたちのほとんどはそれぞれの世界に帰ったり、勇者の蘭さんについていった。僕のところにはミニコとぽよちゃんしかいない。


「ああ、岬が見えてきたねぇ。ぽよちゃん。ここからは歩いていこうかぁ? 潮風が気持ちいいよ」

「キュイ〜」


 三本橋っていうのは、岬と小島をつないでかかる三つの橋のことだ。

 さて、トウモロコシ畑はこのさきにあるらしい。いっこうにそれらしいのが見えてこないけど、あるらしい。

 ……あるのかな? 荒地しか広がってないんだけど?


 三つめの橋を渡る。

 そのさきの景色を見て、僕は愕然がくぜんとした。

 たしかに、トウモロコシ畑はあった。いや、トウモロコシ畑だったものは、だ。ほとんどのトウモロコシがへしおられ、ひっこぬかれたり、火で燃やされたり、岩でつぶされたり、土をかぶったりして枯れている。畑として再生させるだけでも、ものすごい労力がいるだろう。


「ヒドイ。なんだって、こんなことに……」


 オークの一家は大丈夫だろうか? 心配だ。台風や地震みたいな自然現象なら、火事で燃えたようにはなってない。このようすは誰かにわざと畑を荒らされたんだ。


「お母さーん。三匹の子ブタたちー!」


 僕はアメを吐きながら、近くにある小屋みたいな家に入っていった。戸口が壊れてる。ここにも暴力のあとが……。


「オークのお母さん! 子ブタたち!」


 家のなかは嵐がすぎさったあとのようだ。もともと少ない家具がすべて破壊されてる。ベッドだけはなんとか無事で、そこに男の服を着たオークがよこたわっていた。うんうん、うなってる。たぶん、病気の旦那さんだ。


「大丈夫ですか? 家族がいませんね?」

「う、うーん……」


 ダメだ。熱が高い。これは荒地で発生するマダニが媒介するマダニ炎症か? これは、アレだ。毒の治療で治るはず。


「毒よ、消えろ〜」


 僕は久々に魔法を使ってから、ハッとした。そうだ。高額の薬で治療しなくても、魔法でチョチョイとやったほうが早かった!


 オークのおじさんは目をさました。


「気分はどうですか?」

「あ、ありがとう……ブヒッ。よくなった」


 病気は治ったみたいだ。でも、何日も水も飲まずに放置されてたみたいで、フラフラしてる。僕はそっと、たったいま吐きだしたアメちゃんを渡した。


「これをなめると元気が出ます」

「ブヒ?」


 おじさんが全回復するのを待って、僕はたずねた。


「いったい何があったんですか? 畑も家のなかもめちゃくちゃですが」

「……アイツらだ。アイツらが金を取り立てに来て、払えないと言うと、暴れまわってから、借金のかたに妻と子どもたちをつれていった」

「アイツら?」

「荒地を開拓するための費用を借りた、アコギー商会だ。ブヒ」


 アコギー? 何その、いかにもアコギな名前の商会?

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