第3話 アメ屋になるか、金貸しになるか



 とにかく、開業にはこぎつけた。チラシをいっぱいくばって、開店祝いに無料でアメちゃんもプレゼントしたよ。うちにあってもジャマになるばっかりだし、僕と猛が食べれる数はたかが知れてる。


 おかげで初日から、すごい行列が!


「アメください!」

「前にくれたキャンディが欲しいんですけど」

「アメー」

「アメちゃん、くれぇ」

「買わせてください」

「キャンディはおいくらですこと?」


 違う……みんな、うちをアメ屋だと思ってる。


「はいはい。一粒百円ね。袋入りなら二十五粒入りで二千円。ちょっとお得だよ」

「——って、猛! 何やってんだよ。兄ちゃん」

「いやぁ、とぶように売れるな。ハハハ」


 ハハハじゃないし。

 ワアワアとさわぎながらアメをぶんどっていった人々は、順番に帰っていった。あとには、ガラーンと僕と猛……。


「お客さんがいない!」

「いたじゃないか。アメ、完売だぞ。もうちょい早くしゃべってくれたら、そのアメも売れたのにな」

「兄ちゃん! 弟の吐いたアメで小遣い稼ぎしないでよ」

「あっ、悪い。悪い。原料費で売り上げの5%やるよ」

「全額、僕のものだよねっ?」

「えっ? 兄ちゃん、がんばった……」

「泣きマネしてもムダだよ。猛が泣いても可愛くないからね?」

「兄ちゃん、小遣い欲しい……」

「……もう、しょうがないなぁ」


 そんな会話のうちにも、コロコロ、コロッコロッ、ころがり続けるアメ玉。

 僕は気づいたんだけど、大きな声出すと、アメちゃんの数が増える。粒も大きいみたいだ。とすると、小声でしゃべるほうが省エネかな?


「とにかく、アメちゃん、片しとかないと。おーい、ミニコー。お掃除お願い」

「ミ〜」


 ミニコは魔王を倒す旅の途中で、僕が買ったミニゴーレムだ。とっても優秀。今は家の雑事を頼んでる。見ためは大人の半分サイズのブリキのロボット。女の子。


「ミニコ。アメちゃんはすてるんじゃないぞ? 明日も売るからな」と、猛。

「ミ〜」

「兄ちゃん。うち、アメ屋じゃないからね?」


「あのぉ……」


「おおっ、またまたタダで商品が。がんばれ、かーくん。もっとしゃべれ」

「だから、うちアメ屋じゃ……」


「あの……」


 なんなんだ? さっきから、僕らのよこでゴチャゴチャと。それに僕の足元で、やけにカサカサ音がする。

 僕はそっちを見た。


「わあああああああーっ!」


 ザラザラザラザラザラザラザー!

 滝のようになだれ落ちるアメちゃん。

 そのアメにイナゴのようにとびつく三匹の子ブタ!


 どっから見てもブタさんだ。服着てるけど。それが三匹、夢中でアメちゃんをむさぼってる。


「うちの子が、すみません。もう三日も何も食べてないものですから……」


 あ、声のぬしは僕らのかたわらに立ってた。やっぱりブタ……いや、オークだ。

 魔王が倒されてから、争いがなくなって、人間界に住みつくモンスターが増えてきたんだよな。


「えっと? あなたは?」


 コロコロリン。


「お金を貸してくださると聞いたので」

「お金を借りにきたんですか?」


 コロン、コロン。コロロ。


「そうですよ?」

「えーッ? お客さん、いたァー!」


 ザラザラザラザラザー!

 あっ、しまった。叫ぶといっぱい出るんだったよ。


「お客さんならどうぞ、こっちへ。いかほどご入用ですかねぇ? あっ、その前に、お母さんもアメちゃん、いかがですか? 生みたてアメちゃんですよ?」


 茶菓子はタダ。こりゃ便利。


「でも、お高いんじゃ……?」

「お客さまにはサービスです!」


 タダだからねぇ。


「ミニコー。お客さんにお茶持ってきてぇ」

「ミ〜」


 商売のために玄関ホールに応接セットを置いてある。そこにオークのお母さんを案内した。子ブタたちは猛と争って、アメちゃんをとりあってる。猛、大人げないなぁ。


「お金が必要なんですか?」

「はい」

「ちなみに用途はなんでしょう?」


 三日も子どもに食事あたえてないとか、かなり貧乏だということは察しがつく。ほかへの借金の返済なら、残念ながら、回収不可能とみなして、僕の可愛い小銭ちゃんたちを貸すわけにはいかない。貸し付けには審査があるんだ。CMでもそう言ってる。


「わたしの夫は以前、魔王軍の兵士でした。魔王軍が解体されたので、荒地を開墾かいこんしてトウモロコシ栽培をすることにしたんです」

「うんうん。魔王軍にとっては災難でしたね。悪いのは幹部であって、一兵卒じゃないですからね」


 魔王軍壊滅させたのは僕らなんだけど、そこはこのさい置いといて。


「ご所有の荒地はどのあたりですか? ああ、あの三本橋岬のさきのね。あのへんは街から離れてて買い物は不便だけど、農地としてはいいですね。開墾すれば、実りのいい農耕地になると思いますよ。ただ、人の手がまったく入ってないので、開墾はたいへんですけどね」


 茶菓子があふれる。


「死ぬ気でがんばるつもりでした。でも、夫が病気になってしまいまして……急な治療費が入り用になりまして」

「それはいけませんね」

「ですので、五万円ほど貸してもらえないかと。大金なのはわかっています。最初のトウモロコシの収穫が一ヶ月後なんです。そのときに必ずお返ししますので、お願いします」


 うーん。病気の治療費を借りにくるってことは、貯えはほんとにないんだな。まあ、収入の目処はあるわけだから、ここは貸してあげるか。もしも僕が断ったせいで、治療ができずに旦那さんが死んじゃったら、さすがにかわいそうだ。


「いいでしょう。では、利息は0.01%でいかがですか? 返済は一ヶ月後で、元金の五万円プラス利子の五百円をそろえてください」

「……わかりました」


 日本のゼロ金利政策なみの良心利率! まあ、貧乏そうだし、最初のお客さんだからサービスだ。

 それにしても、一ヶ月でアメちゃん十粒の金利か。意外ともうからないな。もっと大金借りてもらわないと。


 やっぱり、アメ屋になるほうがいいんだろうか? 悩む……。

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