第2話 魔剣

「おい、あれ・・・ベルジュラック様じゃないか?」


と公務を終え、ルナティアの後ろからついていく人物を

高官達がヒソヒソと話している。


「さすが有名人ね」とルナティアが茶化す。


「ベルジュラック様が青の国に仕えると言ってくれて

 助かりますわ」とわざと大きな声でルナティアは言う。


「いえいえ、ひとりで異世界から転移し戻ってきて、迷ってる所を

 助けてくださいましたからねぇ。私ひとりで大変でした」

とわざと大きな声で言うベルジュラック。


部屋に戻るとベルジュラックはルナティアに問う。

「ところで、私が転移した後に緑の国と白の国はあんたが

 滅ぼしたのかい?」


「違うわよ、ただ単にそこの国はエンド討伐戦に巻き込まれただけよ。

 凄かったわよ、ワイバーンの群れ。ドラゴンもいたわね、そういえば。

 青の国はほぼ全数の兵士をエプタとかエンドの城を攻めてたから

 黄の国に防衛をお願いしてたわ。

 そもそも私が人間の国を亡ぼすわけないじゃない」とルナティア。


「なるほどねぇ、で今は自治区か」とベルジュラック。


「そうよ、遅かれ早かれそこをめぐって黄の国と戦争になったわ。

 だったら速攻で支援名目で占領して黄の国との戦争を回避したわ。

 そこの王も王家も皆死んじゃっててて楽だったそうよ、占領。

 泣くのはいつも民衆ですしね。これバーボンの案よ」


「エンドとエアストの件が終わって、青の国では皇女が代わった。

 先代はまだ寝室でぶっ倒れて意識不明よ。そりゃそうよ、

 全ての魔力でエンドの城の封印を押さえていたんだから。」


「それで、私がバーボンの推薦で皇女よ。まぁ推薦が無くても

 皇女になってたけどね。バーボンはそのあとすぐに

 黄の国への説明と行方不明になったあなたと娘を調べると言って

 黄の国へ行ったわ。まぁ緑と白の国の件でバーボンが、まぁ

 今の貴女と同じ様に黄の国で三食昼寝付きの生活を選んだのよ」


それを聞くとベルジュラックは

「ふん。バーボンに見張りを付けてる風を装い

 その後はジヴァニアを監視するんだろうに」と言う。続けて


「そしてウォッカを探させるんだろ?でも親子が会ったら会ったで

 色々と大変なんじゃないかい?」


ルナティアは

「ふん。魔剣を持ってないウォッカなんて敵じゃないわ。というか

 私も、そう多分ウォッカも一区切りはついてるのよ、戦いの件は。

 私の目の前に現れなければ、・・・それでいいわ。」


「じゃあ何故ジヴァニアを気にするんだい?」とベルジュラックが

言うとルナティアは


「それはもう、私のお付きにするのよ。

 稀代の魔導士ベルジュラックのひ孫。

 バーボンという青の国随一の指揮官の娘。

 十分だわ。その二つだけで。すごく使い道たくさんあるわ。」


「なんならジェニエーベルが紫の国を復興させるのにも使うわ。

 青の国のルナティアが滅ぼした紫の国の復興を私自らが容認し、

 そしてルナティア皇女様が一番の信頼を寄せる女性を派遣する。

 そのまま結婚してもいいのよ?あはは。」


「紫の国にいた連中は納得しないだろう。青の国の介入は」

とベルジュラックが言うと


「そんなもの、私が赴いて死んだ者たちと民衆に頭下げれば済むことよ。

 それと自治区と言ってもほぼ全ての権限をあげるわ、国としての。」


「そんなことでエンドの封印を守ってくれるならお安い御用よ」


なるほどねぇ、とベルジュラックは返し、


「で、ジヴァニアをエンド封印の監視者にするってことか。

 でも、すべてを知ってあっちに付いたらどうするんだね」


それを聞いたルナティアは


「そのためにあなたがここに居るんじゃないの。」


そりゃそうか、と納得したベルジュラック。

「ルナティア様と一緒に居ると逃げられる気もしないしね。

 そして、子供たちはいつまでも子供じゃないのよ、

 親が決めた事に反抗するのが子供なのよ?」

とも付け加えた。


しかし、とベルジュラックは思う。


確かにルナティアの案は実に良い案だ。

勇樹も青の国と争うことなく紫の国を復興できる。

少なくとも血が流れることはない。


そして私以上に魔導士として活躍が見込める美香が居ることで

意図しないエンド復活の兆しがあった場合に

少しでも遅らせることが、・・・抑えることができる。


しかし、あの子が、ジヴァニアがいう事聞くかねぇ・・・。

そしてジェニエーベル様も両親の、

そしてミネルヴァの敵の手での復興を容認するかねぇ・・・。



まて、


私は勘違いしていたことがある。魔剣の事と転移の事だ。



魔剣はエンドが復活した時に切るためと思ってしまった。

私はエアストもエンドも神と知っているから。


ミネルヴァは紫の国の高官だ。エンド封印の事は知ってたはずだ。

ミネルヴァが「エンドは魔王」と思っているのであれば

魔剣でエンドを討つ事は出来ないと思っていたはずだ。


ならば何故ジェニエーベルに魔剣を持たせたのか。

ジェニエーベルの話では使う時が必ず来ると言ってたらしい。


もしかしてミネルヴァはルナティアが「神」であると

知っていたのではないか。だからルナティアを討つために

魔剣を打ちジェニエーベルに渡した。




どうやって知ったのだ・・・。

ルナティアがエアストである事を・・・。




そもそも、どうやって向こうの世界に転移したのだ・・・。

そのことを失念していた。

てっきりミネルヴァの魔法と思い込んでいた。

ミネルヴァは転移魔法は使えない・・・。



何考えてるの?とルナティアが聞くと

ベルジュラックは答えた。


「歳は取りたくないねぇ・・・。物覚えがわるくなると

 考えていたのさ」








 

 











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る