第30話 リーリアの実力

「――で、なんで本当に着いてくるのかな」


 2時間後。俺たちはリーリアと一緒にダンジョンを歩いていた。


「だって、リーリアが『ついてこれるならいい』って言ったんだろ。俺たちは着いてこれるからここまで来た。何かおかしいか?」


「……もういい。静かにして」


 リーリアはいつにも増して不機嫌そうだ。一人で先へ進んでしまっている。


 いきなりの15層デビュー。これまで行ったことない領域だが、俺には勝算があった。

 なんせ、俺の懐にはハイポーションが5本刺さっている。<疾風怒涛翔>を使えば体力が減るが、これを飲めば秒数はリセットだ。


 リーリアは戦闘が得意そうだし、今日はかなり安心して臨めるだろう。


「リーリアさんっておいくつなんですか? すごく大人に見えたので!」


「……私? 私は18だけど」


「お、じゃあ俺と同じだな」


「はぁ!? あんた18!? もっとオッサンだと思ってた」


「傷つくなあそういうの……」


 なんて雑談をしていると、10層までたどり着いてしまった。


「「ギャギャギャッ!!」」


 前方から2体のモンスターがやってくる。獣のような鳴き声で迫ってくる敵を前に、俺は声を上げた。


「リーリアとティナは右の奴を頼む! 俺は左をやる!」


 <疾風怒涛>を発動し、左側にいた犬のようなモンスターを切り上げる。

 やはり昨日のサイほどの硬度はない。一撃で絶命させた後、二人の方を見やった。


「<炎鳥飛翔バーニング>!!」


 リーリアは残ったカエルのモンスターに炎魔法を打ち込む。

 ――しかし、カエルは全く止まることなく、リーリアに向かって飛び掛かった。


「<疾風怒涛翔>!」


 リーリアが危ないと判断した俺は、即座に彼女の前に立ち、カエルを切り裂いた。


「怪我はないか?」


「い、今のは……たまたま調子が悪かっただけだから!!」


「そんなこと聞いてないが……」


 リーリアは俺の指摘にハッとすると、ばつが悪そうにまた歩き出してしまった。

 なんだか様子が変だな……?


 それから11層、12層と攻略を進めていく。違和感に気づいたのは13層に着いた時だった。


「<火球フレイア>! <火球フレイア>! <火球フレイア>!」


 モンスターとの戦いの中で、リーリアは炎魔法を乱射している。それらは全て敵に命中しているが――まるで効いている気配がない。


 リーリアが倒せなかったモンスターを切り捨て、俺は彼女の前に立つ。


「はぁっ。はぁっ、はぁっ……い、今のは……」


「リーリア。正直に言ってくれ。君はこれまで、15層どころか10層にすら行ったことがなかったんじゃないのか?」


「どういうことですか!?」


 見ればわかる。明らかに強さがモンスターに通用していない。

 確かに魔法の腕はいい。だが、それ以上に敵が強い。リーリアの魔法はまるでダメージになっていないのだ。


「……そうよ。私は15層に通用するような力は持ってない」


「だったらなんでそんな格上のクエストを受けたんだ?」


「――お金が必要だったの」


「そうか。次からは気を付けるんだぞ」


 俺は納得して先へ進もうとする。しかし、リーリアは動かない。


「……なんで、それ以上聞こうとしないの」


「リーリアが話したくないなら俺は聞かない。それに、受けちゃったんだからクリアするしかないだろ」


 俺も隠しクエストを達成するためにはリーリアと一緒にクエストをクリアすることが条件だから、途中で投げ出すわけにもいかないし。


「それに、俺はそれでもミノタウロスを倒せると思ってる」


「本気? Bランク冒険者がパーティを組んで攻略するような相手なのに?」


「ああ。自分がどこまで行けるか気になってたんだ。金はいらないから、好きに使ってくれ」


「ふざけないで!!」


 突然声を荒げたのはリーリアだった。


「なんでそんなふうに言えるの!? あんた、私に騙されてるかもしれないんだよ!? 目的も言わない相手にお金を渡すなんておかしい!」


「欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ……俺は別に騙されてもいいさ。強くなるのが目的だし、クエストに行こうって言ったのは俺だからな」


 だけど、と俺は付け加える。


「金に困ってる理由を教えてくれるんだったら、このクエストが終わったら言ってくれ。何か手伝えるかもしれない」


「アスラさんが言うなら、私も協力しますよ!」


「……なんで」


「グオオオオオオオオオオ!!」


 ぼそりとつぶやくリーリア。しかし、その声はモンスターの泣き声によって搔き消された。


「二人とも、なるべく怪我しないように後方を支援を頼む! <疾風怒涛翔>!」


 走り出そうとした瞬間、めまいが起こって俺はその場に座り込む。


「くそっ、タイムオーバーか……だが、まだだ!」


 腰に携えた小瓶の蓋を開けて、ハイポーションを口に流し込む。

 すると、さっきまでの疲労が嘘のように消え去り、全身に力がみなぎってくる。


「よし、行ける!」


 俺は小瓶を投げ捨てると、モンスターに向かって走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る