第29話 新スキル<合成>
レシピにあった素材はこれで全てのはず。準備は完璧だ。ポーション、キヌリア草、フォレストスライムの体、そして最後に山で取った湧き水を加えて……。
「<合成>!」
素材を円形に置いて俺が手をかざすと、その下に魔法陣が生成され、素材が消えると同時に液体で満ちたビンが出現した。
「よしっ! 成功だ!」
「アスラさーん。また<合成>してるんですか?」
街の外でモンスターを倒していたティナが、地べたに座っている俺を覗き込む。
「そうなんだ。見てくれ、ついにハイポーションが完成したんだ!」
「凄さがよくわからないんですけど、ハイポーションって何ですか?」
首を傾げるティナに、俺は懐から別のビンを取り出して示す。
「これが通常のポーションだ。液体の色が青色。疲れたときに体力を回復してくれるから、冒険者の間で重宝されているんだ。そして、こっちが今作ったものだ」
次に俺が示したビンには緑色の液体が入っている。
「これがハイポーションだ。緑ポーションとも呼ばれるな。これはポーションの10倍の効果があって、飲むと一気に疲れが吹っ飛ぶんだ!」
「ええっ、10倍ですか!? じゃあお高いんでしょう!?」
「ああ、値段の方はポーションの10倍なんてものじゃない。希少だから20倍はくだらないだろうな」
そして――俺はまだまだハイポーションの素材を持っている。
「よし、じゃんじゃんやるぞ! <合成>だ!」
「ええええっ、どれだけ作るんですか!?」
たちまち、何もなかった草原に5本のハイポーションが生成された。
<合成>を習得してから1週間。俺は毎日のクエストを早めに切り上げて合成に勤しんでいた。
このスキルは、作りたいアイテムに触れることでレシピを解析し、そのアイテムを作るために必要な素材を教えてくれる。
素材を集めた後も、細かい作業はいらない。さっきやったように円形に素材を揃えて<合成>すればアイテムが完成する。
「ハイポーションは、普通に作ろうとすると調整が難しくて、完成させるまでに見習いの職人が5年の修行の後に作るアイテムと言われてるんだ」
「じゃあ、そのスキルがあるだけで5年分が短縮されるってことですか!?」
「それだけじゃない。ハイポーションは緑だけど、さらに上位の赤ポーションや金ポーションもある。金ポーションは世界でも数人しか作ることが出来ないそうだが――このスキルがあればきっと出来る」
このスキルは極めれば冒険の役に立つ。そう思ってから、合成に夢中なのだ。
「合成もいいですけど、そろそろクエストの方も進めませんか?」
「それもそうだな。ハイポーションはこれだけあれば十分だし、そろそろ切り上げないと止め時がわからなくなりそうだ」
俺はウィンドウを開き、目的のクエストを探す。
――
『共同攻略』 ★★
【概要】
ギルドにいるリーリアと一緒にクエストを一つクリアしたら達成。
【報酬】
・経験値35
・魔法適性ー全属性『B』
【条件】
このクエストは、『袋小路の少女』をクリアした場合に表示されます。
――
前に見たときは読むことが出来なかったクエストの詳細が、今度は見える。
「でも、この魔法適性ってなんでしょうね?」
「素直に考えれば、魔法を使う才能みたいなものか……? 今自分がどれくらいかわからないけど、 Bランクは相当な手練れってことになるな」
魔法を使ったことはない。というか、使えない。おそらくこの魔力適性とやらが低すぎるんだろう。
出来る冒険者は『イメージすれば使える』なんて言うが、そんなざっくりとした意識で出来たためしはない。
疑問は残るが、俺たちはギルドへ向かう。
「お――いたいた」
「……あんたたちは、一週間前の」
「覚えててくれたのか。光栄だな。ここ座るぞ」
リーリアを見つけた俺たちは、有無を言わせず彼女が座っている席にあった椅子に座る。
「……何しに来たの。もう会うことはないって言ったと思うけど」
「そんな冷たいこと言うなよ。今日は提案をしに来たんだ」
「……提案?」
「俺たちと一緒にクエストに行かないか?」
「断る」
あまりにも即決で断られてしまい、俺たちは机に倒れ込んでしまった。
なぜだ……? 一緒にクエストに行けって書いてあったのに……。
「待て。これはリーリアにとってもメリットがある話だぞ」
「何なの、そのメリットって……っていうかしつこい……」
「リーリアはこの前、仲間を失っただろ? あれは気の毒だったけど……ここにいるってことはまだ冒険をしたい気持ちはあるんだろ?」
「あいつらは別に仲間じゃない。勝手についてきただけ」
「じゃあ、ますます仲間が必要なはずだ。この前みたいなモンスターが出てきたとき、対処するのに仲間がいた方がいいだろ?」
リーリアは反論が出来ずに口ごもる。
……というか、なんでこの子は一人で冒険してるんだ? 俺は弱かったからパーティには入れなかったけど、リーリアは魔法の腕がかなりよかったように思えるが……。
「でも、あんたたちはついてこれないわ。私が今から受けるのは――15層のモンスターを倒すクエストだから!」
そう言って彼女が出した紙は、『ミノタウロス討伐』と書かれた依頼書だ。
その紙の真ん中には、大きく牛頭人身の化け物が描かれていた。
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