第22話 決着
「どういうことだ!? なぜ攻撃が効かない!?」
「それは俺もまだよくわかってないんだが……多分、こういうことじゃないかと思うんだ」
さっきの状況から考えるに、<
「相手の攻撃を自動で防ぐ能力。格下のお前らの攻撃は、ダメージを軽減されてかすり傷にもならないんだ」
やはりこれしか思いつかない。<疾風怒涛>に続き、またかなりいい意味で壊れたスキルだな。
「ちょっと待て! スキルは数千人に一人、発現するかしないかの異能だぞ!? その話が本当だとしたら、お前は何個スキルを持ってることになるんだよ!?」
「何個って……3だが。というか、これからも増える予定だ」
4人は信じられないとばかりに口を大きく開け、呆然とその場に立ちすくむ。
数秒の沈黙があった後、体を奮い立たせて再び俺を睨みつけてきた。
「諦めろ。お前らが俺に勝てる道理がない」
「黙れ!! 4人同時にかかればいくら強くても勝てる! 第一、お前はここまで突っ立ってるだけ――」
「もうそれも終わりだ――<疾風怒涛>」
次の瞬間、俺はラグルクの視界から消えた。
「何ッ!? どこに行った、あの野郎!?」
「――あと3人」
俺はラグルクのすぐ近くに立っていた。
足の下には、
ちょっとした回し蹴りだったが、こいつを沈めるには充分だったようだ。仮にもEランク冒険者がこうもあっさりか。
「まさか……今の一瞬で、たった一撃で、人間を一人倒したってのかよ!?」
「一人じゃない。お前ら全員だ」
「うわあああああああああああああああ!!」
俺は床を踏みしめ、再び肉薄をした。
「おい! あのティナとかいう小娘を狙え!! せめてあの雑魚だけでも殺してやるんだ!!」
「わ、わかった!」
ラグルクの咄嗟の指示に従い、アーチャーの男が素早く矢を放った。
こいつら……勝てそうな相手から狙って攻撃するつもりか! どこまで下種なんだ!
「ヒャハハハ! 死ね!」
矢がティナに向かって吸い寄せられていく。その先にいるティナは、矢を見つめて立ち尽くしていた。
「ティナ!」
しかし、その時だった。
「はっ!」
なんと、ティナは矢が飛んでくることを予めわかっていたかのように、危なげもなくスッと回避したのだ。
「えっ、ティナ今どうやったんだ!?」
「アスラさん……私もしかしたら、矢が飛んでくる場所がわかるかもしれないです!」
「なんだそれ!?」
「自分でもまだわからないんですけど……矢が放たれることも、どこに矢が飛んでくるのかも、まるで未来予知をしてたみたいにわかったんです! だから、さっきの攻撃も避けられたっていうか……止まって見えたんです」
「……そうか、最高だ!」
やはり、ティナの弓の扱いを見ていて光るものを感じていた俺の直感は正しかったようだ。
彼女は天性の
「そ、そんな……4人がかりで挑んでも1人どころか小娘すら倒せないなんて……」
「だ、だが! こっちにはまだタンクが残ってる! さっきのは魔法使いだから一撃だったかもしれないが、次は――」
「タンクって、こいつのことか?」
俺は自分の足に踏まれている男を指した。同時に、残った二人の顔が引きつる。どうやら図星のようだ。
こいつがパーティのタンクか……確かに体格は一番ガッチリしているが、同じ一撃で気を失ってるし、大したことなかった。
「こ、こうなったら……<透明化>――」
「おっと、そうはさせないぞ」
俺は透明になる寸前のアーチャーの腕を掴み、締め上げる。
隠れられると厄介だからな。だが、こうして捕らえてしまえば便利なスキルも無意味だ。
「いだだだだだだだ!! ひ、ひいいいいいいいいいいいいい!」
同じように回し蹴りを顔面に叩きこむと、アーチャーは気を失い、床に仰向けに倒れてしまった。
白目を剝きながら鼻血を流すアーチャーに、最後に残ったラグルクは悲鳴を上げた。
「さあ、最後はお前だ」
「うわああああああああああああああ!! い、嫌だ!! 助けてええええええ!!」
腰を抜かしたラグルクは、はいはいのような形で部屋から逃げ出そうとする。
髪はひどく乱れ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃである。さっきまでの余裕な様子はどこに行ったのやら。
「助けてほしいなら、まずやるべきことがあるだろ?」
「ご、ご
「俺にじゃない、ティナに謝れ!!」
こいつは決闘の時に約束した、ティナへの謝罪をしていない。筋を通すならまずそこからだ。
ラグルクはくるっと向きを変えると、額を床に擦り付けて土下座をした。
「ごめんなさい!! 失礼なことを言ってしまって!! 本当に反省しています!!」
「そうか……じゃあ許してやるよ」
「あ、ありがとうございます!! これからは、アスラさんに迷惑をかけないように……」
「これから? お前は何を言ってるんだ?」
「……え?」
「まだシャロンに乱暴をしたことについては許してないぞ?」
俺はもとより、こいつを許すつもりなんかない。ただ、ティナに謝らせたかっただけだ。
シャロンに手を出し、これまで冒険者を危険な目に合わせたことを許すつもりはない。
「う、うわああああああああ!! ごめんなさ――」
「それはもう聞き飽きた」
ラグルクは俺の蹴りを食らい、アーチャーの体の上に倒れ込んだ。静まり返るシャロンの部屋の中で、俺の吐息だけが聞こえる。
これで2分くらいは持続できるようになったな――<疾風怒涛>。
なんにせよ、これで一件落着だ。
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