第21話 名探偵アスラ
「……もう一度聞くぜ。なぜここに来た、アスラ!!」
「それはこっちのセリフだ。最弱以下。非力なシャロン一人相手に4人がかりで奇襲とは、ずいぶんと情けない連中だな」
シャロンは……身動きを取れないようだな。足に傷があるから、そこから毒でも塗られたか?
狼狽える4人を睨み据え、俺は言い放つ。
「……とはいえ、俺がなぜここに来られたか教えてやる。それは、お前らがシャロンを襲いに来るという確信が俺の中であったからだ」
「チッ、だからなんでだよ!!」
「ダンジョンにいた時から違和感があったんだ。お前にな」
俺が指したのは、アーチャーの男だ。筋肉質の体がビクリと動くのがわかる。
「決闘の時、お前は俺に気付かれないように矢を放ってきた。だけど、軌道がどう考えてもおかしかったんだ。物陰に隠れていたティナたちと違って、お前の一撃はまるで隠れないで堂々と撃ってきたようだった」
「……あの一撃でそこまで!」
「お前は<透明化>のスキルを持っているな? そして、それは仲間にも適用される。まさに奇襲にうってつけな能力ってわけだ」
「ご名答。俺のスキルは<透明化>。発動条件は俺が目を閉じることで、俺の体に触れることで仲間の体も透明に出来る」
手の内を明かしたアーチャーの男。タネがあっさりとバレたことで、さらに顔を真っ赤にしたのはラグルクだ。
「だとしてもッ!! それがなんでギルマスの襲撃と繋がるんだよッ!! 俺が気絶してるのに、今日ここを襲いに来るかどうかなんてわかんねーだろうが!!」
「今日じゃなかったら、襲ってくるその日までここを見張るつもりだったさ。何日でも、何か月でもな」
「なんだこいつ……イカれてやがる!!」
俺の迫力に気圧されて後ずさるラグルク。
だが、焦りの表情はすぐに霧散し、突如狂ったように笑い始めた。
「ハッハッハ!! 確かにそうだ、お前の言ったことは全て当たっている! 推理ご苦労だったな名探偵!」
今度はラグルクが俺の方を指して高笑いをする。髪をかき上げ、余裕綽々にこちらを見下してくる。
「だが、そんなことが分かった程度でお前らに何ができるんだ!? ギルマスは痺れて動けないお荷物、小娘は戦力外の雑魚、そしてお前は昼間の決闘で疲弊しきっている!」
なるほど、そういうことか。
「決闘を30分で切り上げたのも、疲れて残り30分をやりきれないと判断したからだろ!? いくらお前が言うことが正しくても、お前ら3人の戦力をかき集めても1人分にもなりゃし……」
「お前が言うことは全部間違ってるな」
俺の返答に呆気を取られるラグルク。言葉がつまり、動揺の色を隠せない。
「おい! 適当なことを言ってると……」
「誰が体力切れを起こしたと言った? 30分で切り上げたやったのは、モンスターがいなくなって消化試合になるのが嫌だったからだ。モンスター退治の時間が取れなくなってもったいないだろ」
「まさか……お前!!」
「ああ、俺はお前たちとの決闘の後、他の層でモンスター狩りをしていた。シャロンと話した時間が夜だったのはそういう理由だ」
<疾風怒涛>を使った状態で1時間。今の俺なら出来るはずだ。ただやらなかったというだけで。
「間違い二つ目。ティナは戦力外の雑魚なんかじゃない。俺と一緒に戦ってくれる頼れる仲間だ。お前がその凄さを理解できないほど低能というだけでな。そして――シャロンは荷物じゃない。俺の友達だ」
「こ、こいつ……!!」
「そして間違い三つ目。イカれてるのは俺じゃない。他の冒険者に迷惑をかけた挙句、正面からの決闘で負け、コソコソと弱い相手を複数人で襲いに来るお前らの方だ!」
「あああああああああああああああ!!」
発狂して叫び始めるラグルク。シャロンのデスクを思いきり蹴り飛ばすと、地団駄を踏んだ。
デスクが倒れて激しい音とともに書類が舞う。ラグルクはそれを踏みつけ、前に出た。
「もう許せねえ!! 俺をここまで侮辱したのはアスラ、お前が初めてだ! お前だけは絶対に許さない!
「やれるならやってみろ。1分もしないうちに動けなくなるのはお前の方だ!」
「お前ら、やるぞ!!」
まず攻撃を仕掛けてきたのは、アーチャーの男だ。即座に放たれた矢は、俺の肩に当たる。
「……なんだ!? あいつ動かないぞ!?」
「チャンスだ! あいつやっぱり口だけだったんだ! 今のうちに畳みかけろ!!」
4人は好機だとばかりに俺に攻撃を仕掛けてくる。殴打や蹴りなどの物理攻撃。アーチャーの弓、魔法使いが放つ火球――どれを食らっても俺は仁王立ちを崩さない。
「アスラさん! 何やってるんですか!? 早く反撃してください!」
「……俺はまだシャロンの言葉を聞いていない」
「……!!」
シャロンはずっと、一人で戦って来た。俺たちが困ったことを聞いた時も、心を開いてくれなかった。
きっと、彼女の中にも葛藤があったのだろう。それは、これまでの人生経験から来るものかもしれないし、ギルマスという立場がそうしているのかもしれない。
……でも、俺たちは友達だ。まだ一度も、俺は彼女に頼ってもらえていない。
「シャロン、俺は君の言葉を聞きたい! 君は俺たちに、どうしてほしいんだ!」
その時、シャロンの柔らかい手が俺のズボンのすそを引いた。
「君の言うとおりだ……私は弱い。なのに、自分一人で全てを解決しようとしていた」
次にシャロンが指したのは、ビリビリに破かれた紙片だった。あれは……おそらく、ラグルクのギルド追放の文書だろう。
「今やっとわかった……私は無力だ。だから、これから始めて人を頼ってみようと思う」
シャロンは大きく息を吐くと、目を開けて叫んだ――!
「助けてくれ……アスラ! 君の力を、貸してくれ!!」
シャロンの涙はまるで滝のように床を濡らしていた。滂沱の涙に溺れながら、シャロンは俺たちを頼ってくれたのだ。
「「了解!」」
俺とティナは同時に返事をし、ラグルクを見やる。
「――ハッ、なにかと思えばお友達ごっこかよ。そんなことをしたところで、お前が食らったダメージは抜けないんだぞ?」
「ダメージを食らっているように、見えるのか?」
俺は足元に落ちている矢を示した。矢は真ん中からポキリと枝のように折れている。
その他の攻撃もそうだ。全てを正面から受けているのに、俺は傷一つついていない。
それが示すことは――たった一つの残酷な現実。
「俺たちの攻撃が、効いていない……!?」
「おっ、ようやく正しいことを言えたじゃないか」
これが俺の新しいスキル<
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