第10話 血塗られた猪突猛進
「ブルルルァァァァァァァァァァ!!」
まるで濁流が流れてくるような勢いで迫ってくるブラッディボア。奴は数秒もしないうちにここまでたどり着くだろう。
「逃げるぞ、ティナ!」
「は、はいっ!」
俺たちは出口に向かって一目散に走り出す。
……が、俺たち以上にブラッディボアの方が速い。奴らが俺たちを囮にしたのは賢明だったみたいだ。
「きゃっ!」
その時、後方を走っていたティナが声を上げる。見ると、彼女は地べたに倒れ込んでいた。派手に転んだのだ。
「ティナ!」
俺はすぐに引き返すと、剣を引き抜いてブラッディボアに斬りかかった。
剣と奴の突進がぶつかり、拮抗する。なんてパワーだ……!
「嘘、あんなに大きいモンスターの攻撃を正面から受けるなんて……!」
「感心してる場合か! ティナ、お前に頼みがある」
「は、はいっ! なんでしょうか!」
「お前のおじいさんのところに行って、最初の冒険が終わったことを報告してくれ! その後、ギルドに行って救援を呼んできてほしい!」
「ええっ!? 二個目の方はわかりますけど、なんで私のおじいちゃんが出てくるんですか!? しかも、救援の方が後って!」
「事情は後で説明するから、早くしろ!」
「わ、わかりました! アスラさん……絶対に死なないでください!」
ティナが出口に向かって走り出す。背中が見えなくなったところで、俺はため息をついた。
「さて……俺はこっちに集中するか」
ブラッディボアの体を剣で弾き、俺は後方に下がる。
一瞬ぶつかり合っただけで力量は嫌というほど理解した。いや、理解したくないほどにというのが正しいか。
まずは圧倒的な巨躯。見ただけで人間との差を感じさせる。絵本の魔物をそのまま引っ張り出してきたような恐ろしさだ。
そして、その図体からは信じられないほどのスピード。それはすなわち、突進の威力へと変換される。
極めつけは底知れぬ凶暴さ。荒い鼻息でこちらを睨んでいる様は、俺のことをやすやすと逃がしてくれはしなそうだ。
だけど……俺だってここで逃げるつもりも、ましてや死ぬつもりもない。
「俺がここにとどまったのはお前に勝つためだ。いい勝負をしようぜ、アクシデント君」
「ブルルルァァァァァァァァァァ!!」
剣の切っ先を奴に向けた途端、尻に火が付いたような速度で肉薄してくるブラッディボア。
俺は身構えると、突進の衝撃に備える。
「……くっ!!」
まるで山が襲ってきたようだ! なんとか凌げているが、これじゃ数秒が限界――、
「ウガァッ!」
刹那、俺はブラッディボアの顔面を抑えるのを止めて剣を振るった。
カキーン、という金属同士がぶつかったような音が鳴り、俺は後方へ弾き飛ばされる。
「危なかった……あいつ、突進だけじゃないのか!」
ブラッディボアの口元でギラリと輝くのは、カーブを描いている牙だ。
まるで碇のような様相の牙。あれで串刺しにされれば、まず助からないことは明白だろう。
「……また来る!」
再び突進を仕掛けてくるブラッディボア。
俺は衝突を抑えながら、奴の牙に当たらないように意識を張る。
昨日のうちにクエストを4つ終わらせた。経験値をかなり貰って、トラブルが起こっても対処できるように対策しておいた。
――だが、これはあまりにも予想外だ。とてつもない衝撃の体当たり。圧倒的な体躯。攻守揃って付け入る隙がない。
「こっちだって、やられてばかりじゃないぞ!」
突進のタイミングに合わせて斬撃を奴の胴体に叩きこむ。
「ルルグァァァァァァァァァァ!!」
すると、ブラッディボアの動きがさらに激しくなり、俺は奴の頭に弾かれて吹っ飛ばされ、尻もちをついた。
「くそっ、まだ強くなるのか……!」
荒れ狂うブラッディボア。一週間前までゴブリンとギリギリの戦いをしていた俺にはかなり堪える。
しかし、俺はブラッディボアの体当たりを剣で防ぎ、時間を稼ぎ続けた。
「こっちはな、体力には自信があるんだよ……!」
「ブルルルァァァァァァァァァァ!!」
「来い! 何回でも受け止めてやる!」
……と威勢よく言ったはいいものの、度重なる攻撃を食らって体が限界に近付いてきた。足も小刻みに震えている。
「ティナ、頼んだぞ……!」
「ブルルルァァァァァァァァァァ!!」
ブラッディボアが迫ってきた、その時だった。
「なんだ……? 体が……!」
違和感に気づいたのは、ぼんやりとしてきた頭を奮い立たせてブラッディボアを見ていた時。
さっきまで薪でも背負っていたかのように重かった、俺の体が――、
「軽い!」
俺はブラッディボアの攻撃を回避すると、奴の背後に回り込んで仁王立ちした。
間に合ったんだな、ティナ。クエストが達成として認められて、経験値が貰えたようだ。
体が軽くなったのはレベルが上がったからだろう。昨日4件クエストをクリアしても目立った変化がなかったかいがあったな。
そして、クエストを完了したことによる俺の強化はそれだけじゃない。
「ブラッディボア。さっき、俺がここに残ったのはお前を倒すためって言ったよな」
こいつが俺の言葉を理解できるはずはないんだけど――それはこの際どうでもいい。
「見せてやる。『ギルド最弱』だった俺がお前を倒すための
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