第9話 初めてのダンジョンで
「おはようございます、アスラさん!」
「おはよう、ティナ」
翌朝、俺とティナはギルドに集合した。
「ふああ……」
「眠いのか?」
「昨日の夜、緊張して寝付けなくって。アスラさんは昨日は何時に寝たんですか?」
「昨日っていうか……今日の5時だよ。ちょっと用事が長引いちゃって」
「ええっ!? じゃあ3時間しか寝てないじゃないですか!! 今日はやめておきますか!?」
「いや、今日が特別短いわけじゃなくて、昔から多少寝なくても体が動くんだ。俺は大丈夫だから、そろそろ行こう」
心配してくれるティナに釈明をした後、俺たちはギルドを出た。
それから俺たちが来たのは、街の一番近くにあるダンジョン。
ダンジョンは、下の階層に行けば行くほど強いモンスターが現れる反面、浅い層なら初心者でも充分に通用する。
「俺は少し離れて様子を見ておくから、実際にモンスターと戦ってみてくれ」
「わかりました!」
灰色のレンガのような壁が広がる迷宮。俺も来たのは久しぶりだ。
ダンジョンのモンスターはこの壁から吐き出されるように生成される。層によって生まれるモンスターの種類が変わるのが特徴的だ。
「アスラさん、スライムがいます!」
ティナが最初に見つけたのは、いつもの狩場にもいるスライム。
最弱クラスのモンスターだし、今の彼女でも勝てるはずだ。
「えいっ! って、うわわわわわ!」
スライムに斬りかかったティナ。しかし初撃はあっさり回避され、転びそうになっている。
「キュキュッ!?」
温厚なスライムもさすがにティナを敵と認識したのか、彼女に向かって渾身の体当たりを返してきた。
「うわあああっ!」
途端に尻餅をつくティナ。スライムは息巻いて彼女の前で跳ねている。
あれ……? なんか雲行き怪しくないか?
「ま、まだまだ!」
気を取り直したティナは首を横に振ると、再びスライムに立ち向かっていく。
それから約15分が経過した。
「や、やったぁ~!!」
歓喜の声を上げたティナ。彼女の目の前には、息絶えて横倒しになっているスライムがいた。
「おめでとう、ティナ。これで初勝利だな」
「はい! それにしても強かったです! この層のボスだったんでしょうか?」
「いや……あれはただのスライムだよ。その辺にいるやつと変わらないと思う」
「へ……?」
その事実を知ったティナはがっくりと肩を落とし、大きくため息を吐いた。
「ごめん、落ちこませるつもりはなかったんだ!」
「いえ、アスラさんは悪くないですよ。冒険者さんたちと同じようにあっさり倒せるのかと思ったら、見たよりも大変なんですね……」
納得したような口ぶりだが、ティナの目はうるうるとしている。
「……私、才能ないんでしょうか」
「そんなことないよ。俺だってつい最近までゴブリンを1匹倒すのに1時間以上かかってたんだから」
「アスラさんがですか!? あんなにすごいのに!?」
「俺だってまだまだだよ。ティナはまだ初日なんだし、ここからいくらでも強くなれるさ。人の役に立てる冒険者になるんだろ?」
「……そうですよね! 私、これからも頑張ります!」
元気を取り戻したティナの笑顔。つぼみが開化するようなその美しさに、心が明るくなっていくような気がする。
さて、これでティナの最初の狩りに同行するという老人のお願いを一応満たしたわけだが……。
これで帰るのも少し味気ないし、ティナの適正が見えてくるまで狩りを続けてみるか。
「ティナ、今日はこの1層の敵を倒してみようか。何時間か続けたら帰ろう」
「はい、わかりました!」
ダンジョンの奥へと進み始めたその時だった。
「だ、誰かああああああああ!!」
「そろそろ出口だ! 逃げ切れるかもしれないぞ!!」
前方から走ってくる4人組の男たち。その表情から、緊急事態であることが読み取れる。
「おい! あそこに冒険者がいるぞ!」
「あれ、『ギルド最弱』じゃないか!?」
男たちは俺の方を指して顔を見合わせた。
……嫌な予感がするぞ。
「お前ら、あとは任せた!」
「おい、何のことだ!」
「俺たちみたいな将来有望な冒険者とギルド最弱のお前だったら、どう考えてもお前が犠牲になった方が社会にとって得ってもんだ。よかったな、俺たちの踏み台になれて!」
俺の肩を叩いたのは、金髪で右目が隠れている男。
何を言っているのかわからずに困惑していると、ダンジョンの奥から地響きが起こった。
「ブルルルァァァァァァァァァァ!!」
そこに現れたのは――真っ赤な毛色のイノシシ。図体がかなり大きく、四足歩行なのに俺より背が高い!
「まさか……ブラッディボアか!?」
「なんですか、それは!?」
「ダンジョンの5層にいるっていう、血塗られたような体をしたイノシシのモンスターだ! なんで1層に……」
そうか……あいつら、俺たちにこのモンスターを擦り付けたのか!
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