第7話 老人、リターンズ

 その後、俺はいつもの狩場に戻ると、ゴブリン狩りを再開した。


「やっぱりそうだ……!」


 そこで確信したのは、経験値が俺の成長に貢献しているということだ。

 経験値が手に入る方法は二つ。戦闘をすることと<隠しクエスト>の報酬を貰うこと。


 ゴブリンと戦っていて気づいたことがもう一つある。そうして経験値を集めていると、ある瞬間に突然強くなったことを感じる。

 ずっと停滞が続いていた時に、急に成長を感じる。あれはかなり感覚的な現象だと思っていたが、実際にあったのだ。


 おそらく経験値がある一定の水準まで達すると、強さの段階のようなものを昇るんだろう。これは――レベルとでも名付けるか。

 自分が今レベルいくつなのかはわからないし、周りの人のレベルが見えるわけでもないけど……とにかくこれは覚えておいた方がいいことだ。


 強くなるということは、このレベルを上げることだ。そのためにはモンスターを倒し、隠しクエストをクリアしていくしかない。


「よし、だいぶ方向が見えてきたな」


 俺は一度剣をしまい、街へ引き返す。傍らにはウィンドウを表示させて。


 次に受けるクエストは何にしようか。俺はまだこのスキルのことを完全に理解しているとはいえない。

 さらに強くなるために、どんどんクエストを受けて行こう。今表示されているのは――、


「なんだこれ?」


 リストに表示されているものの中に、気になるものを見つけた。


――


・『孫娘をよろしく』 難易度2 残り1日 【『老人を助けろ』より】


――


 この最後についている言葉にはなんだ? ちょっと見てみよう。


――


『孫娘をよろしく』 ★★


【概要】

武器屋にいる老人に話しかけ、彼のお願いを叶えたら達成。


【報酬】

・経験値25

・スキル<疾風怒涛>


【条件】

このクエストは、『老人を助けろ』をクリアした場合に表示されます。


――


 なるほど、別のクエストをクリアしないと表示されないクエストもあるのか。まさに隠しクエストだ。

 この『武器屋にいる老人』って多分、昨日のおじいさんだよな……?


『そうしてくだされ! それでは、ワシは孫に会いに街に行きますので!』


 あ……そういえば言ってた。孫に会いに行くって。

 きっとこのお願いっていうのも孫関連のものなんだろう。具体的な話はさっぱりわからないけど。


 だけど、経験値25はかなり美味しいな。おまけに、このクエストを受ければスキルが手に入ると書いてある。

 スキルっていうと……戦闘で使える能力みたいなものか? もしそうだったら戦闘に有利だ。


「とにかく受けてみるか……このクエストを!」


 俺はさっそく昨日行った武器屋に行ってみることにした。



「もー、おじいちゃん! 今日は帰ろうよ!」


「いや、でも、しかし……」


 店の一角で腕を引かれて困っている老人。相変わらず泣きそうな顔をしているな。


「こんにちは、何か困ってますか?」


「あ、あああああ!!」


 おじいさんは俺の顔を見るなり、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。


「あ、あなたは!! 昨日、ワシのことを助けてくださった冒険者様ではないですか!!」


「そうですけど……そんなに驚きますか?」


「まさかあなた様にまたお会いできるとは思っていませんでした! 昨日は充分なお礼も出来ず、お詫びしたいと思っていたのです!」


 お礼は充分過ぎるくらい受け取ったつもりだけど……おじいさんは満足していないようだった。


「ねえおじいちゃん、この人ってもしかして……」


「ああ、そうじゃ! ワシの命を救ってくださった冒険者様じゃ!」


 祖父から事情を聴いて、隣の孫娘と思われる少女は深々と俺に頭を下げた。


「おじいちゃんを助けてくださってありがとうございました! 私からもお礼を言わせてください!」


「いえ、たまたま近くを通ったってだけですし……それより、何か困ってるんじゃないですか?」


 二人は顔を見合わせると、俺を頼ることに決めたようだ。


「実は……今、うちの孫娘のティナの武器を選んでいるんです」


 ティナと呼ばれた少女は、再び律儀に頭を下げた。

 少女は白髪の老人とは違って青色の髪をしていて、ぱっつんとした前髪や服装などは普通の少女だ。戦いなんてしそうには見えない。


「あの、失礼ですがティナさんは冒険者なんですか?」


「いえ、ティナは先日15歳になりました。なのでこの子の希望通りに冒険者として登録しようと」


 なるほど、これから冒険者になるってことか。


「さっきまで店員さんに装備の説明を受けていたんですけど……おじいちゃんったら、優柔不断すぎてずっと悩んじゃって、日を改めようって話をしてたんです」


 それでさっき帰ろうと言っていたのか。


「最初の武器選びは剣を買っておくのが良いです。でも、どの武器が得意かや戦闘スタイルは場数を踏まないと見えてこないです」


 俺は結果的に剣を選択したわけだけど、しっくりこないという人はいる。

 要は、ここで悩んでいても答えは出ないということだ。


「す、すごい……冒険者様は強い上に博識なのですな!」


「冒険者様なんて呼ばないでください。俺のことはアスラでいいです」


「では、アスラ様!」


「それ呼び方変えた意味なくないですか?」


「命を救ってもらった上におこがましい話ですが、アスラ様にお願いしたいことがございます!」


 老人はその場に跪くと、祈るような姿勢で言う。


「ティナの初めてを貰ってはくれませんでしょうか!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る