第6話 ギルドマスターの憤怒

「ミサ・レイリーン。もう一度聞かせてもらおうか。上とは誰のことだ?」


「それは……ギルドマスター。シャロン様、あなたのことです」


「そうか。では聞こう、この私にどんなしかるべき処置を求める?」


 ミサさんの顔色がどんどん悪くなり、顔が落ちていく。一方、ギルマスの顔はピクリとも動かない。

 まるで鉄のような女性だ。ミサさんが怯えている理由がわかる気がする。


「こ、この冒険者のアスラさん・・についての対処です」


「具体的にはどのような行動の対処だ?」


「…………」


 ミサさんは黙りこくってしまった。その様子を見て、ギルマスが俺の方を向く。


「アスラ・セイン。彼女がこんな様子なんだ、よかったら君の方から事情を聞かせてもらえないか?」


「いいですよ。少し長くなるんですが……」


 俺はこれまでミサさんから言われたことや、自分が言ったこと、置かれた状況などを順を追って説明した。

 ギルマスは相変わらず毅然とした態度で俺の話を聞き、ところどころで質問もしてくれた。


「……ということがあって、今に至ります」


「なるほどな。ミサ・レイリーン、今の話に相違はないか」


「う、嘘です! この男が言っていることは全てデタラメです!」


「だったら具体的にどこが嘘なのか言ってくれないか」


 ミサが再び黙りこくるのを見て、ギルマスは追求する。


「聞こうか。ギルドの受付の時間は21時まで。ギルドが完全に閉まるのはそれから15分後だ。アスラは21時の〆切に間に合っている。そうだな?」


「……はい」


「つまり、君は勤務時間内に来た冒険者に対して、迷惑と言ったということだな?」


「……そうです」


「冒険者は私たちの仕事のパートナーだ。君はその取引相手に対して迷惑呼ばわりをしたわけだが、誰がそんなことをするように指示をしたんだ?」


「いえ、私が自分の判断でそうしました」


「ということは君は、自分の勝手な判断で取引相手の冒険者を迷惑呼ばわりした挙句、自分本位な賭けを仕掛け、あまつさえクエストの受注を断ろうとしたわけだな」


 ギルマスが放つ恐ろしいオーラに、ミサさんは言葉を発することが出来なくなってしまった。

 怒られているわけでもないのに、俺の方が逃げ出したいくらいだ。怖すぎる。


「君がこのギルドで働き始めて、そろそろ半年か。君の正確な働きぶりは評価していたというのに、失望したよ」


「す、すみません!!」


「もういい、君は業務から外れてくれ。君が望むしかるべき処置・・・・・・・をしようじゃないか」


 ミサさんはまるで魂が抜けたようになってギルドの奥の部屋へと戻っていった。


 静まり返ったギルド内で、ギルマスのため息が響く。彼女は俺の方を見た。


「アスラ。すまなかった、私の指導不足で君に不愉快な思いをさせてしまったね」


「いえ、ギルマスのせいではないですよ」


「……そんなことはない。私がもっと目を光らせておけば起こらなかった問題だ。当然だが、問題となるような行動がなければギルド側がクエストの受注を断るようなことはない。君はこれからも好きな仕事をしてくれ」


 いろいろとすごい人だな。何もかも完璧というか……。


「そういえば、なんで俺のフルネームを知ってるんですか? さっき、アスラ・セインって……」


 ミサさんは俺のことをアスラとしか言っていなかったはずだ。


「なんでって、このギルドに所属している冒険者の名前は覚えているからな。顔は知らなかったがそうか、君があのアスラだったとはな」


「ギルマスって……形容する言葉が見つからないくらいすごいですね」


「ギルマス、なんて堅い呼び方はやめてくれよ。私のことはシャロンと呼んでくれ。私と君は一つしか年が離れてないんだぞ?」


「えっ、もしかして……19歳!?」


 ギルマス改めシャロンは頷くと、にっこりと笑った。

 こんなすごい人と1歳しか違わないなんて……なんだか自分がちっぽけに思えてくるな。


「今回の件はすまなかった。私の監督不足だ。今後はこのようなことがないよう、指導を強化していくことを約束しよう」


「こちらこそ、丁寧に対応してくださってありがとう……ございます」


「ははは、次からは普通に喋ってくれよ? 何か問題があったら、私を頼ってくれ」


 シャロンはそう言うと、仕事に戻ってしまった。


 静まり返ったギルドの中心で、俺一人。居づらくなってしまった俺は、その場からいそいそと離れた。


 これでクエストは完了……ってことだよな?


 ウィンドウの文字を見ていた時はこんなことになるなんて思ってなかった。まさかギルマスと顔見知りになってしまうなんて……。


 本当に、この能力はこれから俺をどうしてしまうんだ?

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