第5話 『経験値』
「いや、そんなわけ……」
でも、実際すぐにゴブリンが倒せたぞ。いつもは1時間かけてじっくり戦うのに……。
考えられる要因はいくつかある。中でも剣を新調したのは大きいだろう。
だけど、それだけではこの時間の短くなりようは説明できない気がする。だとしたら原因は――、
「経験値のせいか?」
強くなったのは、老人のを助けるためにゴブリンと戦った後から、受付嬢と話した時の間と考えられる。
その間に変わったことといえば<隠しクエスト>の報酬を受け取ったくらいだ。
経験値というのは、蓄積することで俺の強さの糧になるのだろう。老人と少女のクエストを受けて、俺は経験値を20手に入れた。それが何かしらの作用を起こして強くなれたのだ。
「すごいぞ、<隠しクエスト>……! これならゴブリン狩りが捗る!」
活気づいた俺は、さらにそのままのペースでゴブリン退治を続けた。
それから1時間が経った。
「なんですか? まだ1時間しか経っていませんよ?」
ギルドの受付。そこにはさっきと同じようにむすっとした顔のミサさんがいた。
「もしかして、無理な挑戦だったと思って戻ってこられたんですか?」
ミサさんは事情がわかったとばかりにニヤリと笑った。
「そうですよね、いつも12時間も掛けてるアスラさんが4分の1の時間で同じことをするなんて、無理ですよねえ」
ミサさんは余裕綽々とばかりに机に肘を置き、話始める。
「いえ、賢明な判断だと思います。誰だって勢いで物を言ってしまうことはありますから。プライドを捨てた方がいい場面だってあります」
やれやれ、といった様子でため息を吐き、俺を見る。
「で? さっきから黙ってますけど、何か言うことがありますよね? 時間の無駄なんで早く喋ってくれませんか?」
そうだよな、言わないと伝わらないよな。
少しは態度を改めてくれるかと思ったが……期待外れだったな。
「では、ゴブリン10体を討伐完了したので、報酬をください」
俺は彼女が肘をついているカウンターに巾着袋を突き出した。
途端にミサさんの顔色が変わる。
「えっ……!? そ、そんな馬鹿な!?」
ミサさんは大慌てで巾着袋の紐を解くと、中に顔を突っ込みそうな勢いで覗き込む。
当然嘘ではない。俺はちゃんとゴブリンの耳を取ってきたのだから。
「そんなわけがない! アスラさん、何か不正をしましたね!?」
「してないですよ。具体的にどういう不正だって言うんですか?」
「それは……前に採取した耳を取っておいたとか!!」
「だとしたら俺は事前に耳を残しておけるくらい実力があったってことですよね?」
「じゃ、じゃあ他の冒険者から買ったとか!」
「金銭的に余裕がない俺にそんなことできますかね? それに、結託できる仲間がいるならパーティだって組めるので狩りの時間が短くなって問題解決ですよね?」
どれだけ不正の可能性を持ち出されても、彼女が俺を否定する材料にはならない。どう転んでも彼女に迷惑はかからないからだ。
それでも納得がいかないようで、ミサさんは憤慨した様子で騒ぎ立てる。
「クソッ……! こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって……! こんなことして許されると思ってんのか!?」
追い詰められて口が悪くなったな。こっちが彼女の本性ということだろう。
「こんなことって……俺はちゃんと実力でゴブリンを倒しただけですよ?」
「そうか、私に恥をかかせるために普段から手を抜いてたんだな!? どこまで私に迷惑をかければ気が済むんだよお前は!?」
「そんなことするメリットがないでしょう。俺は別にミサさんに何かしてほしいわけじゃなくて、ただ普通にクエストを受けたいだけなんです」
ミサさんは俺の話なんて聞いていないようで、何かブツブツ言いながら地団太を踏んでいる。
「お前、覚えておけよ! しかるべき処置をしてもらうからな! この件はなあなあにしないで、絶対に上に……」
ミサさんが周囲の目も気にしないで声を荒げていたその時。
「上というのは誰のことだ?」
「あ、あなたは……」
そこに現れた一人の女性によって、ミサさんの顔が引きつる。
金色の髪を腰ほどまで伸ばした碧眼の女性。この異常事態にも眉一つ動かす様子もなく淡々と話すこの人は一体……?
「ギ、ギルドマスター!」
この人がギルマス!?
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