第4話 白昼の口論

 宿に戻り、一泊。今日は体が疲れていなかったので、久しぶりに怖い夢を見なくて済んだぞ。


「それにしても、これは本当にすごいな! <隠しクエスト>!」


 ここに表示されたクエストをクリアすると報酬を獲得することが出来る。それはお金だったり体力回復だったり。

 とにかくどういう原理かはわからないけど、人助けをするたびに報酬が手に入る、そんな俺にぴったりのスキルだ。


「今日も今日とて、クエストをクリアするぞ!」


 目の前に表示されたウィンドウ。それにしてもこれ、ずっと付けっぱなしだと邪魔だな。


「ウィンドウって窓って意味だよな……? じゃあ『ウィンドウクローズ』とか?」


 その瞬間、ウィンドウはまるでロウソクの火を消したように目の前から消滅した。


「出来た! ということは、開くときは『ウィンドウオープン』だ!」


 そう言うと、またウィンドウが現れる。これで操作は完璧だな。


 俺はさっそくクエスト一覧に目を通す。


「昨日みたいな探し物のクエストもいいけど、出来れば強くなれるような、モンスターと戦う系のクエストがいいな」


 そうしていろいろと見ていると、一つのクエストが目に入る。


――


『受付嬢の怒り』 ★


【概要】

サンバルテ内のギルドにて『ゴブリン討伐』クエストを受注することで開始。

受付嬢の怒りを回避すれば達成。


【報酬】

・経験値効率1.1倍

・経験値20


――


 なんかこう……ざっくりとした内容だな。肝心の部分がわからないというか。

 だけど、このクエストならいつもと同じようにゴブリン討伐を受注するだけで達成できる。


 一か八か、やってみよう。



「アスラさん、一昨日言いましたよね?」


 ギルドの受付でゴブリン討伐の依頼書を出した俺は、既にそのことを後悔していた。


「アスラさんの実力ではゴブリン討伐は無理です。時間がかかりすぎます。採取系のクエストにしてください」


 受付の対応をしてくれたのが、一昨日俺を説教した受付嬢だったのだ。

 最悪だ。話を聞かない奴だと思われてる。まあ話を聞かないで同じクエストを受けようとする俺も俺なんだけど。


 ……待てよ? 受付嬢の怒りを回避するって、もしかして彼女が受付することを前提としているのか?

 だとしたら俺がやるべきことは一つ。この受付嬢を納得させることだ。


「すみません、あなたの名前はなんでしょうか?」


「私ですか? ミサですが、それが何か?」


「ミサさんですね。単刀直入に言いますが、俺は強くならなければいけないのであなたの言うことには従えません」


「はあ?」


 ミサさんの顔があからさまに苛立つのがわかる。

 俺だって、こうまでしたいわけじゃない。でも、クエストを受注しないと隠しクエストが始まらないのだ。


「ご自分が置かれてる状況を理解していますか? アスラさんは3年経っても全く成長していないじゃないですか」


「それはわかってますけど……でも別にミサさんに止める権利があるわけではないですよね?」


「迷惑なんですよ、ギリギリの時間に駆け込まれると。私たちと職員だってボランティアで仕事をしているわけではないので」


「じゃあ、ギリギリの時間でなければいいわけですよね?」


 ミサさんの目の色が変わった。


「なんですか? もしかして、いつもより早くクエストを達成できるって言ってるんですか?」


「はい。やってみせますよ。それなら文句ないでしょう?」


「少し早いくらいだったら意味はないですよ。そうですね……初心者の冒険者と同じく、3時間ほどで10体のゴブリンを倒してきたら認めてあげますよ」


 いつもゴブリン10体を倒すのに12時間はかかってるから、その4分の1か……!

 かなり厳しい条件だ。出直すか?


「ま、無理に決まってますよね。お互い大人で、時間を無駄にはしたくないでしょう? 諦めた方がいいですよ?」


 前言撤回。


「やりますよ。3時間でゴブリンを10体倒します」


 完全に頭に来てしまった。こうなったら、なんとしても達成して納得させてやる!


「……いいでしょう。その代わり、達成が出来なかったら二度と討伐系のクエストを受けないでください」


 俺たちは互いににらみ合い、その場を後にした。



「くそっ、なんだあいつ!」


 前々から冷たい対応をされるとは思ってたけど、一応は取引相手になる冒険者にあそこまで言わなくていいじゃないか!

 かなりイライラするが、ここで怒っていてもしょうがない。約束の時間は刻一刻と迫っているんだから。


 いつもと同じ狩場にやってくると、前方にゴブリンが見えてくる。


「大丈夫だ、新しい剣もあるんだから……」


 昨日はおじいさんを助けることに集中していたけど、今日はいつもより少しだけ怖い。ゴブリンとの戦いだって命がけなんだから。


「――やってやる!」


 俺はゴブリンに向かって駆けだすと、思い切り剣を振るった。


「ギャアォ!!」


 その瞬間、俺の一太刀を食らってゴブリンが吹っ飛んだ。

 あれ、いつもと感触が違うぞ?


「ギャギャギャッ!!」


 ゴブリンはさらに声をあげて突進してくる。あれはかなりダメージが入った時の鳴き方だ。


「おらっ!」


 それから俺は数分、ゴブリンに攻撃を入れ続けた。

 すると、いとも簡単にゴブリンを倒すことが出来たのだ。


 なんだこれ……これじゃまるで、ゴブリンが弱くなったみたいだ!

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