第3話 とんでもない報酬
「この巾着袋……って、これはもしかして10万ギル!?」
「おお、よくお分かりになりましたな。おそらくそれくらい入っているでしょう」
「いやいやいや! さすがにそんな大金もらえませんって!」
「受け取ってくだされ! この老いぼれの命を助けてくださったのですから! そうでもなければ納得がいきません!」
老人は俺の手を握って離さない。これは受け取らないと帰らせてもらえないな。
「……わかりました。ぜひください」
「そうしてくだされ! それでは、ワシは孫に会いに街に行きますので!」
老人は俺の手をぐっと握った後、いそいそと街の方へと行ってしまった。
「……本当だった」
俺は巾着袋の中身を手のひらに出し、その場で計算をしてみる。
「やっぱり……ちょうど9万6500ギルだ」
<隠しクエスト>は、これから起こる事件をクエスト形式にして俺に見せている。間違いない。
あの老人がゴブリンに襲われたことがその証拠だ。偶然であそこまで一致するはずがない。
クエストに指定された場所に行くと、事件が起こる。その問題を解決すると報酬を受け取ることが出来る。
これはすごいことだ。クエストに示された通りに行動したら、一気に普段の20倍の金額をお礼として貰えてしまったのだから。
「あと気になるのは、『経験値』ってところだな……」
お金が手に入っているということはこの経験値ももう貰っているはずだ。だけど経験値というアイテムが手に入ったわけじゃないし、目に見えた変化はない。
『経験』と入っているから、触ることが出来るものではなく俺の中に蓄積されるものなのかもしれない。とりあえずこれは保留で。
さて、問題はおじいさんから貰ったこのお金だ。
20日分のお金と考えれば、少し仕事を休んだり余裕のある生活を送るという選択も出来るだろう。
だけど俺は別の事を考えていた。
「このお金で装備品を整えよう」
棚ぼた的に手に入ったお金。せっかくなら強くなるための投資に使いたい。
それに、整えた装備で強いモンスターを倒せるようになればいい流れが生まれるかもしれない。
俺は震える手で大金を握りしめて街の武器屋に向かった。
「結構いい剣が買えたんじゃないか……!?」
俺が今まで使っていたのは、3年前に冒険者になった時に買ったものだ。価格は1万ギル。
それに対し、さっき買ったこの剣は約10万ギル。心機一転ロングソードにしてみた。
太陽の光を浴びて白く光る刃を見て、思わず口元が緩む。
「よし、次のクエスト行くぞ!」
俺はさっきから自分の体にまとわりついているウィンドウを見て、クエストを選ぶ。
「今のところ一番気になるのは……これだよな」
――
『迷子の子ネコちゃん』 ★
【概要】
薫風亭から東に200メートル先の家の前にいる少女の飼い猫・マロンを見つけ、彼女に届ければ達成。
【報酬】
・体力全回復
・経験値10
――
このクエストは、時間制限がフリーになっていたクエストだ。この『フリー』とはどういう意味なんだろう?
ひとまず何も考えず、俺は少女を探して街を歩く。
「お、あれか?」
指定された通りに薫風亭から東に向かって歩いていくと、一軒の家の前に悲しそうな顔をした少女が立っていた。
「こんにちは、どうかしたの?」
「お兄さんは誰?」
「俺はアスラ。冒険者だ。何か困ってるんじゃないのか?」
なんて、かなり怪しい挨拶だけど。少女は一枚の絵を俺に見せてきた。
「それは?」
「うちで飼ってるネコのマロンがいなくなっちゃったの。子ネコだから、野良猫にいじめられてるかもしれないの」
クエストに書かれていた通りだ。どうやら、残り時間フリーというのは時間制限がなく、いつでも受けられるクエストという意味なのだろう。
「わかった、お兄さんが探してきてあげるよ!」
「ええっ、本当に!?」
「本当だよ。時間はかかるかもしれないけど、絶対に見つけてみせる!」
「絶対!? 約束だよ!!」
俺は少女と指切りをして、マロンの捜索を始めた。
それから時間が経って、深夜。
「はぁ~い、どなたでしょうか?」
玄関の扉を開いて、家の中から女性が出てくる。
「夜分遅くにすみません、冒険者のアスラと申します」
「冒険者さん? 何か用かしら?」
「おたくのマロンちゃんらしきネコを見つけたんです。俺だと逃がしてしまいそうなので、こんな時間で申し訳ないんですが引き渡したくて……」
女性は俺が抱えているネコを見るなり、口を抑えて絶句する。
「ウソ……間違いなくマロンです! いったいどこに!?」
「ネコ探しは得意なんです。一時期、金策で迷子のペット探しをやっていたので」
「アスラさん……でしたよね。娘からいつマロンのことを聞いたんです?」
「今朝です」
「……もしかして、それからずっとマロンを?」
俺は頷く。まあ何時間もかかるゴブリン退治を毎日やっていれば、それくらいの体力はつく。
「ありがとうございます! マロンがいなくなってから、娘はずっとふさぎ込んでいたんです! なんとお礼を言ったらいいのか……」
「いえ、約束は守りたいですから」
俺はマロンを女性に引き渡し、彼女に見送られながら宿へと戻る。
「これでクエストはクリアだ。報酬はどんな感じになるかな?」
俺はそう言って、自分の体を見てみる。すると、変化は一瞬で分かった。
体の痛みや疲れが取れている。それに、ゴブリンに噛みつかれた腕の傷も、まるで何事もなかったかのように完治している。
これが報酬の『体力全回復』か。文字通り完全に治癒したって感じだな。
ネコ探しの時は全身痛くて仕方なかったけど、これで明日からもクエスト攻略に勤しめるぞ!
……って、もう2時回ってるから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます