第2話 隠しクエスト
「んん……」
翌朝。俺は木が軋むような音で目を覚ました。
この宿はボロいから、同じ階の人が起きるとその音がここまで聞こえてくるんだよな。
「昨日の寝る前のアレ……なんだったんだ?」
寝る寸前だったし、単なる気のせいだよな。そんなことより今日の仕事の準備を――、
「……え?」
その時、俺は気が付いた。目の前に半透明の板があることに。
「なんだこれっっっ!?」
「うるせえ!!」
隣の部屋から怒鳴られた俺は、そのままの状態で朝の準備を済ませた。
部屋から出て一人になれるところに来た俺は、半透明な板と向き合う。
「なんなんだこれは……ずっと俺についてくるし、昨日の声が関係してるんだろうな」
確か、ウィンドウがなんとかって言ってたような? ウィンドウって、これの名前か?
「にしても、これって多分『スキル』だよな」
スキルは人間に与えられる特別な能力のことだ。誰でも一律に手に入るわけではなく、生まれた瞬間から持っている人もいればある日突然目覚める人もいる。
俺は後者だったわけだが――これは何の能力なんだ?
「とりあえずこのウィンドウを見てみるか」
ウィンドウに何が書いてあるか見てみると、そこには文字列が書かれていた。
――
・『老人を助けろ』 難易度1 残り15分
・『八百屋のハプニング!?』 難易度1 残り2時間25分
・『迷子の子ネコちゃん』 難易度1 フリー
…
――
最初にタイトルのようなものが付いていて、次に難易度、その次は残り時間が書かれているようだ。
これじゃ何のことかまるでわからない。俺は試しに一番上の『老人を助けろ』の場所をタッチしてみる。
――
『老人を助けろ』 ★
【概要】
サンバルテ東門から2km先にいる老人を、ゴブリンの手から守ることが出来れば達成。
【報酬】
・9万6500ギル
・経験値10
――
これは……ギルドに掲示されているクエストにそっくりだ。
そういえば、寝るときにこのスキルの名前を聞いた気がする。名前は<隠しクエスト>だ。
一見するとただのクエストだけど、不可解な点がある。文章を読んでみるに、これから先に起こることを予測しているようだ。ギルドが発行するクエストにそんなものがあるはずがない。
それに報酬もかなり莫大だ。昨日の俺のクエストの報酬が5000ギルだったから、単純計算で20倍。そんな美味い話あるだろうか?
この『経験値』っていうのもよくわからないし。そもそもこの話自体ないことなのかもしれない。
「はあ、馬鹿馬鹿しい。こんなものに時間なんて使ってないで、さっさとギルドに行くか……」
でも、もしこれが本当だったら?
もし本当にこれから老人がゴブリンに襲われて無慈悲に殺されてしまったとしたら?
ゴブリンは雑魚モンスターに分類されるが、一般人からすれば太刀打ちできないモンスターだ。
おまけに純粋悪の塊のようなモンスターなので、生き物を襲うときはいたぶるのを楽しむような殺し方をする。
「残り時間……13分!!」
残り時間は着々とその数字を減らしている。きっと何かの間違いだという理性と本当だったらどうしようという感情が入り乱れた結果――、
「やるしかない!」
俺は東門に向かって走り出していた。
「多分、この辺だと思うけど……」
東門からひたすら走り続け、近くまで来ることが出来た。辺りは道がある以外、草原が広がっているだけの平地。
本当にこんなところにゴブリンが出るのか? 今のところは平和そのものだけど――、
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
今の声。老人のものだ!
声がした方へ走っていくと、そこには尻餅をついている白髪の老人がいた。
そして目の前には2体のゴブリンが下卑た笑みを浮かべながら寄ってきている。
間違いない、アレだ!
「大丈夫ですか! 今、助けます!」
「ああ、冒険者様ですか! お願いします!」
ゴブリンが2体か……! 今までは1体ずつの対処でギリギリだ。いけるだろうか……!
「助けてください! ワシは、ワシは――!」
老人が俺の足に縋ってくる。
そうだ、俺はこういう人を助けられるような人間になるために冒険者を始めたんだった。だったら――、
「ここは引くわけには、いかねえだろおおおおおおおおお!!」
それから俺はゴブリンと死闘を繰り広げた。
腕に噛みつかれ、胴を爪で引っかかれ、全身を裂かれたような痛みが俺を襲う。
それでも俺は立ち向かった。手に持った貧弱な短剣と名前も知らない老人を守りたいという思いが、目の前の強敵を打ち砕こうと突き動かす。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
残ったゴブリンは1体。ここまでの攻撃のかいあって、あと一撃もあれば倒すことが出来そうだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「ゲゲゲゲゲゲゲッ!」
俺とゴブリンの激しいぶつかり合い。その結果、俺の短剣がゴブリンの胴体を貫いた。
俺の――勝ちだ!
「やった……勝ったぞ……!」
ゴブリンが絶命したのを見て、俺は脱力感から地面に倒れ込む。
「ありがとうございます名も知らぬ冒険者様! おかげで命が助かりました!」
その時、陰で俺の戦いを見ていた老人が涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
「私に代わって戦ってくださってありがとうございました! せめて、これを受け取ってくだされ!」
そう言って老人が差し出したのは、金貨が入った巾着袋だった。
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