ギルド最弱の俺にだけ見える『隠しクエスト』 ~街の困りごとを解決して手に入れた経験値やスキルで成り上がり、馬鹿にしてきた奴らを見返す~

艇駆いいじ

第1話 ギルド最弱と呼ばれた男

「……ゴブリン討伐の達成報告ですね。ではアイテムの納品をお願いします」


 不機嫌そうな受付嬢に、俺はゴブリンの耳が入った袋を渡す。


「……はい、確かに受領しました。報酬をお渡ししますが、その前に一つよろしいでしょうか?」


「なんでしょうか?」


「大変申し上げにくいのですが、ゴブリン討伐は、アスラさんの実力に見合っていない難易度のクエストだと思います」


 受付嬢は冷めた目をしながら淡々と話す。

 ……これから何を言われるかは、なんとなくわかっている。


「アスラさんがゴブリン討伐のクエストを受注したのは、ギルドが開いた朝一番。そうですね?」


「はい、そうです」


「そして、達成報告をした今の時間が、ギルドが閉まる5分前。クエストを受注してから約12時間が経過しています。途中、休憩は入れましたか?」


「……いいえ。今日は間に合わないそうだったので、休みなしです」


「そうですよね。クエスト内容はゴブリン10体を倒すこと。普通の冒険者でも3時間あればクリアできる内容です」


 『普通の』と言われると、胃が痛くなってくる。自分が普通じゃないことを突きつけられているみたいで。


「明らかに、ゴブリン討伐と実力が見合っていません。今後は採取系のクエストをしてはいかがでしょうか、という提案です」


「でも、ちゃんと達成はしているじゃないですか!」


「ですから提案だと言っています。実力が伴っていないクエストを続ければ、アスラさんのためになりません。それに……毎日毎日、ギリギリの時間に駆け込まれるとこちらとしても迷惑なんです」


 周囲のギルド職員がこちらを見ている。皆同じような目だ。

 ……そうだよな。もうギルドの営業が終わる時間だ。職員さんは俺の対応をしているぶん、余計に仕事をさせられているわけで、それを迷惑だと言われれば何も言い返せない。


「……わかりました。検討します」


「ぜひそうしてください。採取系のクエストなら危険はほぼありませんし、休憩も取れますよ」


 受付嬢は慣れた手つきで報酬を受け皿の上に載せ、俺に差し出した。


「もう3年も冒険者を続けているんですから、アスラさんも自分のことはよくわかっていると思います。ぜひ自分の実力にあった振る舞いをお願いします」


 何も言い返せないまま、俺はギルドの外に出た。



「くそっ、何もそこまで言わなくていいじゃないか……!」


 ギルドから出て宿に戻った俺は、夕食のパンをかじりながらボヤいた。

 机の上では雑巾のように薄っぺらい財布代わりの巾着袋が、疲れた顔をしながら俺の窮状を訴えてくる。


 15歳で冒険者になって3年。俺の生活は変わる気配を見せなかった。


 原因は受付嬢が言っていた通り。実力がないため、雑魚モンスターを倒すのにもかなりの時間がかかる。時間がかかるから収入もよくならない。


 ついたあだ名はギルド最弱、万年Fランク、冒険者の恥。どれも不名誉なものばかりだ。


 答えはわかっている。冒険者に向いていない。仕事をやめるか、あの受付嬢の言うことを聞いて採取系のクエストを受注したほうがいい。


 だけど、モンスターを倒さなければ強くなれない。強くならなければ、根本的な解決とは言えないだろう。

 俺は明日も受付嬢の言葉を無視してゴブリン討伐クエストを受けるだろう。そしてまた同じように冷ややかな視線を浴びるだろう。


『もう3年も冒険者を続けているんですから、アスラさんも自分のことはよくわかっていると思います。ぜひ自分の実力にあった振る舞いをお願いします』


 受付嬢の顔と、事務的な言葉がフラッシュバックする。


「そんなこと、俺が一番よくわかってるよ……」


 俺はこうして一生同じようなモンスターを倒して、同じように苦悩して生きていくのだろうか。


「……寝よう」


 考えても仕方ない。明日も朝早くから仕事だ。休めるうちに休んでおこう。


――


 スキル<隠しクエスト>を習得しました。

 ウィンドウを表示します。


――


 ん……? 今、何か聞こえたような……?


 でも、もう眠くて何もできそうにない。きっと幻聴か何かだろうな……。

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