第4話 救援
異界ゲートを通り抜けたら先程居たところとほぼ変わらない景色の場所に出た。
違うのは地面に倒れている複数の死体と頭が豚で二足歩行の巨体、そしてそれに立ち向かう厳つい男。
男は大剣で攻撃するがすべて魔法陣に防がれている。男の方は特に怪我をした様子はない。
「救援に来ました!!」
「……魔法陣の強度が高く突破できていない。展開していない場所を狙っても相手の展開速度が早く防がれている。救援者は皆死んだ、あいつの攻撃は防ぐな避けろ……」
戦闘中で厳しい状況だというのに、男には慌てたり、焦っているような様子はなく、とても冷静に状況を教えてくれた。
既に死んでいる救援者を見ると側には壊れた武器や盾が転がっている。
私たちが装備している物だと敵の攻撃を受け止めきれないということ。
魔法陣の展開速度が早いなら同時に攻撃するくらいしか思いつかない。
「私はあいつの背面から攻撃します! タイミング合わせて同時に!」
「……わかった」
「ココくまは背面の下側を、私は上を狙うね」
「くまー!!」
敵は男の方をずっと攻撃しているが、こっちにも意識を向けているらしく、背面に回ろうとしたときに敵の目がこっちに向く。
何度か単独で背面から攻撃してみるものの、全て魔法陣に防がれて敵には攻撃が届かない。
そして攻撃するために近づいたということは敵の間合いでもあり、敵はやり返してくる。
敵は男よりもでかい大剣を持っているが、巨体故にそれを軽々と振り回している。
恐ろしい速さで迫ってくる大剣を敵から距離を取ることで回避する。
「――っ!!」
回避して安心しかけた時、目の前に敵が迫ってきており、大剣を振り下ろそうとしていたのをぎりぎりで避ける。
少し隣に振り下ろされた大剣は地面にめり込んでおり、どれだけ威力が高いのかがよくわかる。
敵から距離を取り、役に立ちそうにない盾は投げ捨てる。今度は油断せず常に敵に意識を向けたまま。
敵が私の方を狙っている間、背面でずっと男が攻撃していたが、それも全て防がれており、敵にダメージはない。
しかし、ずっと攻撃されているのは苛立つのか敵の注意は再び男に戻った。
「……合わせろ、三……」
男は敵の攻撃を避けながらカウントを始めた。
「……二」
敵の攻撃を避けながら男は大剣で攻撃していくが、魔法陣に防がれる。
「……一」
私とココくまは走り出し、距離を詰める。
「……ゼロ」
一点集中、敵の頭部へ突きを放つ。
ココくまは斧で敵の膝裏を。
男は敵の大剣を避けながら大剣を振り下ろす。
レイピアの剣先は、斧は、大剣は、全て魔法陣に防がれていた。
防がれているのに気が付いた瞬間、即座に敵から距離を取る。距離をとっても油断しない。
だめだった。三箇所同時攻撃でも魔法陣を突破できなかった。展開速度もだけど、どこも魔法陣を破壊することもできなかった。
最初の三体の時はココくまが障壁を破壊していたけど、今回はココくまの攻撃でもびくともしていなかった。
さすがに魔法陣の展開に消耗がないとかはないだろうけど、持久戦に持ち込んでも圧倒的にこっちが不利。
ならなにか新しい手がいる。
さっきの全力以上の力で攻撃とかは無理だし、出ても魔法陣を突破できるほどの威力が出るとは思えない。
「何かしらの未知の力であの障壁をだしているなら、その未知の力を載せた攻撃なら突破できるかもしれません!!」
あれを魔法陣とするなら、魔力を。
「……それでどうする……?」
使い方もわからない未知の力を何の情報もなく使えるようになるのは不可能だ。
となると図書室で情報を集める必要がある。
「私のところの建物には図書室がありました。こっちにもあるのならそこで未知の力を扱うための情報収集を! その間私が敵の足止めをします!」
そうなると敵と戦う人員がしばらく減ることになるがやるしかない……。
ココくまとならやれるはず、やる!
覚悟を決める。
「……なるほど、わかった。だが情報収集はおまえがやれ……。俺のほうが長く時間を稼げるだろう。それに女だけ戦わせて自分は安全なところに行くなど性に合わん。一時間だ。一時間は何があっても稼いでやる。そのクマも連れて行け」
男から飛んで来たものをキャッチすると端末だった。
これで図書室の場所を確認しろということなんだろう。
「分かりました!! 絶対に一時間で戻ってきます、どうか死なないで」
全力で走り、異界ゲートがある大部屋を出る。部屋を出たら端末を操作して図書室の場所を確認する。
「私の所と全部同じ……?」
男の端末を操作して出てきたマップは私が見たものと全く同じだった。
時間を少しでも無駄にできない今、図書室の場所がすぐにわかったのは助かる。
息が切れても苦しくても走り続け、図書室にたどり着いた。
既に五分経っている。あの人、デュランって人は大丈夫かな……。
そんなこと考えてる暇があったら情報を探して少しでも早く戻る、それが一番。
「ココくま、魔法、魔力、障壁、未知の力、侵略モンスター、それっぽい本があったら持ってきて、ココくまは本棚の下三列をお願い!」
「くまー!!」
いうと同時に私も本棚に目を向け、関係ありそうな本を探していく。
一つ目の本棚、何もなし。
二つ目の本棚、何もなし。
三つ目の本棚、レイピアの扱い方。気になるけど今は読んでいる時間がない。試練が終わったら読む。
四つ目の本棚、侵略モンスターについて。この本なら魔法陣らしき障壁について載っているかもしれない。メインにはならないけどその前準備として目を通すべきだろう。
侵略モンスターとは、異界に存在する生物が侵略され、体を乗っ取られている生物のことをいう。一度侵略され――――ない。侵略モンスターは侵略される前から保有している魔力を扱うことができ、魔力で障壁を貼ったり、種類によっては魔法を扱うものも存在する。
やっぱり、あれは魔力による障壁だったんだ。それに種類によっては魔法を使ってくるってあったけど、あの敵はどうなんだろう。
見た目的にはゲームとかでいうオーク。大剣を持ってたし物理攻撃系のようにみえるから魔法は使ってこなさそうだけど油断はできない。
「くまー!!」
近づいてくるココくまの手には魔法の扱い方と書かれた本があった。
「ココくま、ありがと」
ココくまから本を受け取ると、ココくまは再び本を探しに行った。
私は受け取った本を読み始める。
あった。
本の最初の方にまずは魔力を認識し、扱えるようになろうという章があった。
――魔力はすべての生物が持っている力です。
基本的には目えませんが、全身から溢れた魔力を身にまとっています。
目を閉じて、自分の体を包み込んでいるものを感じ取ってください。これが魔力です。
人によってぬくもりに包まれている、ひんやりしたものに包まれている、きぐるみらしきものを着ているかのような感覚など様々です。
一般的には半日から一ヶ月くらい掛かります。――
目を閉じ、自分の体を包み込んでいるものを感じ取ろうと頑張る。
「……ん、あれ」
目を閉じているのに、ココくまがどこにいるか、そしてココくまと私との間に伸びている何かがわかる。
それは私の全身も包み込んでいて……。
「これが魔力……!?」
どうしてココくまと魔力で繋がって……、いやそれよりも次を。
――身にまとっている魔力を形にする。見えるようにしたのが障壁です。障壁は使った魔力量、使用者の技量などに応じて強度を増していきます。
障壁は物理攻撃、魔法攻撃を受け止めることが可能です。特に魔力のこもっていない攻撃にはかなりの強度があります。障壁の強度以上の攻撃を受けると破壊されます。
障壁は展開している面積が大きいほど多くの魔力が必要です。例えば一メートルの障壁を出すのに必要な魔力を100とすると、十センチの障壁を出すには10以下で可能です。
また、十センチの障壁に魔力を100使用した場合、魔力を100使用して展開した一メートルの障壁よりも強度が高くなります。
許容量を超えた攻撃を受けると障壁は砕け、障壁に使用した魔力全てを消費します。
魔力は身にまとっているだけなら空気中に溶けないため消耗はしませんが、障壁など形にした場合、少しずつ空気中に溶け出していきます。
魔力を武器に込めて攻撃すると、込めた魔力量や魔力の込め方によって、鉄のナイフで鉄の鎧を切り裂いたり、障壁や魔法を切り裂いたりできます。――
目を閉じ、障壁を展開するために集中する。
身にまとっている魔力を形に……、見えるように……。
うーん、イメージがうまくできてないのかな、まとっている魔力を押し出して圧縮硬い壁を作るイメージ……、できた!?
感覚的に障壁ができた手応えを感じたため、目を開けると目の前には白い障壁が展開されていた。
軽く叩いてみるがびくともしない。
障壁を作るイメージを無くすと、障壁はスッと消える。
「よし、障壁はできた。次は魔力を武器に込めて……、うん、できた。だけど……」
感覚的には手持ちのレイピアに魔力が込められているのがわかるけど、これであっているのかの確認をどうするか。
本に書いているように装備がある部屋に行って、金属の武器で金属製の鎧を切って確認すれば、ちゃんと魔力が込められているか判断できる。しかし時間がかかる。
次に自分が展開した障壁に攻撃して確かめる。これは障壁を破壊した時の魔力消費を考えると……。
端末で時間を確認すると約束の一時間まであと十分になっていた。
全力で走ればだいたい五分、その後の戦闘を考えたらそろそろ戻らないといけない。
目の前に障壁を展開し、そこに魔力の込めたレイピアで思いっきり突く。
レイピアは一瞬障壁に受け止められたが、その後障壁を貫いて破壊した。
「できた……!」
それに今のでコツがわかったきがする。込めた魔力も先は細く、鋭く圧縮。そうした方がより破壊力が出る。
先が丸まっている物より、尖っている方が貫通力がある考えと同じ。
「ココくま、急いで戻るよ!!」
「クマー!!」
この部屋に敵が来ていないし、近くに来たような気配もなかったから、まだ戦闘中であの人は生きていると思う。思いたい。
急いで戻らなきゃ。
異界ゲートのある大部屋に戻った私の目に入ったのは、片腕から血を流しながらも戦闘を続けている男と男からの攻撃をすべて障壁で受け止めている敵の姿。
一時間休まず戦い続けていたため、男は息切れしており、動きも一時間前より少し悪い気もする。
男と敵のいる場所へ近づいている時、敵の攻撃がかすり、男は足を負傷し膝をついた。
敵は大剣をおおきく振りかぶってとどめを刺そうとしているため、その間に入り込んで障壁を展開し受け止める。
障壁で受け止められなかったら死ぬ。その恐怖からかなりの魔力を使って展開された障壁はびくともせず、あの地面にめり込むような一撃を軽々と受け止めていた。
「細く、鋭く、すべてを貫く……」
障壁を展開したままレイピアに魔力を込め、敵を突く。
大剣を振り下ろす体勢の敵の頭は腕が邪魔で狙えない。なので敵の足を狙った。
敵も私の動きを見て障壁を展開したが、障壁などなかったかのように一瞬で破壊し、敵の足を貫いた。
敵の野太い声の悲鳴があがり、大剣を握っていた腕が下がり顔が狙えるようになった。
レイピアを敵の足から引き抜いてそのまま顔面へ突きを放つ。
一度障壁を破壊したからか分からないけど、先程よりも強度がある障壁で一瞬受け止められるが破壊、敵の頭部を貫いた。
敵の握っていた大剣が地面に落ちる。
レイピアを引き抜くと敵は地面に崩れ落ち、動かなくなった。
「お待たせしました。時間を稼いでいただきありがとうございました」
私が勝てたのは、この人が命がけで時間を稼いでくれたから。
ココくまと二人だけだったら勝てたかわからない。
「……助かった、ありがとう」
――難易度Aの特殊試練をクリアしました。
これにより全ての特殊試練が終了しました。
特殊試練103の内、クリア80、失敗23です。
特殊試練に該当した挑戦者、および救援者の試練は終了です。詳細な結果は生存試練が終了してからになります。――
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