第6話 Iターン




 俺は今まで一人で身体を張って凌いで頑張って来たけれど、どれだけ頑張って来ても時には天の悪戯で全てが泡となる事もある事を今回知った。

 今まで好き勝手にさせて貰った・・・と云うより好き勝手な事をしていたのだから天の神様がが親孝行しろと言って来たのかも知れない。



「はぁ、俺はいったい何をしてるんだろう。せっかく夢を描いて東京へ行って、一生懸命勉強していまの会社に入り、必要な資格も頑張って取ったと云うのに・・・また田舎に帰ってきちゃったよ。

 せっかくあそこまで上り詰めたのに!もう、この時分の同期達は結婚してるんだろうなぁ、俺なんか未だに独身だよ。

 でも、早智子さんには悪いことしたなぁ!彼女は都会出身だからこんな田舎には絶対住めないだろうし、都会と違ってコンビニまで車で信号のない道を十分も走らなければならないからな!それに病院や大手スーパーまでだって車で二~三十分はかかる訳だし、それに田圃道や農道には外灯が少ないから夜は真っ暗になるしなぁ」


「お~い浩史、何一人でぶつぶつ言ってんだぁ、晩ご飯出来たと純が言ってんぞ、早くしねえと純達が帰れなくなるから早く来い」


「はぁい、はいと分かったから今行く。・・・おっ今夜は豪勢だね、純姉ちゃんも今日まで親父のために有難ね、明日からはこんなに豪勢にはできないけど俺がやるから、秀樹兄さんにもお礼言っといてね。」


「浩史、あまり無理しちゃだめだからね、仕事で遅くなるとか、何かあった時には連絡してくれればちゃんとやってあげるから、秀樹兄さんは遠いから難しいかもしれけど。

 お義姉さんだって悪気が有って遠くに家を買ったわけじゃないのよ、此処が不便すぎるのよ。とは言え、お父さんの生まれた土地だし、私達だってここで生まれて生活してきたんだから仕方ないんだけど」


「其れは知ってるよ。俺はさ、一度もこの地を忘れた事なんて無いから。只、帰って来るにはちょっと・・・・・この家は近いんだけど俺には遠かったんだよ」


「浩史、なに其れ!、近いんだけど遠いっておかしなこと言って、今まで何してたの?後でちゃんと秀樹兄さんと私に話してよね。

 隆さんだって心配してたのよ、分かってる!」


「おいおい純、そんなに浩史を責めんなよ。浩史だってそんなの分かってるよ。帰って来て直ぐに純に怒られたらまた東京へ戻ってしまうだろうが、なぁ隆、お前もそう思うだろう」


「その通りだ、純、あまり浩史君を責めるな。其れより浩史君、彼女の話はどうした。まさか居ない何て事はないよな!

 十五年間其れ也に彼女は居たと云うか出来たんだろ、ちょっと義父さんや義兄さんである俺に聞かせてくれないか」


「えぇっ何其れ、居ませんよ。俺はずっと仕事で寝る暇もなく追われて、超ブラック的な会社なんですから・・・それに海外にも行かされて、やっと帰って来て部署を任されるようになった矢先に茨城への移動だったので、女の人と接する機会なんてゼロです」


「アッハハハそうか、機会ゼロか。其れならこっちで彼女作ってしまえばいいじゃないか、そうすれば東京へ戻ら無くても良くなるかも知れねえな」


「浩史、そうなの?誰も居ないの?その年になっても可哀想、あんた昔から好きな人が出来ても口に出せなかったもんね」


「ちょ、ちょっと純姉さん其れはないよ。何の話をしてんのかな!俺にはずっと彼女なんていなかったから、其れ誰の話をしてんのか俺は知らないぞ」


「あらっそんな事言うの!この私に、何なら隆さんと父さんに全部話しても良いんだけど、どうなの?正直に言いなさい」


「あぁもう、頼むからさぁ、勘弁してよ。確かにちょっと付き合っていたと云うか二~三回食事をした人はいたけど、彼女っていう訳じゃなかったし、高嶺の花って感じの人でさ。

 其れも食事だって仕事上でのお礼がてらで好きとかじゃなかったから、都会育ちで帰国子女だから彼女はこの地での生活は出来ないよ」



 義兄さんや親父も俺の今までの生活には興味本位で知りたがっていたけれど、話した通りに其れ以上でもなかったし、彼女にはこちらでの生活なんて到底想像がつかない訳で俺が諦めて正解だったと思っている。

 其れにIターンと聞くと聞えは良いけれど、取り方によっては左遷と思う人たちだっているはずで、まして海外まで行き帰国したら今度は地方だなんて何か悪い事をしたと思われても仕方がない事なのだ。


 どの様な理由なのかも知らないくせに都落ちには冷たい視線が突き刺さる、其れほど皆俺の事が気になって仕方が無いのだ、普段変化が無いだけに余計に興味深々となる訳で、芸能人じゃないぞ俺は!って叫びたいくらいだ。

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