第5話 干物女





 美咲との共同生活がもうすぐ終わることになる為、無理なことは分っているのですが、市営住宅への申し込みをしてみてはと担当課長から勧められ藁をも縋る気持ちでしてみたけれど、たぶん無理だろうなぁって!

 散々不動屋さんで撃沈していたからと思いつつ裏口入学ならぬ課内伝手(つて)で申し込みをしてみたのですが!


 数日後、無理やりお願いしていた市営住宅申し込みの結果が出て、思った通りに市民課担当主任から冷たい言葉を告げられたのでした。

 


 梶谷さん、母子専用住宅申し込みの件なんだけど、担当課長とも相談したんですが、やっぱり無理なんだだね。お腹の子が産まれているのであれば何とかなるんですよ、そのぉ空いてる部屋も在るんでね。だけど、まだ産まれていないし、一人で身重で、それにもし一人で生活している時に産気づいて産まれるなんてことになったら、その時を考えるとまだ貸せないんだよね



(云われるまでもなくそういうことは重々知っていますよ。彼方此方(あちらこちら)とアパートを探して不動産屋さんに声を掛けては同じような事ばかり言われ続けているんですから、あぁ~!どうしようかなぁ…こんな時に関矢くんが居たら相談できるのに、あぁあ彼どうしてるかな?あれから十五年過ぎたのよね、今の私には相談できる人がいないよぉ)

 なんて心の中で思いながらも口には出せない私ですが、私の市役所の住民課のマイナンバー取り扱う部署は忙しく毎日追われ続けている日々で、誰にも相談できませんでした。



「高橋さ~ん、お待たせしました~ぁ、マイナンバーカードの受け取りに来られたんですね、何か身分証明できるものありませんか?保険証でも免許証でも良いですよ」


 はい、保険証ならありますが?


「はい、確認出来ましたので、其れでは此方がマイナンバーカードですが間違いないですか?住所、氏名、生年月日の確認して下さいね。確認出来ましたら次に暗証番号四桁の数字ともう一つの英数字を組み合わせた六~一六文字の暗証番号を登録しましょうね、こちらのパソコンから数字を入力して下さいね、、其れと忘れないようにメモを取っておいてくださいね、忘れる方が多いですからお願いします」


 何か面倒くさいねぇ、これで良いかなぁ


「は~い、大丈夫ですよ、メモは忘れないでください・・ハイ出来ました。其れと無くさない様にして下さいね、更新は五年後になりますが時期が来ましたらお葉書で知らせますから大丈夫ですよ。今度はマイナンバーカードが有ればコンビニなどでも住民票とか取れますからね」


 ねぇ、今夜食事に行かない~!日立にさ、新しいレストラン出来たんだよね、ケーキが美味しいって、どう、行かない。梶谷さんもたまには行ない?気分転換にさ、良いと思うよ。


「誘ってくれてありがとう、でも今はこんなお腹だから・・・・御免ね」



梶谷さんも大変だよね!あんなお腹じゃ何処にも行けないし、それに・・・・変な噂も出てるみたいだよ。


へぇそうなんだ!でも其れは其れで仕方ないんじゃないの、独身で妊娠したんだから風当たりは強いでしょう。


だから、誘って本当の事を聞きたかったんだけど、最近付き会い悪くなってるからねぇ仕方ないよ。



 今までは仕事が終われば前は職場の仲間と飲みに行ったり食事に行ったりしていたはずなのに、最近はお腹の子のため、今後の母子生活のためにと貯金をし続け、世間体を気にしない干物女化しているような・・・美咲に言わせれば「最近のお姉ちゃん老けてるよ、女捨てちゃったみたい」だって。

 でも、今は我慢しなければ、もうお嫁になんか迎えてくれる男はいないんだから!等と勝手に決め込んでいる私が居るんです。


 女を捨てるか!全くそんな気持ちはないんだけど、化粧も髪にも殆どと云うか気にしなくなってはもう駄目なのかもね。



「干物女か!言い得て妙だわね」と思っている私なのでした。



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