第4話 嗚咽から希望へ




 亡くなった彼は私と同じ市役所の職員で、付き会いだしてから三年目を過ぎた今年の2月のバレンタインディにチョコレートを渡した時に、彼からプロポーズをされたのです。

 その時にはただ驚くばかりで、嬉しかったのですが返事は出来ないでいました、何故か結婚する事に躊躇していた自分が居たのです。



「お姉ちゃん、プロポーズされたんでしょ、受けちゃえば!居ない人より今、近くに居る人が大事だよ」


 なんて妹に助言されて、(連絡が来ないまま15年か?もうまてないよ!)揺れ動いていた気持ちを落ち着かせたのでした。


 そして、悩んだ末に一か月後のホワイトデーの日に彼に結婚への申し込みを受ける返事をした後、彼との愛を確かめた深夜の帰りの交差点でもらい事故に遭ってしまったのでした。


 キッキッキィー!


 キュッ!キュッ!キッキッキィ~!


 キャァ~なに!ブツかる、助けて~!


 ガッ!ドッゴ~ン  ガン!ガン!ガン!


 美由紀~伏せろ! 


 ガッシャ~ン


 ピ~ポ~!ピ~ポ~!ピ~ポ~!


 急患です!


 二人心肺停止、CPAです!


 女性一人、呼吸あり、意識無し、出血多量、各所骨折の疑いあり!



 梶谷美由紀さんの御家族でしょうか,茨城県警水戸警察署交通課の柴崎と云うものですが、3月15日0時過ぎ頃、梶谷美由紀さんが事故に遭われまして水戸相互共済病院へ救急搬送されました。至急ご家族の方にご連絡の上病院へ来て頂くようご連絡申し上げた次第です。


「えっお姉ちゃんが事故?其れって・・・今夜は二人で出かけたはずなんですが?」


 はい、同乗者の方がおられましたが、残念ですが電話では申し上げる事は出来ません。梶谷さんのけがの状況もありますので至急病院の方へご家族で来られますようご連絡申し上げました。失礼します。



 美咲と護兄ちゃんが急いで病院へ駆け付けてくれた時には侑一さんの死亡が確認されていたそうですが、私は意識の無いまま腕や脇腹、足などに骨折をしていて、それに一部内臓破裂が見つかり重体だったそうです。

 何時、様態が急変してもおかしくない状態だったとか、ICUの中で呼吸器を付け、鼻からチューブが挿入され、腕には数本のチューブが繋がれていたそうです。




 彼が私に叫んだ最後の言葉、其れだけが私の頭の中を駆け巡るのですが、彼は私を守る為に私の上に被さったまま息を引き取っていたそうです。

 その為に私は一命を取り留めたとの事ですが、私は助かって良かったのでしょうか?


 彼と私は事故後に病院に運ばれましたが、事故の内容や状況については全く覚えていなくて・・・後で知るとこになったのです。

 私は彼の死を集中治療室を出てから看護師さんから伝えられましたが、その時に私には理解が出来ませんでした?えっ彼が死んだって?・・・そんな、嘘、噓でしょ!とても受け入れる事が出来なかったのでした。


 少しづつ心の中で拒絶していた言葉が駆け巡り始め、其れが涙となり嗚咽となって身体から溢れ出して私は止める事が出来ませんでした。

 その日から私も「死ねばよかった」と病室のベッドの中で毎日泣き崩れていましたが、看護師さんから私のお腹に彼の赤ちゃんがいる事を伝えられ、新しい命を宿している事を知ったのです。


 私は泣きくずれる日々を過ごしている中で看護師さんや理学療法士さんから励まされ「この子のためにも絶対に死ねない、彼の子が私のお腹にいるんだ」と思うようになって((笑))相談する事なく一人で産む事を決めたのでした。 

 でも、世間の風は冷たいんですよ、「きっと不倫の子よ」、「未婚で身重だなんて恥ずかしい」だとか、今でもいろいろ言われ続けていますが私も妹の美咲もどこ吹く風で、だって、全て他人の考え事だから勝手に思えばって気にせず生活しています。


 しかし、今、現実に困っている一番の問題は妹の結婚が決まってしまった事なんです「この部屋でお姉ちゃんと一緒に住めないよ」、突然の宣言でした。

 妹に彼氏が出来てスピードプロポーズされ、今年の十二月に結婚式を挙げるって言い始めた為に、身重の私はこのアパートを出なければならなくなってしまったんです。


 妹の彼である高崎君は農家の次男坊で同じ市の職員なんですが、次男坊の宿命と云いますか実家には一緒に住めないため、しばらくの間は美咲のアパートで新婚生活をスタートし来年春に新居を立てると云う事に決まったしまった事と、予定日の一月中旬には私のお腹の子も産まれてしまうので、今、最悪状態なんです。


 誰か助けぇ~!、ってその誰かって・・・・誰も居ないよぉ((泣き))。


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