更に奥へ



「……ま、これは俺が岸風から直接聞いたエピソード。これ吐かせるまでに焼酎を三本も空ける羽目になったんだけどな」


 雲村は与太話でも語るように呟く。アイスは、気がつけば半分以上が箱からなくなっている。早く食べないと溶けるという焦りか、それとも話に没頭していた故か。

 十成はパイン味の少し溶けかけたアイスを急いで頬張ほおばりながら、気になっていた事を訊ねる。


「岸風は呼び捨てなのか? アイツは幹部クラスなんだろ」


「俺が居た頃のファングには上も下もなかったよ。最低限の縦割りはあったけど、それ以外はすっごくフリーだったワケ。一番上が犬飼氷実。そしてその他大勢って感じ」


 元々は単なるカラーギャングとは聞いてたが、そこまで来るとギャングと呼べるかすら怪しいものだ。もっとも、その頃のファングに関心はない。


「それで、続きは?」


 雲村は「もっと思い出の余韻に浸らせてくれよ」と愚痴を吐き、アイスを更に二本引っ張り、同時に齧り付いた。


「この情報はプライスレスだよ、十成綾我。知ったからには君には、俺の依頼を一つ、無条件で請けてもらう。その条件で呑んでくれるなら」


 十成もパイン味を再び頬張り、無言で頷く。殺人以外ならどんな仕事でも請けてやると腹を括ってこの業界に入ったのだ。況してやそれが自分の過去とも拘るのなら、二の足を踏む暇はない。

 雲村はしたたかな微笑を浮かべて、十成との間に空いた距離を詰める。膝を突き合わせるような距離で、互いの声だけがよく響く。


「それじゃ、ここからはトップシークレットだぜ? 光栄に思いな」


 溶けかけのアイスを食べながら、雲村は物語の続きを語る。

 ファングの盛衰、その一部始終を。


  

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