episode37

 なにやらおかしな事を言う星宮に俺は首を傾げると星宮は得意顔で語りだす。


「えーとね。静希くんが到着する前に喋ってたんだけど、そこで人間態の状態で泣きながら倒れてる鈴森杏さんはエレメントっていう電獣ばっかりが集まった悪の秘密組織の一員なんだけど」

「ふむふむ」

「そのエレメントの一員をぶっ飛ばした事によって敵がこの街に続々やって来ます!」

「あー、売られた喧嘩は買うぜ的な?」

「まぁ、それもあるね。けどそれを抜きにしても連中はこの街を無視出来ないんだよ」

「なんでさ?」


 星宮は俺の前に人差し指を立てた手を突き出す。


「この街には私が居るから」

「ん?星宮が居るからってどういう事だ?」

「んー、簡潔に言うと恨み、かな」

「恨み?」


 なんとも意外な単語が出てきた。


 人から恨まれるなんて星宮にとって一番縁遠そうなのに。


「それでどんな恨みだよ?」

「えーと、実はこの街に引っ越して来る前なんだけど……」

「うん」

「連中があんまりにもしつこくて説明会くらいなら聞いてあげようと足を運んだら……」

「足を運んだら?」

「なんかムカついたからアジトをふっ飛ばして帰っちゃた」

「あー」


 なんとも気の毒な悪の秘密組織エレメントの方々。


 どうせ人の意思を尊重しないような、例えば……『自分達が下等な人類を導く!』

『脆弱な旧人類など抹殺して新世界を作る!』……なんてお題目を懇切丁寧に熱弁なさったのが目に浮かぶ。


 人の自由な反応を見るのが好きな星宮からしたら嫌がらせを通り越して拷問だ。


「それで目の敵にされてると」

「そ!しかもどういう訳か連中私の事を裏切り者とか言うんだよ!?私、その時まだ入るとも言ってないのに!」

「普通の恨みと勘違いの恨み、ね。お気の毒さま」


 しかしこれはある意味朗報だ。

 星宮に恨みを持つ勘違い組織の電獣が星宮を狙ってやって来るという事なら自分には実害なしでそいつら相手に戦えるというものだ。

 

 うっし!とガッツポーズをする。


「他人事みたいに思ってるかもだけど静希くんも恨みの対象だよ?」

「……え、なんで?」

「さっきも説明したでしょう?エレメントの一員をぶっ飛ばしたから。そして彼女をぶっ飛ばしたのはどこの誰?」

「俺、だけど……いやいや、鈴森が喋られなければ問題ない話だろう?」


 被害者である鈴森にはある程度俺への恐怖心を刻んだつもりだ。

 そこをちゃんと刺激して口止めすれば俺はノーマークでいられる筈だ。


 しかしここで俺は認識が甘かった事を思い知らされる。


「たしかに、彼女を脅せば静希くんの情報は漏れる事はなくマークもされない。けどね、名無しちゃんは違うんだよ」

「まぁそうだろうな。今回の事は鈴森が名無しを手に入れるためだったわけだし」

「でしょう?ならそれを踏まえて静希くんに聞くけど、このまま敵がまた来たとして名無しちゃんが連れて行かれるのを黙って見てる?」


 黙って見てるかどうかか……。


 自分の身くらいは自分で守れというのが俺の考えだ。例えどんなに危険で困難な状況だろうと自分の力で切り抜けてこそが人生。


 ーーしかし。


「無理だな。助ける」


 過ぎた感傷なのかもしれないが名無しの人生はお世辞にも幸せと言えず他人によって狂わされ続けてきたと言っていい。


 しかしその呪縛は今日解けたのだ。


「あいつはこれから幸せになるんだ。これまで不幸だった分を取り返せるくらいに」


 そうでないと報われないーー。


「あ」


 星宮の言わんとしている事がわかった。


「そう、君は絶対そうする。だから無関係じゃない。いや、無関係じゃいられない」


 なんでもお見通しという風な星宮。

 

 あまりにも完璧に性格を把握されてなんだか恥ずかしくなり俺は星宮から目を逸らす。


 それから数秒の沈黙、先に口を開いたのは俺だった。


「名無しをこれからどうするんだ」

「どうするって?」

「はぐらかすな。いくら名無しがお人好しで被害者でも電獣に変わりないんだ」


 この街に住む人達に暗示を掛けてまで電獣や死獣の誕生を抑制しようとしていた。

 しかしそれでも生まれてしまった場合どうするかを俺は聞いていない。

 しかし頭のいい星宮だ。どうするか考えていない筈がないのだから。


 最悪のパターンを考慮しそうなった場合どうなるか考え星宮を見る。


「あー、それなら静希くんが想像する様な事にはならないよ。名無しちゃんの場合は意思を尊重するから」

「……そうなのか?」

「うん、私の目から見ても名無しちゃんは力を悪用して何かをするタイプの子じゃない……それに唯一の懸念材料も消えちゃったしね」


 翼の複雑そうな顔に俺は首を傾げると星宮は俺にスマホの画面を見せるので見ると思わず顔が歪む。


「……風磨さんと望月さんからのメールなんだな」

「うん」

「……死んだらいいと思ってたけど実際そうなると複雑だな。守ろうとして名無しを見てただけに」

「そうだね……でも、もしこのまま生きてたとしても結末は想像に難くなかっただろね」


 その言葉に俺は黙って頷くとこの場に名無しがいない理由に合点がいった。


 長年の枷は消えた。

 でもそれで彼女がどうなるかはわからないが一つだけ言える事がある。


 きっと彼女は涙を流すのだろう。


「はぁ……」


 空を見上げると青い空を覆い隠そうと雲が広がっている。


 まるで今の俺の心の様だ。

 雑念まみれでスッキリしない、そんな心。


「本当、不完全燃焼で嫌な終わり方」


 思わずそう口にすると横に立つ星宮は苦笑いを浮かべた。

 

「かもね……でも」

「?」

「得たモノもある」

「そんなのないぞ?」

「あるとも」

「……それは?」

「名無しちゃんの自由な未来」

「ーー」


 星宮の言葉に面くらい目を丸くすると星宮はニヤニヤ笑う。


「どう?得たものとしては良くない?」

「……そう、だな……ああ、そう思うと得たものは確かにあるし悪くないかな」


 人一人の未来を守った実感なんててんで湧かない。

 しかし多少なりとも名無しのこの先の未来を良い道に乗せる事が出来たと思うとほんの僅かだが雲は晴れた気がした。


「ーーあ」


 不意に脳裏に過ったのは星宮と最初の出会い。何かに追われているから助けてほしいと言う彼女を漫画の様な展開で面白そうと思ったこと。


 はは、知らず知らずのうちに漫画みたいな事してたんだな俺。


「ヒーローごっこもまぁ、悪くないのかもな」


 かくして事件は終幕を迎え俺と星宮は帰路につくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電獣オーバーライド 有希 @yuukizzz386

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ