episode36
静希くんの姿が消えた。
まぁクイズと言ってたし簡単に当てさせない工夫のつもりなのだろう。
でもそれになんの意味があるのだろう?
遮蔽物なんて一つもないひらけたこの屋上でゆっくり近づくから何処から来るか当てろなんて外す筈ない。
つまりは私を見逃してくれる気なのだ。
ふふ、なんやかんや化け物だってビビってたけど彼も真と変わらない甘ちゃんということだ。
そうとわかると次の作戦を練る。
どうやって星宮翼に気取られず静希くんや真を捕まえられるか。どうやってエレメントで成り上がるかを。
「はは、なんだか楽しくなってきたなーーん?」
背後で硬い何かが地面を踏む音がする。
はは〜、もう来たんだ。
でももまぁ、長引かせてしかたないしタイミングとしてこんなとだよね。
背後を振り向く。
「はい!私の勝ちーーあれ?」
振り返ると静希くんの姿はない。
「さっきまでは確かに居たとーー!」
また背後で音がした。
しかし今度は続けて歩いて来る音がする。
「なるほど。近づく時は歩きだけど別の場所に移動する時はそのルール外ってことか」
静希くんの驚異的なスピードなら私が振り返る前に別の場所に移動する事など訳はない。
少し勘違いしていた。
静希くんは少しこのゲームを難しめに設定していたんだ。
でも結局のところ難易度がイージーからノーマルになった程度でしかない。
「わかってるの静希くん。いくら私の視線から逃れても私がその気になれば位置を捉えられるってことを!」
足元に落ちている瓦礫を掴んで砕くと自身の周囲に砕いた破片をばらまく
「アイテムを拾って使うのはなしなんて言ってなかったよね?」
これで私はわざわざ音のした方を確認しなくていい。位置は私がまいた瓦礫の破片達が教えてくれる。
「さーて、私の勝ちはこれで絶対!ごめんね静希くん!最後は勝たせてくれる気だっただろうにこんな手を使っちゃって!」
返事はない。
もしかして拗ねたのだろうか?
だったら私としては嬉しい限りだ。
彼には散々おっかない目に遭わされたんだしこの位の意趣返しはしておきたい。
「ふぅー……ん?」
いつの間にか正面に静希くんの姿がありゆっくりと私に近づいて来る。
「んー?あはは!ちょっと、なにそれ!幾らなんでもそれは拗ねすぎでしょう!わざわざ正面からくるなんてさ!」
静希くんの反応がありまにも面白くてひとしきり笑うと私は目の前から向かって来る静希くんの方に向き直る。
ーーその時だった。
「ん?」
左の方から破片を踏み砕く音がした。
視線を左に向けるとそこに歩いて来る静希くんの姿があった。
「はは、あんまり私が笑うから正面から来るのやめたーーあれ?」
正面の方に向けた右耳がある音を拾う。
破片が砕ける音?どうして正面の方から?
左から正面に向き直るとそこにはゆっくりと近づく静希くんの姿が確かにある。
また移動したのかと思った。
しかしそれは違うと知らせるように私の左耳は左で鳴り続ける足音を捉え続けていた。
「二つの方向から同時に?そんな、まさかいくらなんでもそんな芸当がーー」
今度は右の方から足音がした。
左に足音を残し正面にその姿を残して。
「三、方向ーー!?」
今度は背後から音がした。
私は慌てて自身の周りをぐるりと確認する。すると前後左右、四方向から足音をたてながら近づいて来る彼の姿があった。
ここで私はようやく気づいた。
初めから見逃す気なんてなかったのだ。
悟った瞬間心が折れた。
手足の力が抜けて膝をつきそうになる。
しかし倒れる事は出来ない。
「………………………ほんと、ありえない光景」
膝をついたところでなにも変わらないととり囲む
絶望は此処に。
増えた一騎当千の化け物によって叫び声すらあげられず身と心は無数の拳によって粉々に砕かれたのであった。
〜〜〜〜〜
初めての電獣、しかもフェーズ2同士の戦い。最初はどうなる事かと思ったが終わってみればなんとも呆気ないものだった。
「イライラして何かをするとこれだ……残るのは不完全燃焼みたいな気持ち悪さばかり……」
スリルを楽しんでその先にあるものまで望んだ報いだろうか。二頭を追うもの一頭も得ずとはよく言ったものだ。
「はぁ、次の機会はいつになるやら……」
「そんなに遠くにはならないと思うけど?」
地面の上に座り込んで呟いていると翼が俺の前にやって来た。
「いやはや、恐れ入ったよ。超高速移動によって出来た残像、俗に言う影分身を使って心をへし折るなんてね」
「大した芸当じゃない。というかよくもまぁこんな所まで来たな」
1階から3階までなら問題ないだろうがそれより上は全て俺が天井を壊した時の影響で結構酷い状態になっていた。
足元はグラグラで階段は段飛ばしでなくなっているような感じで。
「まぁ普通の人間なら無理だろうけど私達電獣には大した問題じゃないでしょう?」
「そうだけども……それでも危ない事には違いないだろう」
確かに電獣なら人間態の状態でも楽々だ。
しかしだからと言って怪我をしない訳じゃなく瓦礫が降って来て直撃したり足元が崩れて落ちたりしたら十分死ぬ可能性はある。
という意味で言ったつもりなのだが星宮は何故かニヤニヤしている。
「なんでそこで笑うんだよ」
「いや〜、なんか静希くんが優しさが嬉しくて、ついね」
「はぁ……残念、優しくない。ただ自分で壊した所で誰か怪我をしたら目覚めが悪いだけだよ」
「ふーん。あ、それはそれとしてだけど」
「?」
「口調、戻ってるよ」
「………………………あ」
「あはは!やっぱり気づいてなかった!彼女を追っかけて怒らせた辺りから口調が昔みたいになってたから気になってたんだ!」
「はぁー……気づかなかった」
ある意味今日1ショックだ。
まさか口調が戻っていたなんて。
しかも誰かに笑って指摘されるなんて恥ずかし過ぎる。
「どうしてあんなチンピラくさい口調してたの?」
「……高校でなめられたくなかったから」
「はい嘘!どうせその喋り方で絡んできた人達と喧嘩でもしてスリル最高!とかやろうと思ってたんでしょう?」
「なんで分かるんだよ!?」
「それは、君が私の性格を知ってるんだから私だって知っててもおかしくないでしょう?」
「うー、ま、まぁ、たしかに……」
「あ、それとこの際だし口調もどしたら?そっちの方が落ち着くでしょう。お互いに」
反論する理由もなく黙って頷く。
すると星宮は含みのある笑みをしながら言った。
「そうそう自然体が一番!それに、そんな無理しなくてもこの街にまた敵が来るだろうから十分楽しめるよ!」
「ふーん………………………いまなんて?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます