episode29
「三匹!?しかも知らない電獣がいる!?」
鈴森の動揺した声が耳に届く。
俺の存在は余程予想外だったのだろうな。
しかし、ビルの中に突撃させる前に地上に落としてしまうつもりだったのに会話を聞くのに気が散ってタイミングをミスってしまった。
ビルの一室に入り乱れて突撃した俺は二匹から離れると直ぐに部屋中の飛び散っている惨状後が目に入り胸糞悪くなる。
「や、お疲れ静希くん」
俺に歩み寄るなり首に腕を絡めて抱きつく星宮。
「よっ、そっちは無事みたいだな星宮に望月さん」
「まぁね」
「あ、ああ。でもどうして此処に?貴方は確か銭湯に居た筈じゃ……」
「当然の疑問だよな。でも俺から言わせたらあんたらの方こそどうして敵の本丸に居るって話なんだけどな」
「そ、それは……」
望月さんは露骨に困った様子で黙ってしまい、俺ーーに抱きつく星宮に視線を向けていた。
まぁそうだろうよ。
星宮の性格を考えると周りが何を言おうといつまでも黙って見てる筈もない。
「意地の悪い言い方をしました。そっちの事情はまぁ……おおよそこいつが原因だと把握してます」
早く離れろと意味合いを込めて星宮の頭を尻尾で軽く叩く。
だが星宮片手で俺の尻尾を掴み頰を擦り付ける。
「酷いな〜まるで私が全部悪いみたいに言って〜」
「こら!人の毛並みでうっとりしてんじゃねぇよ!それに今そういう事する状況でもねぇだろうが!」
星宮はちぇっと言って渋々俺から手を離す。
「それでどの程度今の状況は把握してるの?」
「此処に来る道中聞こえたお前らの会話でざっくりとだが黒幕は鈴木で佐々部は餌。狙いは名無しってところまで」
「100点。それで君と一緒に入り乱れた来た二匹は……」
「ああ、一匹は見た通り死獣でもう一人はーー」
食い合う様に争う死獣ともう一匹の電獣。それはいつぞやの狐でありその正体はーー。
「名無し……っ」
「だよね……で、どうしたの名無しちゃんは?この前とは随分様子が違うようだけど」
翼の言葉通り今の狐は以前とは大分違う。
名無し本来の気弱さなど微塵もなく文字通り獣そのものだ。
「俺のせいだ。俺があの時、死獣に襲撃された車に迂闊に近づいて……」
人間態の時に死獣の動きに反応しきれなかった。肩を抉られた俺の姿を見た直後、名無しは絶叫し獣化態した。
おそらく名無しの怒りや悲しみが獣としての防衛本能と過剰反応し結果人としての意識が飲まれてしまったんだ。
「なるほど。なら解決方法は簡単だね」
「どうしたらいい?」
「彼女が死獣を倒すまで待てばいい。彼女が排除しようとしているのは死獣だからね」
「ならーー」
「でも、状況はそう悠長に待ってくれないみたい」
言葉の意味を問う必要はなかった。
何故ならさっきまで動揺していた鈴森はすっかり落ち着き俺達の前で獣化したからだ。
「なるほど鈴森も電獣だったのか」
灰色の装甲に犬のような顔。
だが特徴的な尻尾でそうでない事が容易に判別する事が出来る。
「狸の電獣か」
種族的に別段優れた訳じゃない。
だが元の人間次第でそれはアリから恐竜かと思うほどの変化を見せる。
油断は出来ない。
「ふーん、狸が狐を狙うか」
つまらなそうに呟く翼。
声が聞こえていたのか獣化した鈴木は反応する。
「何か問題でも?」
「いいや、ただ狐と狸なら化かし合いがお似合いなのにと思っただけだよ」
「ある意味そうだったとおもうよ?だって私が陸を操ってたなんて香川真は知らないんだから」
そう言って鈴森は暴れる名無しを馬鹿にするように一瞥する。
名無しが我を忘れている事を見抜いているか。まぁ嘘でも仲の良い幼馴染を演じてたんだから違いがわかって当然といえば当然。
となるとやっぱり星宮の言う通り悠長に待ってる暇はないな。
名無しの位置は丁度俺達との間。
鈴森が先に名無しを捕まえてどうにかする前になんとかしないとな。
と、それはそれとしてだ。
「星宮。悪いけどあそこで腰抜かしてるごろつき達を部屋の外……いや、この建物の中にいる人間を全員外へやってくれ」
「それはいいけどどうして?」
「……負ける気はさらさらないけど初めての電獣相手の戦いだからな。周囲に余計なモノがない方が気が楽だから」
「ふーん、まぁそれはそうだね。で?」
「ん?なんだよ、でって?」
「で?それだけじゃないんでしょう?」
まるで全て見透かした様に笑う翼。
まったくこいつは心眼か読心術でも使えるのではないだろうか。
「まったく、こんな状況で言うのは流石に不謹慎と思って黙ってたのに……」
表情の分かる人間態ならバレていただろう。この高鳴る鼓動に引きずられる様に口が吊り上がって。
「この極上のスリルを存分に味わいたい。骨の髄……いや、魂の髄まで!」
自分でも狂っていると思うこの気持ち。
良識のある者ならドン引きものだ。
だが翼はそんな俺を
「いいよ。私の趣味がそうである様に静希くんも存分に楽しめばいい。ただしやる事はやってね」
「はは、理解のある相方がいるってのは悪くないもんだな」
「ふふ、まったく同意見だよ」
そんな心温まるやりとりをしていると肉を貪っていた死獣が空気を読まず俺に向かって飛びかかる。
明からさまな揺動。
こいつの足止めで出来た隙を使って名無しを奇襲して連れて行くつもりだな。
数の利を活かした正攻法ではあるが。
それが通用するのは素人か手の遅い奴だけだ。
「ーーな!?」
飛びかかる死獣に向かう形でカウンターを決めて瞬殺するとそのまま鈴森に向かう。
すると鈴森は名無しに向かおうとした足を止めて驚きの声を漏らした。
「いくぞおらぁ!!」
鈴森にタックルを決めると俺達はそのまま壁を破り横の部屋へ。
しかし勢いは止まらずさらにその奥通路にまで出て外壁までを破ろうとする。
「ぐっ!はっ、なせ!」
鈴森は体を捻るとすんでのところで俺のタックルから外れ間合いをとる。
「ふぅー、まさかこんな電獣が彼女の仲間になってたなんて知らなかったよ」
「……」
「ねぇ、提案なんだけど。君、私達の仲間にならない?」
「……」
「君の力は今のやりとりで大体理解した。君は強い。私が今まで見た電獣の中では10の指に入る位に」
「……」
「でも今の君じゃ私には絶対勝てない。このまま続けるとただの犬死にだよ。そんなの嫌でしょう?だからーー」
地面を蹴り間合いを詰める。
そして振り上げた前足で余裕をこいて反応の遅い鈴森の頭を地面に叩きつける。
「ぐっ、なんて速度!私が一瞬見失うなんて……!」
鈴森は倒れた体をすぐさま起こし反撃に出るが俺はそれを後ろに飛ぶ形で回避する。
「……本当に俺を殺せる実力があるのなら、見せてくれよ……でないと……」
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りないーー全然足りない!
「この昂りが消えちまうだろうが!?」
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