episode21
目の前の状況がまるで分からない。
どうして佐々部達にあの男達はペコペコを頭を下げる?しかも親しげに一切の抵抗なく、まるでそれが当たり前であるかの様に。
そして何より分からないのはどうして友人である佐々部や鈴森が来たのに香川の顔がより一層恐怖の色か濃くなっているのかだ。
「どうもきな臭くなってきたな……」
何も分からないし実にきな臭い状況ではある……だが今はまだ様子を見ることにする。
香川の恐怖と佐々部と男達の関係がもしかしたら分かるかもしれない。
「ーーさて、悪いが道を開けてくれるか?」
「分かりましたーーおい!お前ら!佐々部さんが通るから道開けろ!」
香川を取り囲む男達がまるで自動ドアの様に別れ佐々部の前に道を作る。
そして佐々部はその出来た道、香川へと続く道を真っ直ぐと歩いて行く。
「さて、会うのは二日ぶりだな。真ーーの偽物、名無しちゃん」
「っ……」
「何も言わずに急に病院から姿を消すから俺も杏も心配したんだぞ?病院にいる間も学校にいる間も心配で心配で……」
「う、うそは、やめてください……そんなこと、微塵も思ってない、くせに」
「嘘じゃない。本当に心配したんだ。なにしろお前には、真とお前らのあのクソ親父のした借金を返してもらわないといけないからな」
「っ、か、返させる気なんて、最初からないくせに……!」
「ふん」
悔しそうに歯を食いしばる香川を笑う佐々部。2人を見て自分達が仲の良い友人だと平然と俺に説明した輩、ただ黙って立っているだけの鈴森を見る。
「それにしても分からないな。名無しちゃん……君、どうしてまだあんなクソ親父や真のした借金なんて律儀に返そうとするの?バイトの掛け持ちなんかまでしてさ」
「そ、それは、私が、自由になるため、です」
「自由ね……なら君にとってあのコンビニの爆発で父親はまだ生きていたのはさぞかし残念だったろう?折角こっちで手を回してやったのに悪運の強い。同情するよ」
「っ……!」
香川は馬鹿にする様に話す佐々部を睨みつける。
「さて、そろそろ茶番はお終いにして君を連れて行かせてもろう。でないとこっちの身も危ないんでね」
佐々部はそう言って右手を上げると後ろに控えていた男達が縄を手に香川へと近づく。
香川は逃げようとするが両サイドを男達に塞がれ逃げ道が完全にない。
さて、もういいか。
懐から導火線の付いたビー玉位の球体を取り出すと火をつけて香川達の方に放り投げる。
「あ、なんか飛んでーー」
「うわぁ!?誰かが爆弾投げやがったぞ!?逃げろぉ!?」
香川を縛ろうとしていた男がそれを見て反応したのを見逃さず俺は姿を出さず叫ぶ。
すると佐々部や鈴森、それにガラの悪い連中全員が良い具合に自分達の足元に落ちたそれを見て慌ててその場から逃げ出す。
残された香川はパニックになったのか動けずにいた。
なんとも好都合だ。
投げた球体の導火線が消えると球体は煙を噴き出す。
「な、なんだこれ!?」
「煙玉だと!?一体誰が!?」
はい!俺です!俺です!なんて自己主張するわけねぇだろうがーーと、いい感じに煙が広がったな。
視界の殆どが煙に包まれ見えなくなったのを確認すると俺は香川のいる方に突っ込む。
電獣になった影響か俺の五感は普通の人に比べて大変性能が良くなっている。なので視界が煙に覆われようとも匂いで香川を見つける事など容易い。
「立てるかる?」
「え?あ、あなたは、たしか……」
「今は俺が誰かなんてどうでもいい。立てるか立てないかだけ答えてくれ」
あくまで五感の有利なんて多少だ。
相手がその気になって手探りでもしてここに来ればそれで簡単に見つかってしまい逃げられなくなる。何事も速さが大事だ。
「た、立てないです」
「OK、なら悪いが少しの間我慢してくれよ」
「えーーちょっ!?」
香川を担ぎ上げると走り出す。
香川本人は恥ずかしいからかジタバタしているが俺個人としては香川が予想以上に軽いので全く気にならない。
とはいえ、軽すぎるな。香川の身長が160センチくらいあるのに重さは30もないんじゃないのか……。
肩から伝わる重さを感じる度に言いようの無い気持ちが胸に広がる。
「ーーと、そろそろ路地を出るな。悪いけど安全な場所まで逃げるまで騒がないでくれよ!通行人に見られたら人攫いだと思われるから!」
「そ、そんなこと言われても!?」
「まぁ、大船に乗ったつもりでいてくれ!これでもヤバい奴に追いかけ回されて捕まった事はないから!」
「不安になる事を言わないでください!?」
騒ぐ香川を担ぎ路地を出る。
すると幸いな事に人の姿はなく全速力で一先ず安全な場所へと向かう。
さて人はこれで振り切れるだろうけど敵に電獣がいるなら問題はこの後だな。
まずやり合う事になるし一応星宮に連絡だけして意見を聞いておくか。
〜〜〜〜〜
銀が香川を連れて走り去り、佐々部や男達も消えた後、物陰から何があったかを監視していた弥勒はやれやれといった具合にため息を吐く。
「まったく、静希さんは中々に予想外の動きをしますね」
弥勒は銀が自分と同じくあのまま現場を静観し敵のアジトを探るつもりなのだと思っていた。
しかし実際に蓋を開けてみれば銀は事前に自分の渡した煙幕を使って香川を連れて逃走。
ロマンスを味わうとか主人公気質というわけでもないだろうに。
「しかし状況が動いた。しかもこうも早いとは、やはり香川真が彼等の前から姿を消したからと見るのが妥当か」
病院で彼等3人が入院してる間、弥勒はずっと監視していた。
しかし事件の犯人と思える現場を見れなかった。
監視カメラを警戒してか或いは弥勒の様に隠れて監視している者がいると感じとっていたからかなのかは不明だが。
「まぁ、それを今更気にしても仕方ない。問題はこの後私達はどうするかですね」
スマホを操作しメールを送る。
数秒後、返信が来る。
それを見た弥勒は不思議そうに首を傾げる。
「この状況であの御仁を監視しろと?やれやれお嬢様の考えはいつもながら凡人には理解が難しい」
と、言いつつ弥勒は理解を放棄しようとはしない。
今はまだ無理でもいつの日にか主人の考えを言われるまでもなく理解できる様になる事、それこそが忠臣のあるべき姿だと考えているからだ。
「さて、そうと決まれば行きましょうか」
静かに早く、弥勒は監視対象のもとへと向かう。
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