episode18

 さっきまで人気のあった店内が気がつけば居るのは俺達三人で気温は大して低くなかった筈なのに今は肌寒く感じる。

 

 その理由は気のせいか。

 ただ人気が急に無くなったからなのか。

 はたまた俺の横に座り体を震えさせている香川真が原因なのか。

 もしくは、星宮の底知れない何かを感じてなのかもしれない。


「う〜ん、メイプルシロップも良いけどハチミツの方がやっぱり美味しいよねぇ〜」


 美味しそうにホットケーキを頬張る星宮。


「うん、やっぱり気のせいかな」

「え、なにが?」

「気にするな気にするな。ただの独り言だから」

「そう?」


 再びホットケーキを頬張る星宮の顔は年相応というのだろうか、とても幸せそうだった。 


 そしてある程度食べ終えると星宮はフォークをテーブルに置きその赤い視線が香川に突き刺さる。


「さて香川真ちゃん。単刀直入に聞くけど君は、あのコンビニ爆発事件の犯人なのかな」

 

 本当に単刀直入だな。


 それに余計なものはいらない。

 欲しいのはシンプルな答え。

 ただそれのみという意志を言葉からビリビリ感じる。


「わ、私は犯人じゃ、ありません」


 震えが横に座る俺にまで伝わりそうな程怯えながら答える香川。

 しかし質問は終わらず星宮は続けて質問する。


「ふむふむ、なるほど。じゃあ次の質問だけど……誰が犯人なのかな」

「……しりません」


 犯人は知らないか。

 まぁ知ってたら警察にとっとと言ってるし犯人が自分だったりしたら正直に言うはずもない。


「親友の二人が爆発に巻き込まれた時どう思った?」

「は?」

「……ただ、助かって……よかったとしか……」

「そう……鈴森さんと佐々部くんとは仲はいいの?最近ずっと会ってないって聞いたけど」

「……会う、理由が……なかったので」

「ご家族は心配してない?ご兄弟に母親。それに父親とか」

「……母に、兄弟は……居ません。父は……入院中……です、ので」


 なんなんだこの質問は?


 犯人について聞いていた筈なのに関係ないものに変わっている。この質問にいったいなんの意味があるのか俺には理解できない。


 横に座る香川真の顔色が悪くなっていく理由も。


「ーーさて!一通り聞きたい事は聞けたね」

「え、これで終わりなのか?」

「そうだよ。あれ?静希くんは何か聞きたい事とかあった?」

「え、いや……」


 あるには、あるのだが……。

 実際それを聞くのはかなりリスキーで確証がないのに聞く事は出来ない。


 あなたは電獣ですか?なんて質問。


 だがここで何も聞かないのは勿体ない気もするし、ここは……。


「あー……香川ってなんで男装してるんだ?」

「っ!?」

「ぷっ!」


 顔を真っ赤に香川に何が面白かったのか腹を抱える星宮。


 俺なんかおかしな事を言ったか?


「っ、っ、流石だね静希くん。私が思いもしなかった事を聞くんだから」

「い、いや、いやいや、普通気になるだろう?どこに出ても恥ずかしくない美人が男装してるんだから」

「っ〜〜!?」

「あはははは!辱めてから上げるなんて中々のタラシだね!静希くん!」

「……何一つ理解できねぇよ」


 そうこうする内顔を真っ赤にした香川が立ち上がり厨房の方へ姿を消した。

 

 その後、俺と星宮もこれ以上は待っても香川が戻って来ないと判断して代金を置いて店を後にした。


「それで、色々聞きたい事はあるけれども、あの反応はなんなんだよ?」

「なにが?」

「とぼけんな。俺が質問した途端お前らおかしな反応したじゃねぇか」

「あぁ、それね。なに、難しい話じゃないよ」


 お前には難しくなくても俺には理解不能は難しい話なんだな……。


 なんて俺の心で思っている事を馬鹿にするようにニヤニヤ笑いながら星宮は言う。


「まず香川真ちゃんが顔を赤くしたのはね。自分がやっている事が恥ずかしい事だと再認識させられたからなんだよ」

「どういう事だ?」

「要は本人は男装なんて恥ずかしい事をしたくない。でも事情があって必死に自分を納得させて男装していたーーでも!あの場面で君がなんの意図もなくあんな事を言っちゃうもんだから羞恥心を押させられなくなった。おわかり?」

「い、一応……」


 まさかそういう意味の反応だったのか……いやぁ、だとしたら俺がやったのって傷口に塩なんて生易しい行為じゃなくて針で突く位に酷いな。


 香川に本気で申し訳なくなり後日謝りに行こうと俺は思った。


「それで次に私の反応の意味だけどね」


 むぅ、今の話の流れだと星宮の反応意味だけはろくでもない様な気がする。


「単に君の質問のチョイスと香川真ちゃんの気持ちを考えたら面白かったから!」

「マジでろくでもねぇな……」


 予想は大当たりで俺は午前中学校で口を滑らした星宮は性格は良くないという言葉は間違いじゃないと実感し、ついため息を吐く。


「それで色々聞きたいことって後いくつあるの?」

「……2つ」

「うんうん、じゃあ2つ目どうぞ」


 2つ目は、会話の順番的に考えるとあれがいいか。


「いったいどんな手品を使ったんだ。急に店の中から人を消すなんて」

 

 あれはある意味先程の反応の意味の解より謎だ。星宮が事前に何かを仕掛けていたとも考えられないしそんな素振りもなかった。

 店の中の人間が全員自然に店の中から消えた。


 これは異常だ。

 偶然なんて言葉じゃ片付ける事はできない。何が種がある筈だ。


「どうなんだ」


 そんな俺の質問に星宮は不思議そうに首を傾げた。


「あれ?私、静希くんに私のフェーズ3について教えてなかったけ?」

「いや聞いて……まて」


 どうにもいま聞き逃せないことを言った様な気がするけど、聞き間違いか?

 

 俺は星宮に恐る恐る尋ねる。


「今、フェーズ3って言ったか?」

「言ったよ?」

「…………はぁーーーーー」

「ため息長いね」

「そりゃあ長くもなるわ」


 どうや聞き間違いじゃなかったようだ。


 俺達、電獣には三段階進化が存在する。

 まず第一段階。


『フェーズ1』

 人間に前世の魂を上書きし鋼の装甲の獣。電獣へとなった段階。

『フェーズ2』

 電獣の中から素質のある者しか到達出来ない。ある意味、真の進化した人類と呼べる段階。

『フェーズ3』

 フェーズ2に到達した者の名から限られた者しか発現したない特殊な能力を得た段階。


 とまぁ、こんなところだが……まさかもうフェーズ3に至っているとは。流石は最強のコウモリ静寂といったところなのだろう。


「で、そのフェーズ3がなんなんだ?」

「うん、私のフェーズ3の能力の一端と言えばいいのかな。まぁ、それを使ってこの街の人間に暗示を掛けて私の思うように操っているんだよ」

「……今なんて?」

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