episode17

 病院での狐の電獣と遭遇と成り損ないとの戦闘から翌々日、俺の教室は何やら騒がしかった。


 クラスメートと交流をする気がない俺が人に喋りかけて事情を聞く様な事をする気もなくこっそり聞き耳をたてると聞こえてきて内容はこうだ。


 最近休んでいた隣のクラスの人間が二人登校してきた。

 休んでた理由をクラスメート達が好奇心から根掘り葉掘り聞いたところなにやら事件に巻き込まれてしばらく病院で治療など事情聴取を受けていたと二人は答えてしまったそうだ。

 すると物珍しさからか瞬く間に話があっちにこっちに広がり今の騒がしい状態になったというわけだ。


 まったく、他人事だからって面白がってからに。大変だったなと心配するならまだいいものを、人の心とかないのか?鈴森と佐々部も気の毒に。


 と、そんな事を思っている不意に思った。


「……そういえば」

「なにがそういえばなの?」

「なんで急に現れんだよ星宮」


 何処からともなく現れた星宮にそう言うと不思議そうに首を傾げる。


「隣の席でクラスメートだからだけど?」

「そうでした……」

「で、どうしたの?」

「ん?あぁ、あの席の奴って誰だったか覚えてないけど全然来てないなって思ってーーどうした?そんな驚いた顔して」


 今のちょっとした会話で何を驚いたのだろうか。もしかして俺はなにな変な事を言ったのだろうか?


「いや、静希くんって他人に興味を示さないタイプだと思ってたから、ちょっと意外で」

「失礼だな。俺だって人に興味を持つ時くらいあるさ」


 稀にだけど。


「ふーん、入学式の日にこんな可愛いくて性格の良い女の子が隣の席になったのに興味を示さなかった人がよく言うよ」


 自分で言うか。

 でも確かに美少女である点は間違いじゃない。間違いじゃないのだが……入学式後の強引さを思うとどうも……。


「性格はそんなに良くないんだよな」


 正直に思った事を口にする。

 すると星宮は俺の頬に手を添えてゆっくり顔を近づけて囁くーー怒気を漂わせて。


「おや〜何か失礼な事を言われた様な気がするなぁ?もう一度、言ってくれる?」


 そう言われた途端脳裏にビーストライフ時代の記憶。つい怒らせて粘着されたうえ丸一日殺された続けた恐ろしい思い出がフラッシュバックした。


「ーー間違いました。人に理由を告げずに死地へ誘い込む性格悪い女じゃなくて、無知な子羊に一早く救いの手を差し伸べてくれるマザーテレサもびっくりな性格の良い女でした」

「そこまで言えとは言ってないんだけど……」

「じゃあマザーグース?」

「うん、ちょっとマザーから離れようか」

「じゃあプリンスカメハメ?」

「キン◯マンの師匠でもないよ」


 やれやれあれを言ってもこれを言ってもダメとはなら俺は何を言えばいいというのだろうか。


「はぁ、やっぱり人との会話は難しいな」

「というよりも、静希くんは会話が下手くそかな」

「え、そうなのか?」

「自覚ないんだ……」


 会話に上手い下手があるのかよく分からない。でもまぁ、星宮の苦笑いを見るにそうなのかもしれないし一応覚えとこう。


「で、あの席の人の話だったけ……静希くん、もしかて気づいてないの?」

「え、何が?」

「……はぁ」


 ため息の後に顔を遠ざけるとポツリと呟く。


「香川真」

「香川、真……ん?それってたしか……」

「そう、香川真は静希くんが会いに行った事件関係者の軽傷ですんだ三人の内の一人」


 思わぬ名前が突然出てきたな。

 今それが何の関係があるのだろうか?


 すると首を傾げる俺を見て苦笑いしながら星宮は言う。


「香川真は私達のクラスメートなんだよ」


〜〜〜〜〜


 放課後、俺と星宮はある喫茶店にやって来ていた。


「さーてと、なに頼もうかな。カプチーノもいいしキャラメルラテも捨てがたいなぁ……」

「俺は普通のコーヒーでいいや」

「折角来たんだからもう一個くらい頼んだら?」

「たとえば?」

「超ジョッキパフェ」

「胃がもたれるから却下」

「えー頼もうよ〜……じゃあ、生クリームの山パンケーキは?あ、産地直送砂糖黍!驚きの10束セット!とかもあるよ!」

「胃がもたれるどころか溶けるわ!?てか最後のに至っては原料じゃねぇか!?」


 無駄に超量が多く甘いものばかりを薦める星宮。女子というのは全員量が多い甘い物が好きなのだらうか。


 星宮のオススメを断り続けていると店員が注文を取りにやってきた。


「ご注文はお決まりですか?」

「あ、はい!私はキャラメルラテと蜂蜜まみれのホットケーキ!」


 うっげぇ、名前だけで胃がもたれそうなのをよくもまぁ。それに店員の驚いてる顔を見るに頼む客少ないんだろうな。

 

 チラリと見た店員が驚きのあまり口が半開きになっていた。


「……あ、ええと、そちらのお客様は?」

「俺はコーヒーで」


 星宮が不満ありげに頬を膨らませているが無視だ。


 その後注文した品を持って店員が戻って来る。


「ではご注文は以上でーー」

「あ!そうそう大事なことを忘れてた」

「星宮?」


 わざとらしく店員の言葉を遮った星宮。

 

「実は店員さんに聞きたい事があるんですよ」

「私に、ですか?」

「ええ、店員さんに。いや、この場合はあなた個人にと言えばいいのかな」


 星宮は席から立ち上がると店員の前に立つ。


「私は星宮翼。初めましてだねーーあ、それと退院おめでとう。香川真さん」

「香川真!?こいつが!?」


 俺は星宮の言葉に促され、店員を見て自分の目を疑った。


「まぁ、驚くよね。私も調べた時は少し驚いたし」

「い、いや、でも流石にこれは……」


 香川真。

 鈴木と佐々部の友人で俺や星宮と同じクラスの生徒で性別は男。


 しかし今俺達の前にいる香川真は……。


女の子・・・なのにまさか公に男だと偽ってたなんてね。驚きだよ」


 長い黒髪で片目を隠しフリフリの女性店員専用の制服を着ているその姿は紛う事なき女だ。

 因みに女装という線もあるのではと思ったがそれは直ぐに星宮に否定された。


 すると俺と星宮の話を黙って聞いていた香川真が怯えた様子で口を開いた。


「……ひ、人違いです。私は、香川真なんていう名前じゃなくて……か……かとうです」

「あー、そういう嘘はいいよ?もう全部知った上で私は君の前に立ってるんだから」

「う、嘘なんかじゃ、ないです……あ、あんまり変な事を、言うなら、ひ、人を呼びます」

「無理だよ?君がいくら騒いても誰も来ないし気にしない。というか、今この店に居るのは私達三人だけ・・・・・だよ」

「「!?」」


 その言葉に驚いたのは香川だけじゃなくて俺もだった。

 席を立ち上がり店の中を見まわすと本当に店の中は誰もおらず気配もない。


 椅子に腰掛けた星宮は香川に座れと手で促す。


「さぁ、折角君の分のキャラメルラテを頼んだんだからさ楽しくお喋りしようか。香川、真ちゃん」

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