episode14

 二人からコンビニで起きた出来事を聞くにこうだ。


 まず鈴森杏と佐々部陸の二人がコンビニ訪れた理由はそこで働いている友人に会うため。因みにその友人とやらが二人と同じ病室で眠り続けている男、香川真かがわ まことだ。


 三人は小学校からの長い付き合いで共に高校生活を送れる事を楽しみにしてた。

 しかし突然香川が学校を休みがちになりバイト三昧。理由が分からず心配した二人は香川の元へ何があったかを問い詰めに行ったのだが、会話の途中突如コンビニ内は物凄い光と音に包まれ三人は気を失った。


「なんともまぁ、災難だったな」


 友人を心配して訪れた先で爆発事件とは良いことが起きてもいい筈がまるでバチが当たるみたいな話、笑い話にもならい。


「あ、あはは……でもまぁ、命があるだけでめっけもんだよ」

「だよな。その証拠じゃないけど俺達は無傷で奥で品出ししてたおっさん達は重傷だしな」


 うん?重傷者の二人は一緒に品出し?

 警察の話では一人は無職のおっさんって話だったけど……ま、いいか。この三人と同じ様に友人か何かだろう。


「さて、大体話は聞けたしもう帰るわ」

「え?もう帰るの?もうちょっとゆっくりしていきなよ」

「残念だけどそういう訳もいかないんだ。ほら、もう20分以上喋ってる」


 病室の時計を指差してそう言うと鈴森は諦めたのかしょぼくれ佐々部は優しく彼女の背中を叩く。


「そんな顔をするなよ杏。そんな顔してたら静希が困るだろう?」

「でも……」

「退院したら学校で会えるだろう?その時までゆっくり話すのはお預けってしとこうぜ」

「……うん」


 さっすが幼馴染、扱いが上手いな。

 とは言えその願いが叶うかは微妙だ。

 だって俺自身会話がそんな好きじゃないし学校ではひっそりと過ごす陰キャだ。早々見つかりはしないだろうし。


「じゃあ、二人ともお大事に」

「うん!またね静希くん!」

「次会う時はあのふて寝してるバカと一緒に会いに行くよ!」


 二人に見送られ病室を後にした。

 それからしばらく廊下を歩くと俺はふと思った。


「そういえば病室って男女一緒で問題なかったんだけ?」


 よくよく考えたら男と女が同じ病室なんてあんまり聞かない話だ。

 男女の違いで不便は勿論、万が一の場合間違いが起きてもおかしくない訳だが……。


「……ま、いいか、なるようになれ。それもまぁ青春の醍醐味なんだろうし」


 さて、この後だがどうしたものか。

 出来れば残りの二人の話も聞きたいところだが、集中治療室にいるし面会なんて以ての外だ。 


「ふぅ……進展はしないし今日は帰るか」


 その後俺は受付に面会終了を伝え病院の外に出る。すると外はほんのり薄暗く夕方は終わりかけていた。


「おー、雲はないし綺麗な星空が見えそうだ。帰ったら熱い茶でも飲みながら楽しむかな」


 そうと決まればだ。

 とっとと帰ろうと駆け足気味で病院の敷地から外へ出ようとした時だった。 

  

 ある気配を感じ足を止める。


「この気配、死獣か」


 気配のする背後を振り返り目を凝らす。


「あれか……」


 病院の屋上で何やらうろうろする死獣の姿が見えた。

  

 狙いは病院の中か。

 てことはやっぱり……いや、それは後だ。今はヤツが病院の中に侵入するのを急いで阻止しないと余計な被害が出るな。


「とはいえ、わざわざご足労願ったんだ。はりきっていってみるか!」


 念じる。


 体の全てを一度バラバラに、原始レベルに分解。そしてそれを硬く、軽い、誰も見た事も聞いた事もないお伽噺の中に出てくる金属、ミスリルへと再構成し獣の体へと上書きする。


 念じる事およそ3秒。

 電気を伴う光に包まれた後、俺の姿は獣化態へと変わり走り出す。


「うーん、3秒か。まだ上書きのスピードがスムーズとは言い難い……はぁ、練習あるのみだな」

 

 病院の出入り口には目もくれず跳躍し出入り口屋根の上に飛び乗るとそのまま壁面を走り屋上へと進む。

 匂いはまだ屋上から動いてない事から中へ入る前に余裕で仕留められそうだ。


 絶対の自信と共に牙を研ぎ澄ませ屋上に到着するとそこにはやはり死獣の姿があった。

 しかもその姿は風磨さんに見せてもらった画像と酷似している。


「やっぱり同じやつか。なら話を聞くためにとっ捕まえるーーて、人間相手なら出来るんだけど、意思のない畜生相手だと意味ないな」


 牙を剥き攻撃体制に入ろうとする。


 ーーしかし。


「!」


 屋上の扉が勢いよく開いたと思うとそこから突然現れた影によって死獣は突き飛ばされなす術なく屋上から落ちていった。


「……へぇ、思ったよりあっさり姿を見せたな」


 給水塔の上ら見えるのは間違いなく獣。

 しかし、ただの獣にあらず。


「出てくるなら中に入ってからだと思ってたぜ。何処の誰とも知らない電獣さん」


 こっちを見上げるのは美しい黄金色こがねいろの体に水色の瞳をした狐の電獣だ。


〜〜〜〜〜


「やっぱり出て来たね」


 スーパーの駐車場に停めた車にもたれ掛かりながらお汁粉を飲みながら翼はそう言うと隣に立つ弥勒は険しい表情を浮かべる。

 

「まさか本当に居ようとは……」

「だから言ったでしょう?死獣は私達電獣になった者或いはなるかもしれない人間を率先して襲うって」

「そうですが、それなら何故あれは爆発の時に姿を現さなかったのでしょう?」

「同じことを静希くんにも言ったけどそれは本人に直接聞いてみないとね。ただ……」

「ただ?」


 翼は少し訝しむ様に目を細める。


「これは想像なんだけど、もしかしたら、あー、まだ正体が分からないからあれって言うね。あれはさ多分だけどなってた思うんだ。獣化態に」

「ですがそれですと、彼は気づいたのではないですか?死獣の気配を察知する様に」


 弥勒のその問いに翼は当然の疑問だと言いたげに薄く笑う。


「そうだね。確かにそう思う。でもね。それがそうもいかないんだよ」

「と言いますと?」

「……不便な事に私達電獣が人間態の時に正確に察知できるのは死獣の気配だけなんだ。理由は知らないけどね」


 そう言って翼は空になった缶を弥勒に渡すと歩き出す。


「お嬢様……どちらへ?」


 弥勒は嫌な予感がし恐る恐る尋ねる。

 すると後ろを振り返った翼は子供の様にニヤリと笑いながら建物を指さす。


 それは病院。

 しかも今現在銀と正体不明の狐の電獣の対している病院である。

 

「今日は星が綺麗だからね。屋台でラーメンでも食べながら見ない?て、静希くんを誘いに行ってくるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る