episode13

 コンビニ爆発事件から翌日。

 俺は一限目の休憩時間になると学校の中庭にあるベンチへと向かう。

 するとそこには陽の光を気持ちよさそうに浴びる星宮の姿があった。


「随分と早いんだな」

「それは早くも来るさ。だって今日はこんなにいい天気なんだからさ」

「担任に腹痛いとか言って一限目をサボった奴が元気なことで」


 とまぁ、挨拶はこの程度にしてだ。

 時間もない事だし本題に入る。


「それでなんだよ。わざわざこんな所に呼び出して昨日事件について話があるなんて」


 重要といえば重要だが別に人目を避けてこんな所で話す必要はない。

 俺と星宮の席は隣同士であるのだし人に聞かれる心配も殆どないのだから。


 強いて言うならクラス一の美人とクラス一の根暗が喋っていて目立つ事だけが心配だが。


「うーん、話をする前に最終確認なんだけど……」

「なんだよ?」

「静希くん。今回の件本当に協力してくれるの?」

「なんだよ、またその質問か?」


 昨日も昼飯をファミレスで食べている時にも星宮は結構しつこく聞いてきた。

 まぁ、星宮自身としては風磨さんが勝手にやった事であるから気にしているのかもしれないが。


 だが最終的に決めたのは俺自身だ。


「昨日言った通りだ。受けた借りは返す。それに死獣が絡んでる以上は頼まれなくてもやるつもりだ」


 偽らざる気持ちを答えた。

 するとそれを聞いていた星宮は腕を組んで少し唸った後、疲れた様にため息を吐いた。


「……実はさ、今回の事件色々と面倒そうなんだよ」

「死獣絡みなんだしそりゃあ面倒だろう?」

「いや、死獣が面倒な訳じゃないんだ」

「どういう意味だよ?」

「……実はさ、あのコンビニの爆発事件について弥勒と桔梗に調べてもらって色々分かった事がある」


 もう分かった事があるとは随分と仕事が早い。性格は結構きついが流石は凄腕の人達。


「1つ、あのコンビニの爆発に使われたのはお手製の爆弾。2つ、その爆弾はコンビニ内四方に仕掛けられてて爆発すれば中に居る人間は爆風や何やらで確実に死ぬ」

「それはまた、手のこんだ……いや、え?爆弾?中に居る人間は確実に死ぬ仕掛け方?」 

「驚くのも分かるよ。何しろ静希くんは私と違って直で現場を見たんだしね」


 そうだ。

 コンビニに助けに入った俺は中を見た。

 吹き飛び燃えて滅茶苦茶になった店内。

 しかし、しかしだ……それでも店内に居た連中は誰一人死ぬ事なく生きていた。

 確実に死ぬ筈だったらしいのに。


「店の中に居た連中が生きてたのは偶然じゃない?」

「その通り……としか考えられないね」

「なら、あの爆発はなんの意味があるんだよ?」

「さぁ、そればっかりは犯人に直接聞くしかない……とまぁ、犯人がまず死獣じゃないと分かったところでだけどね」


 星宮は真剣な瞳で俺を見つめる。

 そしてその真剣な瞳の意味を俺は察していた。


 覚悟を問おうとしている。


 ここまでの会話から俺なりに察するにこの後星宮が言おうとしているのは間違いなくーー。


「犯人は間違いなく電獣だ」


 ……だと思った。


〜〜〜〜〜


 放課後俺は一人、花を手にある場所へやって来ていた。


 受付に事情を懇切丁寧説明すると受付は和やかに笑いながら了承する。


「ではこちらが面会される方々の病室番号になります。面会可能時間は30分になりますので、くれぐれも時間をオーバーしないようにご注意ください」


 言われなくても長居はしませんよっと。


 階段を上がり目的の病室前まで辿り着きドアノブに手を伸ばそうとした時、扉に面会謝絶の札がかけられている事に気づいた。


「……あんな事の後なんだし簡単に面会を許す訳ないよな。まぁ、入るんだけど」

 

 数回軽くドアをノックしてから俺は中へと入る。


 するとそこには三人の患者が居た。

 一人は男。俺になど気づかず眠っている。

 残りは男と女が一人ずつ。この二人は起きており突然入って来た俺を不思議そうに見る。


「よかった。思ったより元気そうで」


 何を言ったもんか分からず開口一番そう言うと女は怪しい奴を見るような目をしながら恐る恐る俺に尋ねる。


「えーと、君は、どちら様?着てる服装から考えると同じ学校の生徒みたいだけど……」


 そりゃあそういう反応になるよな。

 急に面識のない奴が訪ねて来たら。

 とは言え俺の方は一方的であるが知っているのだが。


「俺の名前は静希銀。クラスは違うけどあんたらとおんなじ1年生……あー、こういう言い方は恥ずかしくて苦手だけども、一応命の恩人ってやつかな?」


 言っていての恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じていると女と男は目を見開き慌ててベッドから立ち上がり俺へと駆け寄った。


「君が!私達を燃えるコンビニから運び出してくれたっていうのは!」

「助かったよ!君が居なかったら俺達はあのまま焼け死んでいた!本当にありがとう!」

「ちょっ、病人なんだから急に起き上がって走るな!傷にさわるぞ!」

「おっとと、ごめん。つい興奮しちゃって」

「だよね。まさか昨日今日で命の恩人が見舞いに来てくれるなんて思わなかったからさ!」


 ぐっ、な、なんだよ。どんだけ嬉しいんだよ?いくら命の恩人だからって普通初対面でこんな好感度高いもんなのか?

 くそ、人付き合い無さすぎてよくわかんねぇよ……。


 二人が落ち着くこと数分後。


「改めまして私の名前は鈴森杏すずもり きょう。助けてくれてありがとね」

「俺は佐々部陸ささべ りく。この恩は一生忘れない!」

「あー、はい……どういたしまして」


 すっかり疲れ切ってしまった……もう帰りてぇよ。


 この本音を口に出してマジで帰りたいところだがそうもいかない事情がある。


 チラリと視線をもう1人の方に向ける。

 さっきの騒ぎで起きたかと思ったが身動きひとつする事なく眠り続けている。という事は軽傷の店員だろう。 


「あー、唐突な話なんだが、俺が此処に来たのは事情があってな」

「事情?事情っていったい……」

「ああ、実は警察が妙な事を言うんだよ。あの爆発は事故なんかじゃないやら妙な生き物らしき影を目撃した……なんてさ。それで唯一無事だった俺が犯人の可能性があるだとかで疑われてるんだ」


 まぁ嘘だが。

 昨日の午前中までは本当だったけど今は星宮のおかげで無罪放免。


 しかしそんな事なんて知るはずも無い2人は俺に対して気の毒そうな反応をする。


「それは、気の毒だね」

「ああ、命懸けで俺達を助けてくれたのに犯人扱いだなんて」


 騙してる様で気がひけるな……でもまぁ、必要な事だし仕方ないよな。

 いきなり本当の事・・・・を言うのもあれだし。

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