episode12

 取り調べが再開する事50分。

 突然取り調べは部屋に入って来た別の警官により中断され俺は釈放された。


 理由は俺が無実である証拠が出たからだとか。だが不思議な事にその証拠が何かを聞いても誰も答える者はなくただ顔を引き攣らせるだけ。

 はてさて、いったいどんな手を使ったのやら、想像するだけで肝が縮みそうだ。


「やあ、静希くん。出所おめでとう」

 

 警察署から出た俺を待っていたのはニヤニヤと笑う星宮だった。


「わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「そうだよ?嬉しいでしょう?クラスメートの美少女がお迎えなんて中々ないよ?」

「美少女と嬉しい云々は置いとくとして」

「え?そこ置いとくの?」

「迎えに来てくれたのは素直に嬉しい……ありがとう」

「お、意外に素直……いつものツンツンした感じがなりを潜めてる感じが相まって中々こう……ぐっ、とくるね」


 はぁ、何を言っているのやら。


 警察署からとっとと離れたい俺は歩き出すと星宮は俺の横について共に歩き出す。


 さてさて、これからまずどうするか。

 この時間帯だと学校にも行く気が起きないし、かと言って死獣が居た以上はとっとと家に帰るのも少し躊躇われるしーー。


「ごめんね」

「え?」


 横を歩いていた星宮急に足を止めてそう言い俺も足を止めて振り返る。


「最近弥勒が色々迷惑かけたでしょう?それに今の事も弥勒が姿を消さず警察に嘘でも本当でも証言していれば面倒な事はなかった。だから、ごめん」

「ーー」


 顔を見るとさっきまでの楽しげな表情とは違い本当に申し訳なさそうに顔を曇らせる星宮に俺は面食らい気づいた。


 どうして星宮が一人で来たのかと思っていたが、そうか俺に謝罪するためだったのか。

 しかも様子から察するに相当気にしてたんだな。


「気にするな」

「え?」

「今日の事は状況が状況だけに仕方ない。それと勧誘の件は星宮の意思に反しての行動だろう?なら星宮が俺に謝る事は何一つない」


 本心を言えば風磨さんが謝るのが筋。

 だがそう言ってしまえば星宮の謝罪を足蹴にするのと同じだし、なら俺は星宮の謝罪を受け入れ許すのが最良だ。


 しかしそれを中々受け入れる事の難しいのか星宮は目に見えた困った顔をする。


「い、いや、でも……どれも弥勒の責任だし……なら雇用主の私の責任でもあるし謝罪だけで済ませるのは……」


 やれやれ、面倒な奴。

 だがまぁ、人の上に立ってる奴なら仕方ないのかもしれないが。


 だがそんなのは俺の知った事じゃない。


「わっかんねぇ奴だな。被害者の俺がないと言えばない!気にするなって言ったら気にしない!それでいいんだよ」


 この話の肝心な事は被害を受けた俺がどう思うかであって星宮が自分を罰する事じゃないのだから。


「……無茶苦茶だね」


 星宮は目をぱちくりさせながら呆気にとられていた。


 しかし数秒後に星宮の顔は笑顔に変わる。


「でも、そうだね……うん。無茶苦茶な君だからこそ私にとっての唯一なんだろうね」

「それってあの屋上で言ってたやつか?」

「ふふ、さぁて、どうだろうね〜」

「?」


 意味がまったく分からない。

 だが意味を聞いてみたところでこの調子だとはぐらかされるだけだろうから俺は聞かない事にした。


「静希くん、時間的にお昼まだだよね?」

「ん?あー、そういえばそうだな」

「だったらさ、今からどっかに食べに行かない?私もまだなんだ」

「へぇー、そうなーー」


 何気なく返事をしようとした瞬間俺は内心でハッとした。


 そういえば星宮が今此処にいるって事は12時の船を待たず緊急の時にしか出ない連絡船に乗って帰って来たって事だよな。

 つまりは俺のせいで星宮は昼を食いそびれたって事で……。


 途端に申し訳なさが溢れてきた。


「……そうだな。どっかに食いに行くか」

「おっ、ノリがいいね」

「あんまり高い店じゃなかったら奢ってやるよ」

「気前もいい!どうしたの急に?」

「ただの気分。て、そんな事はどうでもいいから早く行こうぜ?あんまりのんびりしてると時間的に店が空いてるかどうか微妙だ」

「おっと、それもそうだね。じゃあ行こうか!」


 さっきまでの曇った顔は何処へやら、星宮は明るく笑いながら俺の手を引いて駆け足で進むのであった。


〜〜〜〜〜


 翼と別行動をとっていたポニーテールの長身美女の桔梗は顔を顰める。


「さて、着いたはいいけど予想以上の人混み……」


 視線の先には人、人、人。

 隙間などなく上からも覗き込む事すら叶わない人の壁。


 待てばいつかは散っていくだろうけど、お嬢様の命令である以上は悠長に構えて暇はない。


 桔梗は人混みから離れると数メートル先の路地裏に入り人の目がない事を確認してから建物の外壁へと飛び上がるとそこから家の屋根へと飛び移る。


「んー、思ってたより高いわね。でもまぁ低過ぎて見えないよりはいいか」


 そう言って桔梗の見つめる先には人の壁に囲まれる焦げたコンビニ。


「あれがお嬢様と風磨の言ってたコンビニ……」


 窓は吹き飛んでおり壁も中も黒焦げ。

 警察はこれをガス爆発による事故と断定した。だがそうであるとどうも納得出来ない点が桔梗にはあった。


「弥勒の言ってた死獣の存在がどうにも解せない。静希銀の話によれば死獣は店内に居たという。それにお嬢様の話によれば死獣は獲物を襲う過程で何かを壊す事はあっても何かを爆発させる様な知恵はない……」

 

 あまりにもおかしい話に桔梗は目を細める。


「だとすると犯人がいない事になる。それはおかしい。あれは明らかに人間が悪意を持って起こした爆発だ」


 確固たる確信から断言する桔梗。

 

 その理由は今立っている位置から見えるコンビニ。即ち建物のダメージだ。

 正面入り口と裏口に窓。

 そして極め付けは焦げて少し崩れた天井。


「あんな満遍ない壊れ方、ガス爆発じゃありえない。四方に爆薬でも仕掛けでもしない限りは……」


 だとするとこの事件は死獣とやらは無関係……いや、なら死獣はなぜ店内に居たって事になるし……完全な無関係と断定するにまだ調査の余地があるわね。


 スマホを取り出し桔梗は弥勒に調査続行のメールを送る。


「さて、弥勒の方は監視カメラの映像を見てくると言ってたからまだもう少し合流は無理そうだし、私はもう少しあの爆発跡を調べてみようかしら」


 そう言って桔梗はその場から飛び降り爆発跡へと走る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る